213 温かな服と涙の食卓
{まずは清潔な服に着替えて、美味しいものを食べましょう。それからお話を聞かせてください}
ロランはリサを連れて、ミティの
店に入ると、ミティが温かく迎えてくれる。
「これはロランさん、いらっしゃいませ、お引き取りですね? あら? そちらの方は?」
ロランはリサの方に目を向け、彼女の服装を軽く指差した。
「彼女……リサに合う衣服を見繕っていただきたいんです。旅の途中で少し疲れていて、温かくて快適なものを」
ミティはリサをじっと見つめた後、優しく微笑んだ。
「お任せください。お疲れでしょう、リサさん。こちらへどうぞ」
「あー、彼女は共通語が喋れなくて……」
ロランは通訳をしながらミティの仕事の邪魔にならないように配慮した。
ミティはリサを店の奥に案内し、数着の衣服を取り出して見せる。
柔らかな織物で作られた衣服は、全てがリサにとって最高の快適さを提供するように選ばれていた。
「試着してみてくださいね。サイズやフィット感を確認しましょう」
ミティはそう言いながら、リサに試着室を案内した。
リサは少し戸惑いながらも、用意された衣服に袖を通した。
彼女が出てくると、ミティは丁寧に手を取り、微調整を施していった。
「この
「"暖かくて柔らかい……"」
「この靴は、旅には最適です。防水加工も施してありますし、内側には柔らかい羊毛が敷かれているので、足を守ってくれるでしょう」
リサはその靴を手に取ってみた。
彼女の目に少しだけ光が戻り、柔らかく微笑んだ。
「それから、下着も重要ですね。こちらは通気性が良く、肌触りも抜群のものです」
ミティはリサにいくつかの下着を手渡した。
シンプルながらも高品質な生地で作られており、リサの肌を守るのに十分なものであることが一目でわかる。
「最後に、こちらの頭巾もどうぞ。寒さを防ぐだけでなく、砂や風からも顔を守ることができます。
ミティはこちらの事情を汲んでくれているようだ。
この配慮には感謝しかない。
頭巾は長めの布を柔らかい布で作られアレンジして使えるようになっている。
ミティが巻き方を数種類教えてくれ、エリクシルがそれを記録する。
リサは試しに頭巾を被ってみると、その温かさに満足げな表情を浮かべた。
「…………ふぅ」
リサは鏡に映る自分を見つめ、少し感嘆の声を漏らした。
ロランもリサの変化に気づき、ほっとしたように微笑む。
「ありがとうございます、ミティさん。これで彼女も少し落ち着けると思います」
「お気になさらず、ロランさん。これらの衣服は、旅の疲れを癒してくれるはずですよ」
ミティは優しい笑顔を浮かべながら、リサに対しても丁寧にお辞儀をした。
リサは一瞬ためらったが、小さな声で「"……ありがとう"」と呟いた。
その言葉は小さく、かすかに震えていたが、それでも確かな感謝の気持ちが込められていた。
ミティはそれを感じ取ったのか、さらに深くお辞儀をして、リサを優しく見守った。
リサの汚れた衣服は処分され、代わりに新品の衣服やロランの品札と引き換えに荷物が手渡された。
彼らはそれを受け取ると、そのままの足で『翠の雫亭』へと向かった。
彼女は快適な衣服に戸惑っているようだったが、少しずつその硬い表情も和らいでいった。
* * * *
――『翠の雫亭』
「これはロラン様、ようこそいらっしゃいました」
「予約もなしにすみません。今、食事はできます?」
「ロラン様であれば、いつでも歓迎しております。どうぞこちらへ……」
案内されたのは、湖の美しい景色が一望できる窓際の席だった。
窓の外には、静かに輝く湖面が広がり、穏やかな波紋が風に乗って広がっていく様子が見て取れた。
しかし、その美しさにリサが目を向ける余裕はなかった。
彼女はぎこちなく椅子に腰を下ろし、周囲の人々の視線を感じるたびに、緊張で肩をこわばらせていた。
「俺には軽食を、彼女には温かくなるような、美味しい料理をお願いします」
「かしこまりました……」
しばらくすると、テーブルには香ばしい香りが漂い、色鮮やかな料理が並べられた。
その光景はまるで夢の中のように美しく、目を奪われるほどだった。
だが、リサはその料理に手を伸ばすことができなかった。
彼女の心にはこれまで抑えてきた感情が急に溢れ出してきた。
突然、涙がぽろぽろとこぼれ落ち、リサは反射的に手で顔を覆った。
彼女の肩は小刻みに震え、嗚咽が漏れた。
ロランは驚いたようにリサを見つめたが、どう声をかけていいのか迷う。
{大丈夫ですか、リサさん?}
姿を隠したエリクシルの心配の声を聞き、リサは微かに頷きつつも震える手でフォークを取り、料理を一口頬張った。
口に含んだ食事の味が、彼女の中に何か大きな波を起こしたかのようだった。
彼女は泣きながら食べ続け、止まることなく涙を流し続けた。
「美味しい……でも……」
その言葉は嗚咽に遮られ、リサは声を詰まらせた。
彼女の胸には、どうしても言葉にできない感情が押し寄せていた。
ロランは困惑しつつも、彼女の肩に軽く手を置いた。
その手の温もりは、言葉以上に彼女に安心感を与えた。
彼は言葉をかける代わりに、そのまま彼女の隣に静かに座っていた。
その様子を遠目で見守っていたウェイターも心配そうに目配せをしたが、ロランは静かに首を振り、目で「大丈夫だ」と伝えた。
ウェイターは少し安心したように、そっと立ち去った。
リサは泣きながらも、食事を続けた。
まるでその一口一口が、彼女の心の中に閉じ込められていた痛みや不安を少しずつ溶かしていくかのように。
ロランとエリクシルはその姿を静かに見守りながら、彼女が少しでも心を落ち着けられるよう、ただそばに寄り添っていた。
* * * *
――支払い 400ルース(衣服300、夕食代100)
――所持金 7,810ルース
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