魔法学

191 バイユール魔法学校へ★


*    *    *    *


 魔術師ギルドの建物は、魔法使いの像が目立つ。

 ロランは重々しい扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。


 内観は外観に劣らず壮麗で、広々としたホールには魔法の灯火が優しく揺れている。

 天井には星空を模した装飾が施され、壁には数多くの古書や巻物が整然と並べられていた。

 大理石の床には複雑な魔法陣が描かれ、訪れる者を圧倒する。


「すっげぇな……いかにも魔法っぽい」

{{ うーん、所々に魔素の反応がありますが、飾りのような物もありますよ…… }}

「雰囲気も大事ってことだろ」


 カウンターにはローブをまとった受付の男性が立っていた。

 彼は聡明な印象を与える落ち着いた表情で、ロランに微笑みかけた。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」

「魔法学校について尋ねたいのですが……」


 受付の男性は頷き、丁寧に説明を始めた。

 

 魔法学校の入学受付は時期が決まっていて、通常、春と秋の二回行われる。

 入学試験は厳しく、筆記試験や実技試験が含まれる。

 転入も可能だが、特別な手続きと高額な費用がかかるという。


{{ ……今回の報酬ではとてもじゃありませんが、足りませんね。やはりこの学校の生徒たちは貴族や豪商たちのご子息なのでしょう }}


 ロランは少しがっかりしながらも、さらに質問を続けた。

 そもそもの魔術師ギルドの役割とは何なのか。

 受付の男性はにこやかに答える。


「魔術師ギルドは魔法研究と教育の中心であり、魔法使いたちが集まり知識を共有する場所です。魔法学校では次世代の魔法使いを育成し、国の安定と発展に貢献しています。また冒険者ギルドとも提携し、依頼の斡旋なども行っていますよ」

「勉強になります!」


 ロランは改めてギルドの重要性を理解し、さらに質問を続けた。


「えっと、冒険者向けの講義とかってあったりしませんか?」

「はい、ギルドでは冒険者向けに個別の講義の聴講が可能です。一部講義には実戦的なものもありますが、魔法は素質はもちろんのこと、才能を開花させるには幼少期からの訓練が必要ですので、お客様の年齢での習得は厳しいかもしれませんが……」

「えっ……」


 絶句したロランにエリクシルはすかさず助言した。


{{ それでも、授業の聴講をお勧めします。知識を得るだけでも価値がありますから }}


 ロランはエリクシルの言葉に頷き、気を取り直すと受付の男性に申し込んだ。


「……構いません。すぐにでも受けられるような冒険者向けの講義をお願いします」

「ちょうどもうすぐ魔法基礎学の講義があります。受講料は1,000ルースになります」


《げぇっ! 基礎で1,000ルースだってよ!》

{{ 図書館では得られない知識です。払いましょう! }}


 エリクシルの即決にロランはしぶしぶとルースを取り出し、受付に渡した。

 男性は受け取ると、ロランにチケットを渡し講義について説明した。


「隣の棟の講義室でチケットを提示してください。冒険者は一番後ろに着席することが決まっています。また遅刻をすると受講できず、受講料の返金もできませんので、ご注意ください」

「……わかりました」

「それと、装備類の持ち込みはご遠慮いただいていますので……」


 武器を預けた後、ロランは硬く握りしめたチケットを手に講義室へと向かった。

 遅刻厳禁の規則が、彼の胸にかつての学校生活の記憶を呼び覚ます。

 学校の鐘の音や教師の厳しい叱責が、懐かしい思い出として蘇る。


「遅刻はダメか……学校らしいな」

{{ ふふっ…… }}


 ロランの心には、懐かしさと共にわずかな切なさが混じっていた。

 失ったものへの思いを抱きながらも、新たな知識と可能性への期待が彼の胸を高鳴らせる。

 しっかりと歩みを進め、講義室の扉を押し開けるとすでに多くの生徒が席についていた。


《赤、青、緑で色分けされたローブ……》

{{ 狼の紋章をつけた生徒もいますね。寮のシンボルカラーでしょうか }}


 彼の目に飛び込んできたのは、色鮮やかなローブを身にまとった生徒たちだ。

 やや浮いた格好のロランは、物怖じせずに一番後ろの空いている席に腰を下ろした。

 生徒たちは興味津々の視線をロランに向けている。


(軽く挨拶くらいしておくか……)


 ロランは愛想よく笑い、生徒たちに手を振った。

 それを見て笑う者や、きゃあきゃあ騒ぎ立てる者、反応はそれぞれだ。


「静かにっ!」


 よく通る声と共に、講義室に銀髪を編み込んだ耳の長い女性が入ってきた。

 彼女が教壇に立つとその小柄な体が際立ち、まるで子供のように見える。


「校長先生だ!」「フェンディリア先生だよ!」「やったぁ!」

「すげぇ!」「今日の授業は楽しいぞぉっ!」

「校長って600歳なんだって、知ってたか!?」「嘘っ!?」


 ロランは生徒たちの囁き声を耳にしながら、エリクシルと通信する。


《600歳の校長だって!? 子供にしか見えないぞ!》

{{ ……身体的特徴はともかく、魔素の反応もこれといって普通ですね…… }}


「……おい、そこの冒険者。我を子供みたいだと思ったな?」


 ギクーッ!


 ――講義代 1,000ルース

 ――所持金 9,030ルース


――――――――――――――

魔術師ギルド。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081139695855

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