第11話 『破滅からは逃れられない』
ダイコクとミステリカが芋虫の怪物と戦っている姿は、はっきりとラナ達に認識されていた。
「アレは……!! 星だけでなく我々の船もスクラップにしくさりやがった忌まわしい化け物ではないか!! 消えてなかったのかね!?」
自身にとって信じられない、信じたくない光景を見たカルネラは思わず口調が荒くなっていた。
「タシかにショウメツしたハズだけど……」
(そ、それよりも……あの化け物を容赦なく噛み砕いているあのカラスの化け物も何だね!? あんなのもいるなんてこの世界は底が知れん!!)
「んー? 会った時から気になってたけど、あいつ……というかアレって魔物なのかしら?」
「シズル? なんでそう思うんですか?」
「どうも、あの芋虫って『こうありたい』っていう願望というのが感じられないのよね。」
「芋虫だから、そう見えてるだけ、じゃない?」
「まぁ確かに虫って何考えてるかわからないところあるわよねぇ」
直感で、芋虫のあり様を言い当ててるシズルだが、カルミアの言葉で考え直す。その間にも空からバキバキと、芋虫の砕ける音が聞こえていた。
(しかもこの悠長な会話! 空があんなことになってたら普通なりふり構わず回れ右だろうに!! 平然としているのはそれが普通だからかね!?)
普通、というわけではない。流石に空で巨大な怪物が2体もいて、それらが戦っていたら、魔物達は近寄らないように離れる。
ただし、それは落ちてきて下敷きになるのが嫌だから離れるのであって恐ろしさゆえではない。
今ここで起こっていることは異常は異常でも、ささやかな異常なのだ。
そしてラナ達はその怪物のうちの1体に用がある。だから離れないだけなのだ。
「————!!!!」
「ひょわぁっ!!?」
「うわっ!!」
「キュっ!?/きゅっ」
「うるさっ」
ミステリカが白い縄を出し、芋虫をぐるぐる巻きにした後、芋虫が咆哮した。
「びっくりした。ラナ、大丈夫? 『キュっ!?』て言ってたけど」
「聞いて——いやあなたもでしょう!? カルミアだって先程『ギュッ』って言ってたでしょう!?」
「わたしは濁点付けてないよ」
カルミアとラナが言いあっているのを見ながら、シズルだけ、何故か酷く懐かしい感覚があり、自身の体のある変化に気づく。
「さっきの咆哮で何かを付けられたわね。これは……私のと似てる……?」
(いや、というか……この感じは? なんでこんなに馴染み深く感じるのかしら……?)
奇妙な感覚がありながらも、ラナとカルミアに警告する。
「ラナ、カルミア。多分こっちにアレがくるわ。それも、多分一瞬でね。準備してもらえる?」
「え! あの芋虫がですか? しかも一瞬?」
「シズル、なんでそんなことがわかるの?」
「勘。とにかく用心して、貴女達の攻撃が有効だろうから期待してるわ」
それはまったく根拠のないものだったが、シズルは妙な確信があった。
ラナとカルミアはシズルが何故そのような確信を持っているのかわからなかったが信じてみることにした。
「カルネラもメテットも! 一応備えておいて。救命キューブだっけ? 守ってあげなさいよ」
「いやまず来るのかね? なんの根拠もないし、どこから来るかもわからないんだろう?」
「来るわよ。多分貴方の方に」
シズルはカルネラを指差した。
「嘘でしょ? 指名されてしまうレベルなの?」
思わぬ絶望にカルネラは動揺する。その間にも、ダイコクは芋虫の上顎を破壊していた。そして芋虫は唐突に姿を消す。
そして黒いモヤがカルネラの近くに滲み出る。
それをシズルは見逃さなかった。
バチン!!
シズルは大きな釘の頭部で黒いモヤから出てきた芋虫を叩き潰した。
芋虫の上半分が文字通りぐしゃぐしゃとなる。
これが一瞬のうちに行われたのでシズル以外からはいきなり割れるような音が鳴ったかと思えば芋虫が潰れていたという、スプラッタな状態である。
「んなっ!? 何が起こって、なんだねそれ!?」
半ば液体化しかけてるそれを見てカルネラは驚き飛び上がる。
(っ……アブない! アヤうくカルネラにカッコワルいとこミられるとこだった!)
メテットもギョッとしていたが、すんでのところで飛び上がるのを堪えたようだ。
「これ……先程まで空にいたやつですか? どうも大きさが違うような……」
「確かにかなり小さいわね。大きさとかいじれるのかしら?」
「なんにせよ焼いておこう。ラナ。焼こ?」
「そうですね。動けない今のうちに……」
『やはり理解しているな? コレがどのようなモノなのか。お前の内にも“破滅”があるからか?』
「え?」
その声はシズルにしか聞こえなかった。
芋虫の頭は今黒い液体となっている。その液体の中から無数の目が浮かび上がっているのに気づいたのはシズルだけだった。
『ほう、これは実にいい。自分の役割を思い出せ。島崩しの悪女よ』
心臓の鼓動が早くなるような感覚に襲われる。
今の
(こいつは私の見てはならないモノを見ている)
『お前はただ、ただ、滅ぼすことしかできない女だろう?』
シズルは黒い液体に釘を刺し、あらん限りの魔力を込めて、芋虫を巨大な釘に変えた。
まるで全てを塗りつぶすかのように。
「シ……シズル……!?」
ラナだけ、シズルの様子がおかしいことに気づいていた。いきなりそうなったことと、シズルの黒い雫が零れた顔を見たことでかなり動揺してしまい、炎が漏れては散っていく。
(なんて暗い、あらゆる光を飲み込んでいるかのような目をしている……目の前の釘以外のものが無いかのように、ただ釘だけを睨んでいる)
「……ラナ? ごめんなさい、驚かせたわね」
すぐにシズルは元に戻った。いつもの、ラナの友達であるシズルの顔に。
(だったら……シズルのあの顔は一体なんなのだろう)
ラナは一瞬そう考えたが、シズルが今まであえてこの貌を隠してきたとするなら、とも考えて。
追求するのはやめることにした。
吸血鬼ラナは旅をする 第1部 貴田 カツヒロ @K_katsuhiro
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