198 魔法の衣服★


「うーん、どれも良い品ですが……。魔法の効果があるようなケープ、もしくは衣服を取り扱っている店はありますか?」

「えぇ、当店にもいくつかありますよ」

《ここにもあるのか!!》


 店員が奥へと案内すると、格子のついた厳重な棚が目についた。

 内部には小物や靴、チュニックやダブレット、古めかしいローブやケープが数種類展示されている。


「この棚にあるのは、魔法の込められた特別な衣服です」

「そういえば装身具店なのに衣服が多いですよね」

「あぁ、母の代から衣服も取り扱うようになったんです。今では衣服屋としてのほうが有名で、装身具はオマケという感じですね……」


 店員はにっこりと微笑む。

 その微笑には、この店を誇りに思う気持ちが滲んでいる。

 店員は展示された装身具に一瞬視線を留めた。


「伝統を重んじて、今でも装身具の取り扱いは続けています。母の代からの大切な部分ですからね」

「……そうだったんですね」

{{この店に歴史あり、奥まった小道にある名店ですね!!}}

「……では、左から順にご紹介しますね」


 *    *    *    *


『魔法の財布』 ――50,000ルース

{{収納の魔法が込められているというとても小さな財布。金貨が500枚――値段も憎いですね――は入るらしく、本当だとすればとんでもない代物です! 原理を解明したいところ!}}

《これの背嚢バックパックがあれば欲しいが、とんでもねえ値段だろな……》


『水歩きの靴』 ――9,400ルース

{{水の上を歩かなければならない状況が思いつきませんが、欲しい人は欲しいのかもしれませんね……}}

《翡翠湖を歩いたら楽しそうだぜ?》


『避暑のローブ』 ――7,500ルース

{{サンディナバルの綿で織られた魔法のローブだそうです。高温の環境でも涼しく過ごすことができる魅力的な逸品ですね}}

《その地名には聞き覚えがある。コスタンさんの息子さんが征服したダンジョンのあった場所だ。砂漠とかで使えそうな逸品だよな》


『矢逸らしのワイバーンクローク』 ――23,500ルース

{{これは掘り出し物だそうです。劣等種ではあるものの、飛竜の皮翼を用いた魔法のクローク。もともとの素材が防刃性に優れているそうですが、さらに矢逸らしの魔法が込められているとか。矢傷を受けたくないという執念を感じました。これを作った人は膝に矢でも受けてしまったのでしょうか……?}}

《……冒険者あるあるだな》


『清廉のシャツ』  ――9,500ルース

『清廉のショーツ』 ――7,500ルース

『清廉のパンツ』  ――6,000ルース

『清廉の靴下』   ――4,500ルース

{{ウィルダン産の麻で織られた、汚れを拒絶する衣服。王都より取り寄せた逸品で、洗濯の必要がないため貴族に人気だそうです。……でも冒険には向かないでしょうね}}


 肝心の加工方法を知れればと思ったが、残念なことに厳重に保管されているため手に取ることはできない。

 縫製をその目で見ることは叶わなかったが、簡易スキャンは行えたので充分としよう。

 魔石が取り付けられているという情報しかわからなかったが。


《汚れしらずの靴下いいなぁ! 買えなくはないが……》

{{報奨金はあぶく銭のようなものですが、その半分を失うのはちょっと……}}

《だよなぁ、他にも必要なものはある……》


 どれもこれも高価で手が出せない。

 指をくわえて眺めるしかない状況である。


「……靴下が気になりますが今は買えそうにないですね……」

「それは残念ですね。こちらは人気商品ですが在庫はありますので、ご都合の良いときにいらしてください」

「そうさせていただきます! ……あー、あとそうだ、ドレスとかって置いてます?」

「……えぇと、あいにく当店では取り扱っていません」


 店員は申し訳なさそうに眉を困らせた。


「あー……、どこかに売ってませんか?」

「……えーと、ドレスなどはお客様のお身体の寸法を測りますからオーダーメイドになります。既製品は王都にでも出向かないと手に入らないかもです」

「王都フィラか……。ちなみにオーダーメイドはどこで?」


 オーダーメイド専門店は商店街通りを北に進み、中心街の一角に高級店があるらしい。

 店員さんは俺の全身に視線を走らせると、入店を断られるかもしれないと助言してくれた。


《言いづらそうにしていたのはそういうことか》

{{残念ですが、絹のドレスはまた別の機会にしましょうか……}}

《あぁ、ドレスコードのある店は珍しくねえ、今更驚かねえぜ……》


 ロランは礼を告げると思い出したように手をポンと叩いた。


「すみません、何度も。最後に……頑丈な魔物素材を加工できるようなお店ってありますか?」

「……魔物素材を加工するとなると革鎧などですかね。工房街であればお望みのものがあるかもしれません。この棚の商品も――」


 魔法の付呪は特別な伝手であるため紹介を断られたが、代わりに『夕焔ダスクファイア工房』の職人、ニアというクノン族を紹介してくれた。

 クノン族というのは狐のような獣人の種族らしい。

 そう、店員さんもクノン族。


「――彼女は丁寧な仕事で有名です。頑丈な魔物素材もきっと加工できることでしょう」

「ありがとうございます!」

「とんでもありません。この度はお買い上げありがとうございました!」


 ロランは購入した衣服と鞄を預け、古湖装具店を後にした。

 衣服や背嚢バックパックはロランの体格に合わせて微調整してくれるらしい。

 

《それ込みの値段だったんだな》

{{いい買い物でしたね}}


 明日の朝までには調整も済むそうだ。

 忘れずに受け取りに行かないとな。


「『夕焔ダスクファイア工房』は水車のある所だったな」

{{工房街を北に向かうようですね!}}


 商店街の賑わいを背に、二人は目的地へと歩みを進めた。

 橋を渡り終えると、そこには重厚で威厳ある工房街の光景が広がっていた。

 商店街とは異なる活気さがあり、職人たちが真剣な表情で作業に没頭している姿が見える。

 金属を打つ音や木材を削る音が響き、工房街全体に緊張感が漂っている。


 工房街を歩き続けると、ついに『夕焔ダスクファイア工房』と書かれた看板が見えてきた。

 看板は木製で職人の手による繊細な彫刻が品格を漂わせている。

 工房の入口は広く開放的で、中からは温かな光が漏れていた。


「やっと見つけたな」


 ――衣服代 1,200ルース

 ――所持金 8,030ルース


*    *    *    *


*    *    *    *


――――――――――――――

魔法の衣服たち。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081898666283

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