209 奇妙な手がかり★
「これって……!?」
ロランの目が見開かれた。
{{それは……浄水ユニットの交換フィルターですかっ!?}}
「しかも新品だぞ!」
彼はすぐにそのフィルターをエリクシルにスキャンをさせる。
{{間違いありません……。これはフォロンティア・ミルズ輸送艦で手に入れた浄水ユニットのパーツです!}}
「なんだってこんなところに……!?」
{{……わかりません。輸送艦は数百年間の劣化がありました。その中でも浄水ユニットは形を残し、あまつさえフィルターまで残っているということは……}}
「生存者がいたのか、誰かが持ち去ったのか……!?」
ギシリ……。
突然、店の奥から木の床がきしむ音がして、ロランは反射的に視線を上げた。
「……我が商店の自慢の逸品を見つけるとは、お目が高いですなぁ~」
店の入り口には一人の男が立っていた。
男は中年で、細身の体格に古びたチュニックがよく馴染んでいる。
後ろに流した黒髪と、特徴的な口髭が、彼の厳しい顔立ちに一層の鋭さを加えていた。
まるでロランの心中を見透かしているかのように、その笑みは商人としての狡猾さを物語っている。
「自慢の逸品? 埋もれていたような……」
ロランはガラクタの山を一瞥し、少し疑問を込めて問い返すと、男は余裕たっぷりに肩をすくめた。
「ガラクタだっていう人もいるけど……俺は宝物って呼んでいる。どれも自慢の逸品さ」
店主は店の入り口に無造作に寄り掛かっているように見えたが、その一方で商売の機会を逃さない、したたかな
《胡散臭ぇー野郎だ……》
{{ロラン、冷静に。まずは相手の話を引き出してから、こちらの手を考えるべきです}}
「……これが何かわかるんですか?」
ロランはフィルターを軽く掲げながら問いかけると、店主は口髭をつまみ、軽く笑みを浮かべた。
「ふっふ、それかい? 魔道具の部品……いや、それはね、とても高価なものだ。君にとって喉から手が出るほど欲しくなるようなね……」
{{まぁっ! 商売上手なヒトですね……!}}
《くっそ……店の中から俺の様子を見てたんだ! これが何かわかってないのは良かったけどよ……》
{{慎重にいきましょう。この店主はかなりの手練れです。焦らず、相手のペースに巻き込まれないことが大切です}}
《わかってる、焦るな、俺……》
店主はその狡猾な笑みを浮かべたまま、ロランがどんな手を打つか、待ち構えているように見える。
{{まずは、他の興味のない商品について話を振りながら、少しずつフィルターに対する関心を薄れさせましょう}}
まずはこの商品に興味がないことをアピールする。
店内を物色して、買い叩くついでにフィルターの入手経路を訪ねよう。
「……これ、そんなにいいものなんですか? 面白い形だと思って手に取ったんですけど……。高いならいらないかな」
{{うん、いい感じです}}
ロランはフィルターを興味なさげに、ガラクタの山に置こうとする。
「ほぉ~~~~んとうかねぇ?」
店主は余裕たっぷりに表情を作っている。腹立つ。
予定変更だ。立ち去ろう。どんな反応を示すかな?
「……はい。別にいらないんで、お邪魔しました……」
{{ロラン、落ち着いて。それでは唐突すぎて不自然です}}
ロランはフィルターをガラクタの山に戻すと、店に背を向けて離れようとした。
「……
ロランはその一言に激しく心が揺さぶられた。
彼の背後で、店主の勝ち誇ったような声がさらに腹立たしさを募らせる。
《くっそ、腹立つっ! この野郎、
{{ここは耐え時です、ロラン。相手は私たちが動揺することを期待しています。落ち着いて、ここから情報を引き出す糸口を見つけましょう。}}
ロランはぐっと唇を噛み締め、振り返ると店主を睨みつけた。
店主は余裕の笑みを浮かべたまま、さらに話を続けた。
「うぅ~ん、ますますその宝物の価値が上がったようだねぇ~。さてさて……中にお入り、お茶でも出すよ……」
{{まずは、応じるほかありませんね……}}
「…………お邪魔します……」
ロランは一瞬、戸惑いを見せたが静かに応じる。
店主の言うとおりにするしかない。
店主が背を向け、店の奥に続く薄暗い通路を指し示す。
店の入り口には、薄く剥げかけた文字で『ルスタムの古物商』と書かれた看板が立てかけられていた。
「足元の
店の中に足を踏み入れると、雑然とした内装が目に飛び込んできた。
天井からは埃まみれのランプがぶら下がり、棚や床には古びた書物や壊れた道具が無造作に積み上げられている。
まさにガラクタの山だ
まともに使えるものがどれだけあるのかすら分からない。
そんな中でも店主はこの店を切り盛りしているのだから、相当なやり手に違いない。
「座って待ってなさいな、すぐにお茶を入れるから」
店主はそう言い残し、奥の方へと消えていった。
ロランは半ば仕方なく、店の片隅にある埃っぽい椅子に腰を下ろした。
部屋の中には、かすかに古い木材と埃の匂いが漂っている。
しばらくして、店主が戻ってきた。
手には茶器を載せたトレイがあり、丁寧にテーブルに置かれた。
「さ、どうぞ」
店主が差し出した茶杯をロランは手に取ったが、イライラしているせいか香りもなく、味もそっけなく感じた。
これが通常の状況なら、もう少し冷静に味わえたかもしれないが、今はその余裕がない。
こんな時にコスタンさんがいてくれたらもっと上手くやれただろうに、とロランは内心で思いながら、店主に向き直った。
「……これはいくらですか」
{{おっと、下手に回ってはまずいですよ……}}
店主は椅子にどかっと座り、大きく口角を挙げたと思えば、すぐに薄い笑みを浮かべる。
そして茶杯をゆっくりと持ち上げ、口元に運んだ。
その動作はまるで、交渉の行方を楽しんでいるかのようだった。
「……そうだね。それの
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『ルスタムの古物商』
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