恒例のアレ

239 『蛇の秘釜』★


「まずはポーションだ!」


 一行がまず最初に向かったのは、錬金術店だ。


――『蛇の秘釜じゃのひかま


 石造りの建物は、古びた灰色の壁が街の中でも異彩を放っていた。

 入口には蛇を象った鉄製の看板が吊るされ、黒い木の扉には奇妙な紋様が刻まれている。

 扉の取っ手も蛇の形をしており、触れるとひんやり冷たい感触が伝わる。


 周囲には薄い香りが漂い、店の裏からは何かが煮込まれているかのような煙が立ち上っていた。


「うう~ん、すごく雰囲気のあるお店ですね」

「前に一度通りかかって、チェックしておいたんだよな」

{荷物になるので帰りに寄る話でしたね}


 様々な香りが漂う店内はどこか薄暗く、それでいて不思議な落ち着きを感じさせる。

 壁には奇妙な薬草などの錬金素材が所狭しと並び、釜が低く唸りを上げている。

 店主は、ヒッサール族──蛇獣人族だ。


 彼の長い尾が床を滑る音がどこか不気味で、影の鱗蛇アンブラルスケイルを彷彿させる。

 その冷たい瞳とは裏腹に、言葉遣いは丁寧で親切だった。


「ようこそ旅のお方、気になるものは手に取ってくださいス」


 ロランは軽く会釈すると店内を巡る。

 少し怯えたような表情のリサは、ロランに引っ付いていた。


「ポーション……つまり回復薬ってこと?」

「そうです。冒険の途中で何度かお世話になりましたね、特に解毒薬には」

「やっぱり冒険って大変なんだね……」


 店主が話を聞いて、優しい声で話しかけた。


「当店の解毒薬は、特に人気がある一品ス。旅の者には欠かせないアイテムですス。何かお探しのものがありまスか?」

{{この先、通常の解毒薬では対処できない魔物と戦うこともあるでしょう。備えるにこしたことはありません}}

「興味がありますね……」


 ロランが言うと、店主は目を細めた。


「ありがたいことですス。解毒薬は、我らに伝わる秘伝の技術で作られているんですス。普通の薬と違いまスから、ぜひ……」


 ロランは軽く頷き、店主とのやり取りを終えると再び店内を見回した。

 リサはロランの後ろをぴったりとついて回り、興味津々に並べられたポーションや素材を見つめている。

 香りは独特で、刺激的なものから、甘い匂いを放つものまで幅広い。


 一通り目を通したロランは、並べられた素材をじっと見つめる。


《素材の多くは『タロンの原生林』でも手に入りそうだな》

{{えぇ、見覚えのあるものが多いです}}


 購入したものは――


 『中級治癒のポーション』 ――200ルース

 綺麗なガラスの小瓶には、一口分の赤い液体が入っている。

 低級よりもはるかに効能が高く、軽度の骨折も治療できる反面、苦さも増しているとか。

{{前哨基地アウトポストでは250ルースでしたら、買わなくて正解でしたね}}

《だな。そういえばクルバルさんのポーションはもっと高そうだったな》


 『冷血のポーション』 ――70ルース

 一時的に体温を下げ、冷血動物のような状態にする。

 高温の場所での活動に向き、溶岩地域や灼熱の砂漠などで体力の消耗を抑えることができる。

{{とりあえず購入しましたが、当分使用することはないでしょうね}}

《溶岩地域なんか行くことないよな……》


 『瞑想の霧液めいそうのきりえき』 ――250ルース

 使用者の精神を落ち着かせ、集中力を高める効果がある。

 魔法使いや戦士が戦闘中に使用することで冷静さを保ち、戦術的な判断を下しやすくする。

{{うーん、効果を聞く限りは麻薬のように思えますが……}}

《使いすぎには注意って言ってたし、常用するもんじゃないだろう》


 『鱗皮強化薬りんぴきょうかやく』 ――300ルース

 一時的に皮膚や外殻を強化する。

 肉体に蛇の鱗に似た硬質の層を作り、通常の攻撃では傷つけにくくする。

{{ストンスキン代わりに購入する冒険者が多いんだとか}}

《保険になりそうだな》


 『闇視やみしのポーション』 ――80ルース

 使用者に暗視の効果を与え、洞窟や夜間の探索で重宝される。

{{不要だとは思いますが、成分解析のために購入します}}

《うん》


 『 猛毒の解毒薬』 ――340ルース

 強力な毒にも対応する解毒薬。小さな小瓶だ。

 通常の解毒剤よりも速効性が高く、命を脅かす猛毒にも効果がある。

《秘伝の解毒薬、結構な値段だぜ。鮮やかな紫色の液体……毒にしか見えねえが……》

{{毒を以て毒を制す、実際に毒草や蛇毒が使われているかもしれませんよ?}}

《飲みたくねー!》


 必要な物を買い終え、店を出る。


「ふぅー! 蛇みたいな店員、怖かったぁ……」


 リサは大きく息を吐きながら、店を出た瞬間に肩をすくめた。

 彼女の顔にはまだ少し緊張が残っている。


「うんうん、わかる。実は、似ている魔物と戦ったことがある」

「ええっ!? 怖っ!」

「はっは、めちゃくちゃでかくて怖かったよ」

{丸呑みされそうになっていましたね}

「私には冒険は無理……」


 リサはため息をつきつつ、ふとロランが店で買い込んだ品を思い出して尋ねた。


「そういえば、いろいろなものを買っていたけど、ひとつだけで足りるの?」

「ふっふっふ……」

{船で解析して複製するんですよ!}

「あっ! なるほど、便利だなぁ!」


 リサは思わず手を叩き、納得した様子で感心していた。


「よしっ、次は魔法雑貨店だなっ!」


 ――支払い 1,240ルース

 ――所持金19,870ルース


―――――――――――――――――――

店内。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093088052937713

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