197 『古湖装具店』★
ふたりは興味津々で店内に入った。
店内に入ると、壁一面に並ぶ衣服やアクセサリーが目に飛び込んできた。
狐のような特徴をもった獣人店員がこちらに気付く。
「いらっしゃいませ、
《初めて見る種族だな》
{{ええ}}
ロランは普段使い用の衣服がないか尋ねると、いくつか紹介してくれた。
「衣服の予備が欲しくて、一式欲しいんです」
「お客様は冒険者とお見受けします。それでしたら、こちらのチュニックにズボン、ベルトや靴下、革のブーツがおすすめですよ」
ロランは紹介された衣服を手に取り、スキャン作業も並行する。
{{衣服は麻や綿などの植物繊維、羊毛などの動物繊維、ベルトや靴は革が主流のようですね}}
「……このシャツは軟らかで肌触りが良いですね」
コスタンさんに貰った服もそれなりに良い品だったと思うが、肌触りはこちらの方が上だ。
「そうですねぇ……。そのお召し物も質は良いのですが、やや古いのかもしれませんね。当店の商品は天然の軟化剤を用いて服の繊維を柔らかくしているんですよ」
「軟化剤ですか……」
{{こちらの世界で言うところの柔軟剤のようなものでしょうか}}
《そういえば、こっちの洗濯事情を知らなかったな……》
ロランは手元の服を眺めながら、店員に尋ねる。
「すみません、手入れの方法って? 洗濯したら軟化剤って落ちちゃったりしません?」
「ええ、その通りで注意が必要です。当店の衣服は全てこちらの
「
「天然由来の油や植物を混ぜ込んで焼いたものです」
店員がテーブルの上の木箱から手に取ったのは、石鹸のような物体。
色は淡い緑色を帯び、表面は滑らかでわずかに光沢がある。
「どれどれ……」
触れるとほんのりとした温かみを感じる。
洗浄石全体にほのかなハーブの香りが漂い、自然の豊かさを感じさせる。
{{これは大変興味深いです! 洗濯石鹸でしょうか。成分に柔軟剤と酵素が含まれているのでしょうね。ぜひとも欲しいです!}}
「……これも買っておくか。土産にも良さそうだし」
「はい、お土産品としても人気ですよっ!」
店員は笑顔を振りまき、明るい声が店内に響いた。
「あぁ、ええっと、
「チニャラ……?」
「綺麗好きの鳥さんがモチーフの店です」
「へぇー、なんでまたギルドの近くに?」
「冒険者さんたちが仕事終わりによく立ち寄っていかれるんです!」
「あぁ、なるほど、汚れますもんね。確かに便利そうだ」
店員は
ロランは他のお店の情報まで教えてくれる彼女の親切心にいたく感心していた。
{{これからはお世話になる機会があるかもしれませんね}}
《ダンジョン以外の魔物を相手にすればな》
ロランは店員に礼を述べると、次の商品を探し始めた。
「次は……革の
{{そのバックパックもやや浮いてますし、この機会に現地の
「おっ、これなんか良さそうじゃん……!」
肩掛けのシンプルな鞄。
飾り気はないが、革のくすんだ色合いが良い味を出してる。
100ルースか、買いだな。
{{隣のは随分可愛らしい鞄ですね。ニョムさんにいかがでしょう?}}
「……これか、いいな」
その鞄は薄ピンク色の柔らかな革で作られ、小さな花の刺繍が施されている。
フラップには愛らしいリボンが結ばれており、細部にまで細やかな工夫が感じられる。
ニョムにぴったりの一品だ。
「思えば碌なお礼もしてやれてなかったな……」
ロランはニョムに与えたなけなしの魔石やポートポランのお菓子を思い出すと、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「これならニョムも喜ぶだろう」
ロランはその可愛らしい鞄を手に取った。
少し高価だが、今までに受けた恩を考えれば足りないくらいだ。
「さて、次は……これは良い
ロランは次にしっかりとした作りの革の
色は落ち着いたブラウンで、使い込むほどに味が出そうな質感が魅力的だ。
大きさもちょうど良く、長い旅でも十分に耐えられそうだ。
「こちらの革の
「なんだかわかります。頑丈でポケットの数も多い。色々なものを吊り下げられるし、デザインも良い」
鞄だけで500ルースもするが、これはぜひとも欲しい。
「……うーん、買った!」
{{財布のひもが緩いですねぇ、必要なものですから文句を言うつもりはありませんけど}}
《はっはっは》
ロランはその後もあれこれ聞きながら、試着をする。
デザインの異なる綿製の上下3着、靴下3足、革のブーツを2足、革のベルト、革のショルダーバッグ、革の
相場を知らないから、安いのか高いのかすらわからない。
エリクシル曰く、この文明レベルの衣服は消耗品ではなく修理しながら大切に着るものだとか。
そう考えると衣服も高めなのかもしれない。
でも決して無駄な買い物ではない。
「あぁ、そういや、あれを忘れてた」
ロランは店内を歩き回り、目についた外套を手に取りながら店員に尋ねた。
「すみません、戦闘中に動きを邪魔されない外套を探しています。脇の所にスリットがあったりするといいんですけど……」
店員は微笑んで答えた。
「それでしたらこちらはいかがでしょうか」
店員が案内した棚には数種類のケープが吊り下げられていた。
ロランはスキャンのために手に取る。
いずれのケープも手縫いで装飾もなくシンプルなデザインだ。
{{名称こそ異なりますが、ククルスと呼ばれるケープ型の外套に似ていますね}}
「ふんふん……」
首元から肩にかけて広がる形状で、動きやすさが特徴。
軽量な素材で脇に深いスリットが入っているが、片側のみだ。
{{バーヌースと呼ばれるローブ型の外套と似ています}}
「へぇー……」
これは全身を包み込むようなデザインで、袖口や裾には工夫が施され、動きやすさを重視している。
しっかりとした素材で、防寒性も高い。スリットはない。
{{古代ローマで着用されていたクラミスという外套に似ていますね}}
「面白い……」
クラミスは肩から腰までの長さで、動きやすさと防御性のバランスが取れている。
シンプルながらも丈夫な素材で、戦闘中の激しい動きにも耐えられる。
ポンチョのようなケープは見た目も好みだが、前が開いていない。
銃の取り回しが悪いから惜しいデザインだな。
最後に目に入ったのは長い外套のクローク。
全身を覆うタイプで、フードが付いている。
寒冷地での使用に適し保温性が高いが、大きすぎる。
「……どれも一長一短なんですね」
「そうですね、用途に合わせて着替えるのが一般的ですから」
{{それでも現地の縫製やデザインは大変勉強になります! 後は魔法の素材を用いた商品を調査できれば……}}
《オーケー》
ロランは外套を棚に戻すと店員に向き直った。
「うーん、どれも良い品ですが今回は欲しいものが見つかりませんでした。……魔法の効果があるようなケープ、もしくは衣服を取り扱っている店はありますか?」
「えぇ、当店にもいくつかありますよ」
《ここにもあるのか!!》
――――――――――――――
店員さん。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081898664418
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