240 『夢見の小路』★


「よしっ、次は魔法雑貨店だなっ!」


――『夢見の小路ゆめみのこうじ


 店の外観は、古びた小屋のような趣がある。

 壁は年季の入った木材で作られ、所々に苔が生えていた。

 入口には月と星を象った小さな看板が風に揺られ、独特の雰囲気を漂わせている。

 店先に置かれたランプがかすかな光を灯し、柔らかい明かりを投げかけていた。


「雰囲気あるなぁ!!」

「素敵なお店!」

{こちらも隠れた名店かもしれませんね}


 ドアを開けると青白い光が出迎え、店内はまるで夢の中にいるような幻想的な空間だった。

 天井は低く、棚には様々な魔法道具や古書、星をかたどったランタンが並んでいる。

 壁には星屑のような装飾が散りばめられていて、空間全体が静かに輝いている。


「いらっしゃいませ……」


 かすれた声が店の奥から響き、一行はそちらに目を向けた。

 小柄なヒューム族の老人が、しっかりとした足取りで立っている。

 腰は曲がっているが、その動きには年齢を感じさせない軽やかさがあった。

 もこもこした白髪の頭と深い皺に刻まれた優しい笑顔が印象的だ。


 彼は静かな眼差しを一行に向けながら、優しく微笑んだ。


「……おお、珍しいお客じゃ。さあ、今日はどんな夢を探しに来たのかな?」


 店主は静かに一行を見つめながら、穏やかに問いかけた。


「癒しのスクロールは取り扱っていますか?」

「……うむ、初級と中級があったはず。どれ……これじゃ……」


 引き出しから取り出したのは古めかしいスクロール2枚。

 初級は400中級は1,500ルース、中級は初めて購入するが、軽度の骨折にも効くらしい。


「おおっ! 両方買います!」

「うんむ……新進気鋭の冒険者とお見受けしましたのじゃ。どれ、冒険に欠かせない逸品はいかがですかな?」


 店主の目がキラリと光ったかと思うと、なにやらごそごそと棚を漁り始めた。

 そしていくつかの品をカウンターの上に次々と置いていく。


{{商機と捉えられたのでしょうか……}}

《ははっ、かもな。まぁ見てみようぜ》


「これはのぅ、『夜目の瞳石やみよのとうせき』。これを持てば暗闇でも目がきくようになるんじゃ。夜間の探索や洞窟の冒険にうってつけじゃぞ」


 ロランは手に取ってみたが、リサが少し首を傾げながら言った。


「うーん、確かに便利だけど、さっき買った闇視のポーションがあるし……」

{{効果時間の面で優位性があるのかもしれませんね。ただ、今のところ必要そうではありません}}


「そ、そうか……ではこれじゃ、『静音の靴』! これを履けば足音が全く立たなくなる。隠密行動には最適じゃ」


 リサは興味深そうに靴を眺めていたが、ロランは静かに考え込んだ。


「確かに有用ですけど、今のところ隠密の必要がある場面がないな……」


 店主は少し悔しそうに鼻を鳴らしつつ、次の品を示す。


「では、どうじゃ! この『月光の短剣』。月の光を集めて輝き、夜戦で大いに役立つはずじゃぞ!」


 ロランは短剣を手に取り軽く振ると、刃が微かに光を帯びた。


「そもそも夜は戦わないようにしてるし……」

{{わたしがいれば不要です}}

「綺麗ね!」


 リサも一応は短剣を覗き込むが、物珍しそうにしているだけだ。


「むむむ……それでは、これはどうじゃ! 『風切りの外套』。風をまとって敵の攻撃をかわしやすくなる魔法の外套じゃ! 逃げるときにも有効じゃぞ」


 リサは手に取って軽く揺らし、その軽さと風の感触に少し感心した。


「これは確かに良いかも……!」

{{影の鱗蛇アンブラルスケイルの外套を作る予定ですし……}}

「……外套はもう間に合っているんですよね」

「そうなんだ……」


「な、ならばこれじゃ! 最後に『流星の腕輪』! 魔法が込められた装飾品で、念じれば光の矢を飛ばすことができる! 戦士の奥の手となるはずじゃ!」

「綺麗な腕輪っ!」


 リサが目を輝かせ、腕輪をのぞき込む。

 ロランも慎重に腕輪を見つめ、少し考え込んだ。


《銃があるからなぁ……》

{{興味深いですが、今回はパスで}}


「……今のところは必要なさそうです」


 あっさりと突き返され、店主は明らかに悔しそうに肩を落とした。

 自慢の品々が売れなかったことに、少し傷ついたような表情を浮かべている。

 しかし、すぐに何かを思いついたように目を輝かせ、再び棚の奥から大切そうに古い本を取り出した。


「ふふふ……これを見てくれ! 水の初級魔法書と、雷の中級魔法書じゃ。……著者は誰だと思う? 『フェン先生』じゃ! 彼女は今、魔術師ギルドの校長でのぅ……立派な先生じゃ! おぬしらもフェン先生のことは知っておるか?」

「フェンディリア校長ですよね。実はこの前、彼女の講義を聞きましたよ」


 ロランが答えると、店主は目を輝かせてさらに問いかける。


「ほう! すごかったじゃろう? 彼女の講義は圧巻じゃったろう?」

「確かにすごかったです。でも、実はたまたま聞けただけで……」


 ロランは控えめに答えると、店主は曲がった腰を反らして驚いた表情を見せる。


、じゃと? いやいや、そんなことはないじゃろう。フェン先生の講義なんぞ、そう簡単に聞けるものではないぞ。おぬし、かなりの実力者なんじゃろう?」

「いえ、本当に運が良かっただけなんです」


 ロランは苦笑しながら手を振って否定した。


「ふむ……まあ、運も実力のうちじゃな。何にせよ、羨ましい限りじゃ」

「はい、本当に素晴らしい講義でした。でも、そんな立派な先生の魔法書、いくらなんですか?」


 ロランが話題を変えると店主は少し得意げに、片眉を挙げた。


「水の初級魔法書は2万ルースじゃ。雷の中級魔法書は……11万ルースじゃ」

「さ、さすがにそれは……手が出ません」

「そうじゃろう、そうじゃろう……」


 店主は妙に嬉しそうに頷くと、本を大事そうに棚に戻した。

 その様子を見て、エリクシルがクスクスと笑い声を立てる。


{{……多分、自慢したかっただけなんでしょうね}}

《俺もそう思った》


「じゃあ、代わりに魔石を少し見せてもらえますか?」


 店主はロランが魔石を選んでいる様子を、少し不思議そうに見つめていた。

 彼は慎重に、だが確実に、粗石や土の魔石を選んでいく。

 普通の冒険者なら見向きもしないような石にも、何か価値を見出しているようだ。


「ふむ……なぜそんなに粗石を?」


 ふと、店主は疑問を口にした。

 ロランは微笑みながら肩をすくめる。


《魔素量がわかるなんて言えねよな》

{{値段が同じなら量が多いほうがお得ですからね!}}

「……まぁ、冒険には色々と使えるんですよ。特にこういう物は意外とね」


 リサも感心したように頷く。


「へぇ……そうなんだ」


 ロランは魔石を選び終え、必要なものをすべて揃えたところで店主に支払いを済ませた。

 店主は売上に満足しつつも、何度かロランたちをじっと見つめていたが、特に深入りすることなく、にっこりと微笑んだ。


「たくさん買ってくれて、本当に助かったわい。また夢を見る時は、ここに立ち寄るとええ」


 ロランたちは礼儀正しくお辞儀をし、静かに店を出た。

 外の風が頬を撫でると、リサは軽く息を吸い込んで満足そうに笑った。


「なんだか、いい買い物ができたね!」

「さて、お次はお土産だな!」


 ――支払い  6,600ルース(大量の粗石と土の魔石、初級と中級の癒しのスクロール)

 ――所持金 13,270ルース


―――――――――――――――――――

店内。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093088052963253

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る