4. Απολεσθέντα Παράδεισο 

 それは、以前Ωに折られた僕の肋骨と培養液「母なる生命ニン・ティ」が反応して生まれた。


 肉体を具えた「母なる生命」だった。


 Ωが出ていった後、僕は残りの培養装置と培養液で「僕の子供」を造る事を試みた。

 Ωは出て行く時にΩ自身の遺伝子情報も持っていってしまったから、僕は僕の遺伝子情報とニン・ティだけで子供ができないかと試してみたのがきっかけだった。


 結論としてはそれは可能だった。

 いや、寧ろ成功とさえ言っても良かった。


 僕の肋骨は今までにない速度で変形、増殖すると女の形をとった。

 それは艶やかに波打つ黒髪を持ち、目鼻立ちの通った美しい姿になった。


 しかも、それはそれ迄の360の子等よりも早く成長し、数値上は培養装置から出す事さえ可能になったのである。


 僕はこの子に、僕と同じΑとしてアダと名付けた。

 数値上は問題ないとはいえ、僕は暫くアダを培養装置の中に置き、様子を見る事にした。


 アダはスクスク成長すると、遂には此方を認識する様になり、僕に向かって手を伸ばしたり、微笑む様になった。


 そしてある日、僕を見ていたアダの口が「アバ」と動いたのを見た時、僕はアダを培養装置の外に出す事を決意した。


 そして遂にその日。

 培養装置の蓋を開けたその時、Α遺伝子の雫が垂れ、培養液ニン・ティの水面は波打ち、歪んだ僕の顔を映す水鏡となった。

 その水鏡の奥から影が迫り上がってくると、黒髪の女が顔を出し、僕に手を向けた。


マァ!」


 アダはそう叫んだ。


 僕は微笑み、アダの手を取り、抱き寄せると、アダの頭を支え、アダの目を見る。


アバだよ」


 アダの温かく柔らかい体が心地よかった。


 そこからは大変だった。

 アダは身体こそ成人に近いとはいえ、当初は歩く事も喋る事もできず、感情は剥き出しで理不尽の塊だった。


 いや、今までの経験で言えば、女なんて皆こうなのかも知れない。

 それが仮令僕の遺伝子からできているのだとしても。

 ただ不思議とアダには嫌悪感を抱く事もなく、そのわがままも愛おしく思えて受け入れられた。


 そうこうする内にサバオートは目的の星の衛星軌道近くまで辿り着き、船内でもそれなりの時間が経った。


 その間にアダは脅威的な成長速度を見せ、身体運動は勿論、言葉を理解し、会話もできる様になった。

 更に、生殖器も成長し、人間の女と同じ様な困難せいも抱えてしまった。


 ただ、それ以上に情緒の制御が上手くなり、僕がこれまで見てきた女とはまるで異なる落ち着きを見せるに至った。


「ご覧。アレが今度僕達が降りる新天地だよ」


 僕は中央のモニタにその姿を映す。


「あそこには、先に降り立ったΩとその360の子等が既に生存拠点を築いているかも知れない」


 僕はそう云うと、アダの方を振り返る。

 そこには、美しい女が微笑んでいた。


「でも、僕達は僕達で、この楽園エリュシオンを出て、困難溢れるあの地を共に補い充していこう」


 僕の言葉にアダは頷く。

 新たな星を見つめて。

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