186 魔物図鑑★
{{ それでは足りませんね。しばらくは毎日通ってもらいますよ! }}
《そんなぁー!!!!》
ロランの魂の叫びと抗議によって、急遽会議が開かれる。
結果、午前は図書館で調べ物、午後は観光に時間を当てても良いということになった。
そうと決まれば、ロランは早歩きで向かう。
「司書さん」
「……はい?」
「魔物図鑑ってどこですか?」
「……お待ちください」
司書の女性は微笑み、優雅な身のこなしでロランを案内し始めた。
「こちらへどうぞ。魔物図鑑の書架は少し奥まった場所にあります」
彼女は柔らかな声で説明しながら、広々とした図書館の中を進んでいく。
案内をする彼女の服は必要以上にタイトで、ロランは思わず視線を上に逸らした。
館内の窓からは自然光が入り込み、ホコリが幻想的に舞う。
「魔物図鑑は高名な冒険者の方々もよく利用されます。気になる本があれば、どうぞお手に取ってご覧ください」
彼女が案内した先には大きな棚が並び、その一角には「図鑑類」と書かれた看板が掲げられていた。
「ここです。他にご質問があれば、どうぞお声かけくださいね」
司書は一礼してその場を離れ、ロランは目の前に広がる膨大な知識の山に圧倒された。
「結構多いんだな……」
ロランは一冊手に取ってみる。
挿絵が描かれているページを開くと、ある本では非常に精巧な絵が描かれている一方で、別の本では素人目にも稚拙な絵が掲載されていることに気づいた。
中には「よくこんな挿絵で出版できたな」と思うものもある。
当然ながら魔物大全といったような便利な一冊は存在せず、様々な著者がフィールドワークを通じて得た情報を編纂した書籍がいくつも並んでいた。
それぞれの本には著者の視点や経験が反映されており、情報の偏りや齟齬も少なくない。
{{ ロラン・ローグ、見てください。挿絵や情報の違いから、多くの人々が魔物を研究してきた歴史がわかりますね。それにこれだけの本があるということは、活版技術がかなり普及している証拠です }}
「同じ本もあるしそうなんだろうな。共通語の文字数が多くないのも普及した理由か?」
{{ ご明察ですね! 私もそう思います。そうなると言語の本も読みたくなりますね。この世界の言語についてもっと知りたいです }}
エリクシルはきっと目を輝かせて言っていることだろう。
ロランは苦笑いを浮かべた。
「……まずは目の前のことを片付けようぜ、エリクシル」
ロランは再び魔物図鑑をめくり、エリクシルは速読スキャンを再開した。
各書籍の情報を比較し、信頼性の高いものを見極めながら生存に役立つ情報を仕入れる。
エリクシルが編纂者としてアーカイブに取り込むのだ。
(……編纂してまとめたものを売ったら一財築けそうだよなぁ)
ロランはそう思いながら、口元に微かな笑みを浮かべる。
彼の目には一瞬、未来への希望と野心が垣間見えた。
「……うわなんだこいつ、
{{ アルビノのようにも見えますね。そして子供を好んで喰らうとは悪辣です…… }}
力も非常に強大で、武器を手にすればその脅威は計り知れないらしい。
ロランはさらに興味を持ち、
「変異種って、『鉄壁』の
エリクシルは速読スキャンを続け、魔物の変異についての詳細な情報を探し始めた。
{{ ここにありました。厳密には二つ名とは異なるようです。
「……なるほど。環境や呪いの影響で変異することもあるのか……。呪いとかオカルトじみたものがあることにも驚きだがよ」
ロランは考え込むように本を見つめた。
変異の原因が呪いに関連しているという事実に、一瞬背筋が寒くなるのを感じた。
コスタンの教えてくれた死体が穢れを引き寄せるということが思い起こされる。
{{ ……この魔物は変異の過程で知恵を獲得したため、非常に危険な存在となっているようですね。生息地は主に森や洞窟ですが、変異の原因となる環境があれば、どこでも現れる可能性があります }}
「……こいつで格3か」
ロランは一通り読み終え次のページをめくると、今度は見覚えのある魔物が目に入った。
「岩トロールだっ!」
{{ 岩トロールについても詳しく見てみましょう }}
ロランはページに描かれた巨大な魔物の挿絵を見つめ、以前の戦闘の記憶が蘇った。
エリクシルは速読スキャンを開始し、岩トロールの情報を読み上げる。
{{ 岩トロールは、通常のトロールよりもさらに巨大で、岩のように硬い皮膚を持っています。これにより物理的な攻撃が通りにくいです。また岩トロールは悪い妖精の一種で、精霊に近い存在と記載されていますね }}
ロランはその情報と記憶を照らし合わせながら頷いた。
{{ ……彼らは再生能力も非常に高く、火や酸による攻撃で再生を阻止する必要があります。また死亡時には外殻を残して砂になることが確認されています }}
「知らない情報もあるけど……実際に目にしたことが描かれているから、この図鑑は信憑性が高いな」
{{ この図鑑は非常に詳しく、実際の観察に基づいているようです。……ライアン・ドレイク著、この方の別の本も探してみましょう! 精霊についての補足もあるかもしれません! }}
「わかった」
ロランは席を立ち上がり、精霊についての情報を探すのを手伝った。
彼は図書館内を歩き回り、ライアン・ドレイクの他の本を探す。
そして『精霊の謎』と題された本を見つけた。
「エリクシル、これを見てくれ。ライアン・ドレイクの他の本を見つけたぞ」
{{ 素晴らしい! その本にはきっと貴重な情報がたくさん含まれているでしょう }}
ロランはその本を開き、エリクシルが速読スキャンを開始した。
ページをめくるごとに、精霊に関する詳細な情報が次々と表示される。
{{ ……ここに精霊についての記述があります。精霊はこの世界の魔素で構成され、自然界の力を司る存在なようですね。彼らは様々な形態や能力を持ち、環境や魔素の流れに相互の影響を与える……と }}
「岩トロールは外殻を残して塵になったのもそれで説明つきそうだな。身体の一部が魔素で構成されてるって感じか。……魔素ってなんなんだ」
{{ 魔素についての説明がないかも確認しましょう }}
ロランとエリクシルは再び本棚を見渡し、魔素に関する記述がないかを探し始めた。
彼は慎重に本を手に取りページをめくりながら情報を探したが、期待に反して魔素についての詳細な記述は見当たらなかった。
「……全然ないな。禁書の棚にならあるか……?」
{{ もしくは魔法を取り扱う施設、魔法学校に行かなければ得られない知識なのかもしれませんね }}
「あぁ、そんな感じするなぁ! ……なら今は作業に戻るか」
* * * *
――――――――――――――
バグベア。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081139693806
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます