知識の宝庫

185 『翠の図書館』★

 

「……わかったわかった、頭の中で叫ぶなって……。まずは図書館だな……買い食いはしていくからな」


 ロランは市場へと向かい、多種多様な店が立ち並ぶ賑やかな通りを歩いた。

 新鮮な野菜や果物、香辛料の香りが漂う中、彼の目は自然と色とりどりの屋台に引き寄せられる。

 道端では客引きが声高に商品の魅力をアピールし、人々が楽しげに談笑している。


 彼の目にまず飛び込んできたのは、異国らしい見たこともない調理器具で卵を調理している店だった。

 金属製の球状の器具に卵を入れ独特な方法で加熱している様子は、彼の興味を引きつけた。

 しかしもっと面白いものを探している彼は、さらに奥へと進んだ。


{{ ロラン・ローグ、早く図書館に行きましょう! }}

《飯が先だってば!》

{{ もうっ! 生物が栄養補給を必要とするのがまどろっこしいですねっ!! }}

《食わなきゃ死ぬっつーの!》

{{ それなら最初の料理で良かったじゃないですか! }}

《今は卵の気分じゃねえ! ……肉……そう! やっぱり肉! これだ!》


 エリクシルに急かされるロランはふと足を止めた。

 目の前には、じっくりと焼かれた肉が串に刺さったケバブのような料理を売る屋台があった。

 肉の香ばしい香りと、ジュワッと音を立てる脂が食欲をそそる。


「ひとつくださぁい!!!」

「ん? おぉ! 兄ちゃん元気だね!」


 ロランは食い気味に店員に話しかけ料金を支払うと、早速そのケバブにかぶりついた。

 口の中に広がる肉汁と香ばしいスパイスの風味に、思わず目を閉じて味わった。


「これ、すごく美味しいですね!」

「ありがとうよ。うちの自慢の一品だからな!」


 ロランは食べながら世間話ついでに魔法学校の場所も尋ねた。

 気風の良い店員は快く教えてくれ、図書館の道中にあることがわかった。

 ロランは礼を言うと食べながら向かう。


 *    *    *    *


「あれか」

{{ あれでしょうね }}


 遠くからでもわかる、大きな帽子にローブ、それに杖、魔法使いっぽい銅像が目立つ。

 あれが魔法学校だろう。 


 冒険者ギルド数棟分の大きさはあるであろう建造物と庭園。

 でかでかと『魔術師ギルドバイユール支部 付属魔法学校』とも書いてあった。


{{ 魔術師ギルドには魔法学校が併設されているんですね。教育機関も兼ねているとは…… }}

《合理的、ってやつだな》


 庭園で本を読み漁ったり魔法の練習をしているあたり、彼らは学生なのだろう。

 多種多様な種族がいるが、誰も彼も身なりが整っている。


 奥の別邸は学生寮かもしれない。

 貴族や商人の息子が泊っているのかもな。


「……途中入学とかできなさそうだなぁ」


 ロランはポツリと呟き、エリクシルがそれを拾う。


{{ 入学はできなくても、お話だけでも聞きに行きましょうね! }}

「あぁ、魔法には俺も興味がある!」


 ロランは了承すると図書館への道を歩き始めた。


 *    *    *    *


「もぐもぐ、ここか……」


 『翠の図書館』と描かれた立派な図書館がロランを出迎えた。


{{ 随分立派ですね! 冒険者ギルド2棟分くらいの大きさはありそうです。これは期待できますよっ! }}


 中に埋まっているであろう知識の山に興奮を隠せないエリクシルを他所に、ロランはのんびりと建物を見上げた。


 外観は荘厳でありながらも温かみがあり、歴史と知識が詰まった場所であることを感じさせる。

 高くそびえる石造りの壁は、風雨に晒されながらも堅固な佇まいを見せていた。

 窓辺にはプランターが置かれ、植物が垂れ下がり、その緑が図書館の重厚な雰囲気に柔らかさを添えているようだ。


 ロランは図書館正面の大きな木製の扉に手を掛ける。


「よーしっ」


 ロランは扉を開き内部へと進む。


「そこのきみ、飲食物の持ち込みは困ります!」


 ロランは声の方に目をやると、扉の横に控えていた厳格そうな守衛が彼を見つめていた。

 彼は慌てて残りのケバブを口に詰め込むと、守衛が怪訝な顔をしながらも軽く頷く。

 ロランは頭を下げて図書館の中へと足を踏み入れる。


 図書館の内観は、外と同じく壮麗であった。

 高い天井には美しい絵が描かれており、天井から吊るされたシャンデリアが優しい光を放っている。

 壁一面に並ぶ書棚には、無数の書籍が整然と並べられ、その一冊一冊がバイユールの知識と歴史を語っていた。


「……ひゅうっ! すげぇな」

{{ あの発色、色合い、天井の絵はフレスコ画のように思えます。建物もそうですが文化レベルはかなりのものですね…… }}


 目の前のアーチ状のカウンターには女性の司書が静かに書物に目を通していた。

 ゲートがある以上、では通れなさそうだ。


「すみません……」


 司書は作業を止めると、ロランを見上げた。


「書物の返却であればこちらへ、入場であれば150ルースになります」


《入場だけで150ルース!? 高っ!》


 驚いた表情のロランに、司書は察したのか説明を加えた。


「初めていらしたようですね。実際の入場料は50ルースです。事故に備え保証料として100ルースを請求しますが、お帰りの際には返金されます」


《保証料ね……》

{{ 中世では学者や貴族以外は立ち入りできない知識の宝庫です。有料とはいえ一般開放はされていてよかったです }}


 高いと思いながらも1万ルースを稼いだあとだからか、財布の口はゆるゆるだ。

 エリクシルに言われるがままお金を取り出すと、150ルース支払った。


「それではこちらをどうぞ」


 司書はロランに腕輪を手渡し、腕にはめるよう促した。


{{ この腕輪は魔道具ですね……魔素の反応があります }}


 エリクシルの言葉通り、司書は腕輪についても軽く説明した。


「……これを身につけている限り、あなたの行動は記録されます。書物の取り扱いには充分注意してください。閉館時刻は18時ですのでお気をつけて」


《うへっ、監視の魔道具かよ……》

{{ 図書館内での行動を監視し、書物の保護を目的としたものですね }}


 ロランは司書に会釈すると、腕輪を眺めながらゲートをくぐった。

 書棚の間をゆっくりと進むと、書棚には歴史書、事典、冒険記録など、様々なジャンルの書籍がぎっしりと詰まっていた。


「すごいな……」


 ロランは感嘆の声を漏らしながら、手に取った書籍を眺めた。

 古びた革表紙には、金箔でタイトルが刻まれており、その存在感が一層際立っていた。

 彼はその書籍をそっと棚に戻し、さらに奥へと進んだ。


 図書館の中央には、広々とした読書スペースが広がっていた。

 大きな木製のテーブルと椅子が整然と配置され、そこには静かに読書に耽る人々の姿があった。

 窓から差し込む柔らかな自然光が、室内を優しく照らしている。


{{ 素晴らしい! 知識の聖域ですね! }}


 エリクシルはその光景を見て、感動すらしているようだ。


 さらに奥へ進むと、特別なエリアが目に入った。

 そこには厳重な格子で囲われ、貴重な書籍が展示されているようだった。

 ロランは格子に近づき、中を覗き込んだ。


「禁書の棚って奴か……」


 一部はガラスケースに収められ、棚の本には鎖が取り付けられている。

 表紙だけでは中身がわからない、古めかしい本ばかりだ。


{{ ここに入れるのは限られた者だけなのかもしれませんね。……優先度の高いものは魔物図鑑、生存知識、地理情報や歴史に関するものですね。閉館までまだ時間があります、ぎりぎりまで調査しましょう! }}

《うへっ……18時までに終わるのか?》

{{ それでは足りませんね。しばらくは毎日通ってもらいますよ! }}

《そんなぁー!!!!》


 ――支払い    55ルース

 ――所持金10,140ルース


――――――――――――――

司書さん。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093081139692170

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