第45話 魔王戦

 俺が勇者ユウト聖女セイリンとハクとシルバーの四人と一匹で旅を開始して数日、俺はすることがなかった。


 戦闘は大体ユウトとハクとシルバーがこなしてくれる。

 その方が成長するし、なによりセイリンの守りとして俺はいればいい。


 セイリンは強力な聖魔法を使える。

 別に他の魔法を使えない訳ではないが、いざというときの為に待機してる。


「暇ですね」

「そうだな」


 俺は前で戦っている皆を見つつセイリンと話をする。

 正直聖魔法打てる奴の側にいるの怖いんだけど、まあ吸血鬼だとはバレてないし問題ないと思うようにしている。


 


 それからも旅は続き、各地で起こる魔物の被害に対処したり、魔族と戦ったりした。

 配信はなかった。

 デビアイちゃんは後ろからずーっとついてくるだけで何も言わなかった。


 吸血鬼ヴァンピール・ド・ヴェルジーとしての活躍は一切なかった。

 そもそも三本角の魔族を倒せる俺がいるのだ。

 そこにさらに仲間が加わり、ほぼ最強となったパーティーに太刀打ちできるものなど存在しなかった。


 魔王側は連携が取れていないのか、敵との遭遇は散発的で特に魔族は一体ずつ行動しているようで数的有利を常に取るような感じだった。


 苦戦という苦戦を経ることなく、俺達は数か月かけて目的の魔王の住むと言われる城に到着した。



「ここが、魔王のいる城……」

「雑魚は任せておけ、お前達は魔王の元へと急ぐがよい」


 ついに魔王のいると言われる城へと辿り着いた四人と一匹。

 半開きになった城門を潜り、重厚な扉の前と辿り着く。

 まあこういうところは脇に人が通れる扉がついてるもんだよね。


「こちらの扉から入るぞ」


 あったあった。

 そりゃいちいちでかい扉開けてなんかいられないよね。

 俺達は城の中へと侵入した。


「誰も……いないな」

「ふむ、どうやら魔王は一人が好きなようだな」

「油断は出来ません、警戒して進みましょう」


 セイリンの言う通りなんだけど、全然生活感がない。

 ヴァンピの記憶にある廃墟の城みたいな感じ。

 本当に魔王いるのかなあ。


「早く、戦いたい」


 完全に戦闘狂いになったハクは戦いに飢えている。

 強くなったのはいいけどなあ。


 慎重に奥へ奥へと進んでいくが、敵とは遭遇しない。

 そして最奥っぽいところへと辿り着いてしまった。


「この扉が最後でしょうか」

「まだ開けてないのはここだけだね」

「―――このプレッシャー、どうやら当たりのようだな」


 とか言ってみたり。

 実際なんか圧は感じるよね。


 ぎいぃと軋む扉を開けた先に、くたびれた椅子に座る人影があった。


「待ちかねたぞ、聖女、それに、ヴァンピ。いやまさかこの二人がいるとはな」


 ユウトとハクは無視か、しかし二人がどうしたって言うんだ?


 すると魔王と思わしき人物が立ち上がり、両手を広げ俺達を歓迎する。


「我こそが魔王、なるぞ!」


 !!! 今なんて言った!? ヴェルジー!? 真祖!?

 ということは、すべての元凶の子であり、そしてそれに連なる吸血鬼、それがヴァンピ……。


 衝撃の事実に俺は思考がまとまらなかった。


「それがどうした! お前を倒せば世界は平和になるんだ!」

「わざわざ素性を明かすなど、随分余裕ですね」


 ユウトとセイリンが魔王の叫びに答える。

 俺だけが、その場で固まっていた。


「ククク、滑稽なものよ、まだ気付いておらんとはな」


 魔王が俺達に向かって笑っている。

 その笑いの意味を知るのは俺だけだ、正確にはハク達も知っている。


 俺が吸血鬼であること。


「ここで散れ! 魔王!」

「魔力を練ります、援護を!」


 ユウトとセイリンは戦闘態勢へ移行し、魔王に向かって駆け出していく。


 俺はそれを見送りながら急かすように言う。


「……ハクもシルバーも早くいくんだ」


 二人は俺を見送りユウト達のあとを追っていく。


「配信を開始します」


 今まさに、世界の運命を決める戦いが始まろうとするとき、黙っていたデビアイちゃんから最後の通告が行われる。


 なんとなくだけど、これが最後な気がする。

 そう感じていた。


[ヴァンは~]

[久しぶりの3dだ]

[最近のベロラント強くなったよね]

[もうないかと思ってた]

[なんか仲間増えてない?]

[男の子と女の子知らない子だ]


 そうそう、こうやって流れてくるんだよ。

 久しぶりで少し驚いてしまった。

 俺はいつもの挨拶から始める。


「今日も我の姿を見に来たのか、暇な奴らよ。今から魔王を打倒する。よく見ておくといい」


[魔王戦来たー!]

[ラスボスか]

[ついに終わりか……]

[でも変身しないの?]


 俺はいつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面に変身、しなかった。


「なに、必要はない。我には強力な仲間たちがいるからな」


 俺はそう言って皆に遅れて戦線へと加わる。


 そこではすでに魔王と皆との戦いが続いていた。


 ユウトの剣とハクの拳、シルバーの噛みつきによって魔王には手傷を負わせることは出来ている。

 そこに俺も加わりさらに強烈な攻撃を繰り出す。


 しかしこちらの攻撃が通っても魔王にすぐに回復されてしまう。

 あいつの自己再生能力が高すぎる。


 苦戦している俺達の後ろからセイリンの聖魔法が飛ぶ


神の裁きジャッジメントセイバー!!」


 その攻撃が魔王に当たり、肉の焦げた匂いが広がる。


 やったか!?


 そういうときは大体やれてない。

 セイリンが叫ぶ。


「―――っ! まだです!次はもっと魔力を練ってからいきます! それまで耐えてください」


 再び魔力の溜めに入るセイリン。


 そしてその言葉通り、ゆらりと立ち上がる魔王がそこにはいた。

 その体は全身が焼けているものの、ジュクジュクと再生している。


「これでは足りないか、下がれ! ユウト、ハク、シルバー、我が相手をする!」


 魔王相手にすでに満身創痍になっている皆を下げ、俺が前へと出る。


 ここは一つ最強の吸血鬼の姿をお見舞いさせますかね。


「皆の者、我の姿を今一度見るがよい!」


 そして俺はいつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面に変身した。


「我はヴァンピール・ド・ヴェルジー! 平和を守る、真なる吸血鬼なるぞ!」


[登場きたー!]

[え?いいのここで変身して]

[バレてね?]

[いいの?]


 いいわけあるか!

 こうでもしないと勝てないんだよ!

 後ろは振り返らない。

 こうなってしまった以上こいつを倒して終わるしかない。


「貴様一人で我に勝てるとでも? 我がどんな存在かわかっておろう?」


 再生を終えた魔王が話しかけてくる。

 そうだな。

 俺一人なら勝てないかもしれない。

 でも俺は一人じゃない。

 後ろで心強い仲間たちが待っている。


 ならお前程度相手に出来ないはずがないだろ!


「見るがよい! 人を襲うことしか出来ない哀れな吸血鬼には出来ぬ真の姿、その眼に焼き付けるといい!」


 俺はその場で真の姿へと変身する。

 その姿は全身黒のボディスーツにいつもの仮面、シルクハットの帽子を被っている。


[ダサイやつw]

[草]

[でもこの姿が一番強いんでしょ?]

[大丈夫そ?]

[何回見ても笑える]


 コメントは気にしない。

 俺は最強の力を持って魔王に立ち向かう。


「なんだ……この圧力は、お前はもう死にぞこないのはず……」


 何を言ってるんだ?

 俺は元気だぞ、今もこんなに力があふれているじゃないか。


「恐れよ! 我を! 何苦しませはせん、介錯人は後ろにいるのでな」


 それでも後ろは見ない。

 一体ユウトとセイリンはどんな顔をしているだろう。

 でもそんなことは関係ないのだ。

 ここで魔王を倒すことが俺の終わりなのだ。


 終わり……?

 なんでそんなこと考えるんだろうか。

 これからまだまだ俺は生きるんだぞ。

 心のヴァンピがまた何か言っているような気がした。

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