最終話.リバウンド
県大会決勝。場所は県立総合体育館。大歓声の中、私はそのコートに立っている。
学校から結構距離があるにもかかわらず、決勝が行われるこの体育館にたくさんの生徒が駆けつけてくれた。それだけみんな私たちに期待をしてくれているのだろう。
試合は第三クォーター終了時点で四点差。ここまでほぼ互角。残すはあと最終第四クォーターのみ。そこで勝敗が決まる。
左手首の怪我はどうにか治り、私はこの決勝に幸い出場することができた。いや、部長の美波を始め、チームのみんなが必死に戦い勝ち進んでくれたおかげ。本当に感謝しかない。
久しぶりの試合で不安はあったけど連携は問題ない。これまで培ってきた絆があるし、それにあの日以来、監督にお願いしてできる範囲で練習に参加させてもらっていた。監督は私の顔を見て「もう大丈夫そうね」と一言だけ。きっと私のことを信じてくれていたのだと思う。
相手は長年のライバルの
今日もここまでリードはしているけど、このまま終わる相手じゃない。とはいえ、絶対に勝つ。でもまずは、チームメイトにも監督にも、そして応援してくれているみんなにも報いるプレーをしようと思う。
それに……、それに裕太もあそこで見てくれている。
――私たちはあの日、結局よりを戻さなかった。
しばらくブランコを漕いでいた裕太は、徐々に漕ぐのを止めると言った。もう私の過去については気にしないと。
そもそも、嘘をつかれたことに怒っていたのであって、昔のことは大したことではないと。美波のことは、すごく驚いたけどよく分からないと言っていた。まぁ……、そうだよね。
そして、私が彼に嘘をついていたこと、彼が私を信じなかったことは、お互い許し合おうということになった。
これで私たちの間にはもう障害はなくなり、前と同じように付き合っていける。いや、むしろ以前よりも絆が深まったんじゃないか、そう思っていた。けれど、そんな私の期待とは裏腹に、復縁という話にはならなかった。
話が終わると彼は「じぁあね。練習頑張って。試合、観に行くから」、そう言って立ち上がった。私も後を追うように立ち上がると、背を向けた彼に尋ねた。
「待って、裕太。私たち……、私たち元通りなんだよね?」
彼は一瞬驚いた表情を見せると、辛そうな顔で目を伏せ首を横に振る。
「えっ……、どうして?」
やっぱり
彼は顔を上げると、寂しげな目で明かりが灯った街に目をやる。そして言った。
暴言を吐いて私を傷つけたことは許されることじゃないと、だから復縁はしないと。それに、この先また何かの切っ掛けで、感情的に怒鳴ってしまうんじゃないかと。
きっと今回のことで彼は、今まで知らなかった自分の一面を知って、そんな自分を恐れているのだと思う。確かにあの時の彼は別人のように冷たかったし、本当に怖かった。私も彼の言葉で深く傷ついたのも確かだ。
でも私は、あの時の彼の言動は私への愛情の裏返しだったと思っている。私のことをとても愛してくれていたからこそ、裏切られたと思い言った言葉なのだと。私だって逆の立場だったら、そうなっていたかもしれない。
そう彼に伝えたけど、彼は決して首を縦には振ってくれなかった。ただ困ったように微笑んでは「ごめん」って言って横に振るだけ。
その辛そうな姿を見て、これ以上彼を困らせてはいけないと思った。だから私は仕方なく別れを受け入れた。
そして彼は最後に「これからも花蓮の一番のファンだから。いつも応援してる」、そう言って去っていった。
突き放したくせに、まったく勝手だよ。そう言われちゃったら頑張らないといけないじゃない。
公園に一人残った私は、自分でもビックリするくらいたくさん泣いた。一生分泣いたんじゃないかって思うくらい泣いた。
私、ずっと自信がなかった。いつも男子に揶揄われてる私じゃ、素の自分じゃ駄目なんじゃないかって。だから、あんなに嘘告を嫌っていたのに、咄嗟に嘘をついてしまった。
なんでこうなっちゃったんだろ。馬鹿だ私。
これでこの恋は終わり。彼の優しさや温もりが恋しく、彼を失った悲しみから止めどなく涙があふれた。
喉が渇くほど泣いて、泣き疲れて、私なにやってるんだろって
そして気づいた。
私は心地よい彼との時間を早く取り戻したくて焦っていたことに、私の想いだけで彼の気持ちを考えていなかったことに。彼は私を許してくれた。でも、彼はまだ自分を許せていない。
いつ彼が自分を許せるようになるのかは分からないけど、いつか彼に伝えるつもり。去年言えなかった言葉を、今度こそちゃんと私から。
それまで……、ううん、私はもう告白は受けない。だって必要ないもん。それに嘘告や嘘はもう十分。
裕太、私諦めないから!
でも、まずは目の前の試合。集中! 集中!
最終第四クォーター、残り一分弱。リードはしているけど点差はたったの二点。
スローインから相手の執拗なディフェンス。疲れと勝利へのプレッシャーから浮足立つチームメイトに美波から指示が飛ぶ。
「はーい! みんな足使ってカバーしていくよー! 大事にねー!」
ベンチからはチームメイトの息の合った掛け声が私たちを鼓舞し、会場からは割れんばかりの声援。ちらりと見た会場の最前列、裕太が必死に応援してくれているのが見える。
狭いコートに敵味方が縦横無尽に入れ乱れ、そして時間ギリギリ、いくつもの手の間からシュートが放たれた。私はボールの行方を確認しながらゴール下に陣取る。これが決まればほぼ試合も決まる大事な一本。しかし、跳ね返ったボールは惜しくもリングに弾かれた。
おっしゃー! 絶対に取る!!
落ちてくるボールに向かって飛び上がると、私は必死に手を伸ばした。
嘘告から恋は始まらない 瀬戸 夢 @Setoyume
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