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エリー.ファー

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 暗号が並ぶ。

 誰も解くことができない。

 故に。

 ここから出られない。

 死ぬしかない。

 暗号に囲まれて死ぬ、自分という命。

 なんと無様だろうか。

 匣の中に閉じ込められている、と思っているが、それも勘違いかもしれない。

 意識があるだけで、体を失っているかもしれない不安に襲われる。

 今。

 私は。

 どこに横たわっているのだろうか。

 いや。

 そもそも、横たわっているのだろうか。

 寂しいではないか。

 余りにも悲しいではないか。

 自らの命の価値を、自らの手で定義できないという無力感。

 でも、良いのかもしれない。

 それが、本来の人間と言える。

 暗号を頭の中で浮かび上がらせては、砂のように消しても、そこに答えは現れない。

 潰えた人々の香りに慣れてしまった。

 もしも、狂わずに生きていけるのであれば、この匣を作った誰かよりも、きっと私に似合いの死が訪れるだろう。

 盛者必衰などない。

 当然。

 因果応報もない。




 死が僕を狙っているのだ。

 僕は殺されるだろう。

 暗号に殺されるのではない。

 僕が僕を殺すのだ。

 さらば、夢を語った世界。

 さようなら、夢の潰えた未来。

 暗号とはなんなのか。

 もう、考えたくもない。

 さようなら。

 さようなら。




 暗号を考えたのだ。




 暗号が必要なのだよ。

 分かるかね。

 人間を見つめてみるといい。

 あんなものは、暗号そのものだよ。

 残念ながらね。




 主人公が第一話で死ぬ物語を知っているかね。

 君の人生だよ。




 穏やかな口調に感じる。

 浅はかさ。




 どうか、僕を殺さないで下さい。

 暗号が僕を貫こうとしているのです。




 店の奥に死体を隠しましたね。




「不健康とレクイエムを一緒にしてくれませんか」

「これが真実だったら」

「えぇ、真実だったら答えを見つけたでしょうね」




「さぁ、物語が始まる」

「暗号を解いてみて下さい」

「やめて下さい。」

「いつまでも、いつまでも魔」




「そんなに真剣に解くようなものではないと思います」

「そう、説くわけですか」

「えぇ、仰る通りです」




「てゃ」

「何ですか」

「てゃ」

「何と発音しているのですか」

「てゃ」

「どういう意味なのか教えて欲しいのですが」

「てゃ」

「てゃ。あぁ、この発音ですね。よくわかりました」

「をぇ」

「もう一度、お願いします」




「閉じ込められてしまった」

「どこに」

「匣の中に」

「何が閉じ込められた」

「私の魂が」

「取り返せそうか」

「無理だ」

「諦めるな」

「しかし」

「何かを入れた匣は、何かを出せる匣だ」




「もしも、このまま誰も出て来なかったら」

「その時は、その時だ」

「無責任すぎますっ。多くの人の命が消えているんですよっ」

「しかし、これ以外に方法などない」

「私が、中に入ります」

「駄目だ。匣の外にいる僕たちには仕事がある」

「ですが、だからといって」

「匣は、何故、匣なのだろうな」

「は」

「何故だと思う」

「どういう意味ですか」

「匣が匣であると分かるのは、外から見ている時だけだ」

「中からは分からないのですか」

「匣の中から見ることはできない。暗闇が詰まっているからな」




「暗号を解くなんて、もったいない限りだ」

「一度解いたら解けなくなるからですか」

「いいや、解く時間がもったいない。暗号を解く必要もなく知ることができる情報がこの世の中には溢れている」

「そうでしょうか」




「暗号が持つ最も困った点はね。解いた先にあるものの価値を上げてしまうことだよ」

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