204 寄り道しつつ
* * * *
{うーん、工房に行く前にミティさんの
《あぁ、確かに……。この格好じゃ驚かせちまう。チニャラの洗濯場も利用してみるか》
「良くお似合いですね!」
「ありがとうございます。柔らかくて着心地がいいです」
ニアを紹介してもらったことに改めて感謝し、今度はチニャラの洗濯場へと向かった。
「ここだな」
洗濯場は首の長い鳥の彫刻が堂々と掲げられ、良く目立っていた。
木造の建物は時を重ねた風情があり、飾り気はないが内部は驚くほど清潔で整然としている。
他の冒険者数人の列に並び順番を待つと、出迎えたのはヒューム族の老婆であった。
「あの、これをお願いします」
「むにゃむにゃ、血抜きに汚れ取りで5ルースだぁね。仕上がりは明後日の朝……」
血塗れのシャツを差し出すと、老婆は小さく呟きながら受け取り、札を取り付け棚に押し込んだ。
料金は屋台の食事よりも高く驚いたが、ここはミティの推薦を信じよう。
料金と引き換えに品札を受け取り、その場を後にする。
「なんだか品札ばっかりもらってるな」
{
「あぁ、エリクシルが作り直してくれた
{うふふふっ、いまの服も似合ってますけど、嬉しいです!}
* * * *
工房の扉を開けると、ニアが驚いた表情で迎えた。
「なんだ、変態ロラン。やけに早いな、依頼を諦めたのか?」
職人たちも手を止めると、次々に茶々を入れる声が飛び交った。
「おいおい、諦めが早いんじゃないか?」
「もう終わりかよ、変態ロラン!」
「尻尾巻いて逃げてきたか!?」
ロランはその挑発的な声に応えるように、にやりと笑った。
そして自慢げにバックパックを開け、『アラウン花』とその球根を取り出して高々と掲げた。
「花はそれっぽっちかよ」
「なんだそのオニョンみてーなのは? そればっかり入ってねーか?」
ニアはアラウン花と球根を見つめ、深いため息をついた。
落胆の色が隠しきれない彼女の表情に、工房の空気が一瞬、重く沈んだ。
「変態ロラン、本当に花を持ち帰ったその努力は認めるが……。でも、この量じゃ依頼は果たせない。やっぱり……」
ニアの声は次第に小さくなり、彼女の肩が落ちた。
ロランの表情は変わらず自信で満ち溢れている。
「……と思うでしょ? 花は枯れていてあまり採れなかったんですけど、アラウン花の根を持ってきました」
ニアはロランの態度に驚きの表情を見せながらも、不信感を隠さなかった。
職人たちも笑い声を上げて茶々を入れる。
「根っこぉ!? んなもんが何になるってんだ! 欲しいのは花だがこれじゃ少ないな!」
「そうだそうだ!」
「旨そうな根っこはシチューにして食っちまうか!?」
エリクシルの声がロランの頭に響く。
{{成分が含まれているであろうことを説明するのは難しそうですね……}}
《大丈夫、俺に任せとけっ!》
ロランは冷静に笑顔を浮かべて一歩前に出た。
「……アラウン花はジャゲイモみたいに根に栄養を蓄えてるんです。嘘だと思って使ってみてくださいよ」
ニアは一瞬黙り込んだ後、爆笑し始め、職人たちも声を合わせて笑った。
「ジャゲイモォ~~~!!?」
「おいおい、アラウン花は野菜じゃねえんだぞ。……そうだよな?」
「いや、わからねえ! 植物のことなんか!」
「お勉強する暇があるなら腕を磨けっ!」
「違えねえ! 俺らは商人が用意した素材を使うだけよ!」
「ぎゃっはっはっは!」
腹を抱えて笑う者まで現れた。
ロランは一瞬戸惑い、顔に不安の色がよぎる。
{{ううん? よく頑張りましたが、もう一手必要そうですね……}}
《商人も球根のことは知らないのか……》
{{私たちがたまたま球根を手に入れただけで、本来は花弁だけを採取するのかもしれません}}
《それにしてもこういった知識は大衆に知られてるもんじゃねえのか?》
{{冬に備えて根に養分を蓄える植物の存在は、私たちにとっては常識かもしれませんが、皆が同じように教育を受けているわけではないでしょう。もう少しそれっぽく説明する必要があると思います}}
ロランはエリクシルの提案を聞いて、なるほどと頷いた。
彼らが最もらしいと感じる情報を提供しなければ。
「ニアさん、ちょっと待ってください。植物によっては冬に備えて根に養分を蓄えるんです。だからこの根っこ、球根には花弁以上に効果が詰まっているはずなんです!」
ニアは腕を組み、少し考え込んだ。
職人たちも顔を見合わせている。
「……なるほどな、これがそうだって言うのか。アラウン花について詳しいわけじゃないが、春に芽吹くために備える、か。理にかなっているような気がするな……」
「変態ロランは冒険者じゃねえのか?」
「学者先生様みてえなこと言ってるな!」
ロランはさらに一歩前に出て、熱心に畳み掛ける。
「試してみる価値はあります。花が少ない以上、球根を利用するしかありません」
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