第46話 ヴァンピール・ド・ヴェルジー
魔王との戦いは一進一退だった。
こちらの攻撃が通ればあちらの攻撃が通り、文字通りの泥仕合だった。
後ろではまだ魔力を貯めているセイリンがいる。
それを守るように皆がいるはずだ。
怖くて振り返れないがその存在を確かに感じる。
「この程度か! 所詮人間の血も吸えん愚かな吸血鬼よ! さっさと平伏すがよい!」
「ふざけたこという。ただ堕落したものに負ける理由などない!」
お互いの爪と爪がぶつかり合う。
戦いは互角、そうなれば必然と決まるのはこちらの勝利。
こちらには聖魔法の打てるセイリンがいるのだ。
「いけます!」
セイリンの大きな声が聞こえた。
そうか、これで終われる。
俺は魔王の攻撃を躱し全身を羽交い絞めにする。
「さあ! 打つのだセイリン! ここで全て終わりにする!」
俺は自分にも当たるのを承知でセイリンに向かって叫ぶ。
「
先程より大きな光の光線が二人を包んでいく。
熱い。
痛い。
激痛に耐えながら俺はバックから銀のナイフを取り出す。
「これで、終わりだ!」
身を焼く様な光を浴びながら魔王の心臓へとナイフを突き刺す。
魔王は声もなく、灰になり消えていった。
[あっけなかったな]
[これで終わり?]
[聖魔法強すぎ]
[ヴァンピ大丈夫か?]
そして俺は全身ボロボロになりその場に倒れ伏した。
「主!」
「ご主人様!」
ハクとシルバーが寄ってくる。
なに、この程度すぐ、……あれ?
なんか力が入らない。
(
ヴァンピ!? 心のヴァンピじゃなくて本物のヴァンピか?
なにやってんだよ、いたんなら返事くらいしてくれていいのに。
(少しな、人の世というものを楽しんでおったのだ。なに、もうその役目も終えたようだ)
何を言ってるんだ?
これで吸血鬼の真祖は倒した。
魔王も倒した。
これで全部うまくいった。これからは楽しく生きていけるじゃないか。
(お主は知らぬかもしれぬが、我の寿命はもう尽きるのだよ。人間の血を吸わなくなってからこうなることは分かっていた。)
そんな! これからだろ!
お前は平和を守る、真なる吸血鬼だろ!
ほら、ユウトやセイリンもいるし、これからはもっと活動しやすくなるぞ。
「ヴァンピさん……」
ユウトがこちらに近寄って剣を向けてくる。
「……どうした?そのようなものを我に向けて」
「貴方は、吸血鬼なんですよね」
「そう、だが?」
「なら、倒さなくてはいけないです」
ユウトの手は震えていた。
おいおい、そんなんで俺を殺せるのか?
というかやめてくれよ。
もうすでに死にそうなんだが?
(人と吸血鬼は相容れぬもの、許容されるものではない)
でも、短い間だったけど、こいつらとは仲良くやれたんだぞ。
吸血鬼だからって、殺すなんて間違ってるよ。
「やめましょう、ユウトさん」
セイリンが震えたユウトの手をそっと止めて剣を降ろさせる。
「もう、手を下さなくても、ヴァンピさんは死にます。それに彼は吸血鬼でしたけど、私たちの仲間でもあるでしょう」
「……そうだね、僕達は確かに仲間だった」
そうだよ、俺達は、仲間だ。
そしてこれからも仲間として生きていくんだろ。
(すまないな、正、お前に辛い役目を背負わせてしまって)
何言ってんだ!
俺はよかった! あっちであのまま腐ったような生活をしているよりも、短い間だったけどここで暮らした日々は間違いなんかじゃない!
でも……、ここで終わるのは悔しいな、まだまだしたいことたくさんあったのに。
(それはハーレムでも作るのか? ハハ、我と共存して生きていくことなど出来はしないのに)
それはどういう……
(魂が正しいところに導かれていくということだよ)
俺はその言葉を最後に意識を失った。
「今日も我を見に来たのか、暇な奴らよ、今日も敵を倒していく、よく見ておくといい」
俺はあの日から現実へと戻っていた。
あちらのヴァンピがどうなったかは分からない。
ただ分かっていることは、俺はヴァンピール・ド・ヴェルジーとして間違いなくあの世界で生きてきたということ。
そしてヴァンピもまた
彼が何を感じて、何を思っていたのか、すべて分からない。
ただ俺に出来る事、俺の手の届く範囲でいい、そこが俺の世界なのだから。
今日もまた俺は配信をつける。
もうヴァンピはいない、突発配信もない。ただここにはいる。
「我はヴァンピール・ド・ヴェルジー!平和を守る、真なる吸血鬼なるぞ!」
吸血鬼Vtuber、設定された世界に転生してしまう~異世界でも配信されてバズってるんだが?~ 蜂谷 @derutas
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