195 湖畔の晩餐★
* * * *
ロランは、魔術師ギルドのカウンター越しに立つ職員と世間話を交わしていた。
「フェンディリア校長の特別授業を受けられたのは幸運でしたね、冒険者さん」
「やっぱり、珍しいんですね。それにしても今回は何故?」
「校長は大変気まぐれですから……」
「……そうですか」
ロランは軽く一礼し、カウンターから離れた。
そのままギルドの広いホールを歩き、外に続く扉へと向かう。
{ ……また講義を受けに来てもいいですね! }
「あぁ、機会があればな」
時刻は5時頃、ギルド内を見学していたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
どこかもう一軒寄るには遅いだろう。
「夕食は『ゴールデンリーフ・イン』で食べるしなぁ」
{ 本日は早めに戻って入浴をされては? }
「……そうするか」
エリクシルの助言通り宿への道を進む。
{ 寝る前に図書館で学んだことの復習もしましょう }
《えーー……》
他愛ない話をしながら、明日の予定を組む。
{ そういえば、バイユールにも魔法の装備を取り扱う店舗があると聞きましたね }
「ポートポランの『グッドマン武具商会』の店員さんだったか? もちろん見に行きたいけどよ、どうせとんでもない値段だろう。衣服屋から行った方がいいんじゃないか?」
{おや、よく考えていますね。私も生活の必需品を優先した方がいいと考えています。次点でポーションや魔法のスクロールが欲しいところです }
「あぁ、ここならポーションも見つかるだろうしな。スクロールも万が一に備えて補充したい」
{ あとは…… }
まずは図書館で調べ物の続きをする。
植生や薬学についての資料もないか当たりたい。
そして
魔物素材やその加工方法がないか調べてみよう。
「衣服屋で買う物って具体的にはなんだ?」
{ 上下の服に、靴、ベルト、バックパック、一通り揃えた方がより馴染めるかと }
「靴もか、履き心地がいいのがあればなぁ」
{ 色々見て回ってみましょう! きっといいものがあるはずです。なければ改造するのも手ですよ! }
「改造と言えば……」
絹糸のドレスを作るためのデザインや流行についても調べよう。
時間が余ればポーション屋や魔法雑貨店に立ち寄るつもりだ。
武具店は明日以降にして……。
あれこれ計画しているうちに宿に辿り着いた。
ロランは夕食までに浴場で疲れを癒す。
さっぱりとしたところで、温かな灯りに誘われてダイニングに足を踏み入れた。
「朝とはまた雰囲気が違うな」
{{ 椅子やテーブルのクロスの色が変わっていますね }}
木製のテーブルや椅子には色のついた布が掛けられ色彩を添えられていた。
加えて暖炉の火が心地よい温もりを提供している。
店内にはすでに数人の宿泊客が和やかに談笑しながら食事を楽しんでいた。
「お帰りなさいませ、ロラン様」
にこやかなウェイターがロランを席へ案内した。
テーブルに着くと、ウェイターが小さなグラスを置いた。
「……これは?」
「食前酒のネレイス・レペリアでございます。この特別なカクテルで贅沢なひとときをお楽しみください」
「……いただきます!」
ロランはグラスを手に取り、その中の琥珀色の液体をじっくりと眺めた。
カクテルからは微かに花のような香りとともに、ほのかな柑橘系の香りが漂ってきた。
彼はゆっくりとグラスを口に運び、初めの一口を楽しむ。
「……なんだ、これは……」
口の中に広がる複雑な味わいに驚きを隠せない。
まず感じられるのは、ほろ苦さ。
その後に続くのは、まるで翡翠湖の清らかな水を思わせるような爽やかな酸味。
そして最後には、霊峰ネレイスの冷涼な空気を思い起こさせるような、心地よい余韻が残る。
{{ 随分うっとりとしてますね }}
《あぁ、この酒はすごいぞ……》
ロランはグラスを置き、深く息をついてその味わいをかみしめた。
こんなにも洗練されたカクテルは、これまでの冒険の中でも出会ったことがない。
彼の中でネレイス・レペリアの魔法が完全に浸透していくのを感じた。
口の中に余韻が残るうちに、今度は前菜が出される。
「ママトとモゥのチーズ、バジリッコのサラダです」
{{ カプレーゼサラダのようですね }}
《カプ? なんでもいい! チーズ! チーズだろ!? 旨そう!》
彼はチーズに釘付けで、芳醇な香りに心を奪われていた。
「いただきます、だ!」
ロランが前菜のチーズを特に味わい楽しんでいると、ほどなくして何とも言えない新鮮なパンの香りが漂ってきた。
ウェイターがホクホクと湯気を立てるシチューの鍋とパンの入ったバスケットを運ぶのが見える。
シチューの中にはじっくり煮込まれた野菜や肉がたっぷりと入り、豊かな香りが食欲をそそる。
「本日のシチューでございます。地元の野菜とお肉を使っておりますので、どうぞお楽しみください」
ロランはその一口を味わい、ホッとした表情を浮かべた。
続いてこんがりと焼けたパンがテーブルに置かれた。
黄金のパンだ。
外はカリッと、中はふんわりとした食感が楽しめる一品、これは何度食べても飽きないだろうな。
「そしてこちらが湖の魚のマリネです」
ウェイターが美しく盛り付けられた皿をテーブルに置いた。
新鮮な魚は、レモネと香草で爽やかにマリネされ、彩り豊かな野菜と一緒に並んでいた。
魚の白い身がほのかに透けて見え、食欲をさらに刺激する。
「どれから行っちゃうか……!」
{{ ふふふ……! }}
ロランはパンをちぎりながら、まずはシチューを味わい、その後マリネに手を伸ばした。
酸味の効いた魚と新鮮な野菜の組み合わせが絶妙で、口の中に広がる豊かな風味に思わず笑みを浮かべた。
夕食のデザートはレモネのソルベ、アイスが食べられるとは思わなかった。
魔道具で冷やしているらしいが、やっぱりヴォイドの食事事情は思ったよりも発展している。
「う~~~ん、甘すっぴゃい!」
ロランは夕食をゆっくりと楽しむ。
ダイニングの暖かな雰囲気と最高の料理が、勉強の疲れを癒してくれるひとときだった。
部屋へと戻り寝る支度をしていると、エリクシルがいつのまにか魔法使いの格好をしていた。
校長先生の魔法の授業に偉く感化されたようで、いつか魔法を使いたいとはしゃいでいる。
魔法みたいなエフェクトを振り撒いて、それっぽい。
「……いつかな。もう寝るぞー」
{ はーい! }
* * * *
――――――――――――――
魔法使いのコスプレ。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081898662894
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます