夢花火
ひみつ
本文
数千年前、とある科学者がとある場所で、魔法を開発した。ただ、魔法を使うには、とある媒体が必要とされた。その媒体は魔法を駆使する人によって違う。例えば杖、例えばお箸、あるいはフォーク。この発明によって人々の暮らしは大きな影響を受けた。
そして、魔法学を学べる学校にとある少年が、いや生徒が居た。魔法学の実習になると、いつも隅っこで独り指示された魔法を練習していることで少年には友達がいない。さらに、少年は魔法をあまり上手に使いこなせない。最も簡単に魔法を発動させる同級生達とは違い、少年はあまりにも能力が不足している。
ところがある日、いつものように隅っこで魔法の実習をしている中、少年が魔法を発動させるための媒体であるペンをクルッと手の中で一回転させた途端、その周りで三色程の火花が散ったのだ。少年は試しに、先程よりも派手な回し方でペンを手の中で操ってみた。
ペンが踊り出したかのようなその姿に反応し、実習室に大きな花火が打ち上がった。緑と紅の大きな火の花が雷鳴のような音と共に咲くと、同級生や教師は少年の魔法に思わず見惚れてしまった。
星が綺麗に輝くその日の夜、少年は街の中でペンを走らせる。少年は絵を描くことが好きだったのもあってか、空中に絵を描くとその絵の形をした花火が夜の空に打ち上がること知ってから街中を駆け回っては絵を描き続け、共に雷鳴の音が鳴り響いた。
緑、紅、青、黄、紫。多彩な色で、魔法が使えなかった少年は暗い夜を鮮やかにし、何事かと外に出てきた人々の心に光を灯した。大好きな絵が空へと打ち上がり、人々の心にその光が届く。少年はこれまでにない幸せを感じていた。決して覚めることのない夢であってくれ。
そう、少年は願いながら最後の絵を打ち上げ――。
少年が目を覚ますと、少年はシャープペンを左手で握りながら机に突っ伏していた。魔法なんてものはない、現実世界に戻ってきていた。
ため息を吐き捨て、つまらない数学の授業中に教室の隅っこで少年はペンを一回転させる。
その時、少しだが少年の周りで火花が散っていたのを目にした隣の席の少女は、目を擦った。
夢花火 ひみつ @himitu0303
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