192 マスター・フェンディリア★
「……おい、そこの冒険者。我を子供みたいだと思ったな?」
ギクーッ!
ロランの心臓が一瞬にして凍りつくような感覚に襲われた。
「い、いえっ……!」
「ふん、誤魔化さずとも手に取るようにわかる」
その視線は鋭く、まるでロランの心の中を見透かすかのようだった。
「……自己紹介しておこうか、我はバイユール魔法学校の校長兼、魔術師ギルドのマスター・フェンディリアだ。よくよく覚えておくがいい」
《魔術師ギルドのマスターで学校の校長だってぇーーー!?》
{{ ヒトを見かけで判断するべきではない、最たる例ですね }}
フェンディリアの声は教室全体に響き渡り、その威厳を感じさせる。
「久方ぶりに冒険者の聴講だ。私もたまには教鞭を取るものだな。これは学校の運営に関わる重要なことでもある。生徒諸君よ、我は彼のためにも魔法概論を教えねばならぬ。君らにとっては復習となるが、よくよく聴いてくれ」
生徒たちは一斉にロランの方を見つめた。
はにかむ者や興味深そうに目を輝かせる者、その視線がロランに突き刺さる。
(か、勘弁してくれ……)
予想外に注目を浴びたロランは少し緊張しながらも頷いた。
「さて、講義に移ろうか。……いきなりだが冒険者よ、魔素についてなにか知っていることはあるか?」
教室内は一瞬で静まり返り、全員の視線が再びロランに集まった。
フェンディリアの質問は突然で、ロランは一瞬戸惑ったがエリクシルの声がすぐに耳に届いた。
{{ 魔素について校長から直々に!? はいはいはい! コスタンさんに習いました! 私の言うとおりに発言してください! }}
《……エリクシル、魔法学校の映画に出てくるキャラみてえだぞ……》
ロランは心の中で苦笑しつつ、エリクシルの指示に従うことにした。
彼は深呼吸を一つしてから、しっかりと答える準備をする。
「……えーっと、魔素は空に大地、火に水、岩に草木、ヒトに魔物、生きとし生けるもの全てに宿るとされています。魔素は俺たちにとって血や肉であり、骨です。万物を成す奇跡の魔素がなければ、生きることができません」
コスタンの教えとエリクシルの解答をそのままに復唱したロラン。
フェンディリアは意味ありげに口角を上げた。
「……その若さにしては殊勝だな。よく勉強している。その教えはアレノールの方の学校で教える内容だ。きみは魔法に関しては全くのズブの素人に見えるが、誰に習った?」
「……師匠です……」
「ふふふっ。良い師を持ったな」
フェンディリアが片手を上げると、まばゆい光とともに光の玉と軌跡が描かれた。
「おおっ!」「わぁ!」「キレイ!」
ロランはその美しさに思わず声を上げた。
生徒たちも興奮したように口々に喋り始める。
{{ ……っ! とんでもない魔素の反応です……! 急に魔素の反応が現れましたよ!! }}
《600歳にもなると魔素の反応を隠せる、とかじゃねえか?》
{{ 一体どうやって、驚きました……! }}
フェンディリアは生徒のひとりに光の軌跡を投げつけた。
「ピンス君、魔素について説明したまえ」
赤色ローブをまとったピンス少年は光の軌跡に包まれながら、ハキハキと説明し始めた。
「はい、校長先生! 魔素とは世界を構成する基本的な元素です! すべての生物、物質に内在し、魔法を使う際に必要不可欠な要素です!!」
フェンディリアが手を舞うように動かすと、空中には次々と複雑な模様とシンボルが描かれていった。
小石に水、作物や生き物、様々な物質に魔素が含まれていることが具体的に表現される。
「うむ、正解だ。ティアマン寮に5点やろう」
「ぃやったーっ!!!」「ピンスよくやった!」
「……次に、もっとも有名な魔法とはなんだね? タチアナ君」
「はい、校長先生。『開示の呪文』です!」
緑色のローブのタチアナ少女も元気よく答えた。
その表情は敬愛に包まれている。
《『開示の呪文』って……》
{{ ステータス開示のことでしょうか…… }}
「うむ、正解だ。ドライセル寮に5点。……シドニーくん、この呪文を創造したのは、誰かね?」
「はい、校長先生! 原初の智神、万象の導師モーリス・グレイベイル先生です!」
青色ローブのシドニーくんもまた期待に満ちた眼差しを向けながら答えた。
「うむ、見事だ。フェンリス寮にも5点だ。諸君もこればかりは間違えてはならんぞ」
「やったやった!」
《ちんぷんかんぷんだぜ……》
{{ ……フェンディリア校長はさすがですね。教育者としてもとても優れているようです。彼女の授業では生徒に学ぶ楽しみを感じさせ、正解した生徒には平等に報酬を与えています。これが生徒たちの意欲を引き出し、知識を深めるための優れた方法なのでしょう }}
ロランはエリクシルの賛辞に納得しながらも、フェンディリアの授業の巧みさに感心し、彼女の偉大さを改めて感じ取った。
「『開示の呪文』は冒険者の君も使えるだろう。修練を必要とせずに使える唯一無二の呪文は、我が師、モーリス・グレイベイルが創造したものだ」
《やっぱりステータス開示のことだよな……》
{{ おそらくは。彼女の師ということは古い人物なのですね。それにしても魔法を創造するとは…… }}
前から気になっていたステータス開示の魔法、その謎が迫り、ロランは全身が熱くなるような気がした。
この世界の核心に触れる瞬間は筆舌しがたいものがある。
腕輪型端末はその瞬間を記録しようと不規則に点滅し、エリクシルも同じ気持ちのようだった。
「師は魔石にはすべての経験が刻まれていることを発見したわけだが、彼はそれを視覚化し、記録し、証明する手段を考え出したのだ。それが『開示の呪文』の始まりであるな」
彼女は手を動かし、魔石の図を描いた。
その中に無数の経験が詰まっていることを示すように、細かな線と点が刻まれている。
「『開示の呪文』は、魔石に刻まれた経験を視覚化し、ステータスとして表示することができる。鑑定の魔法の前身でもあり、君らの良く知る身分証明など、多岐にわたる用途が生まれたのだ」
ロランは驚きと感嘆の念を抱きながら、その説明を聞いていた。
エリクシルの経験が刻まれるという仮説は見事に合致していたのだ。
経験とは
{{ ……今、私の説が揺るぎないものになりました!! 魔石は生体情報をチップに紐づけるホロタグと同じような機能をもっています! }}
《あぁ、魔石がバッテリーみたいだとも言ってたな》
{{ ……しかしそうなると疑問があります。ロラン・ローグ、尋ねてください! }}
ロランは頷くと、静かに手を挙げた。
「先生、質問イイですか?」
――――――――――――――
フェンディリア。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081139697244
寮のシンボル。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081139699255
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