178 新たな旅路★
ロランはエリクシルの言葉に理解を示しつつ、出発のための準備を始めた。
彼の手は自然とバックパックに伸び、必要なアイテムを確認する。
* * * *
ロランは持ち物を確認しながら独り言ちる。
「絹糸に
その姿を見ていたエリクシルは微笑みながら、ロランの服装を見てさらに笑顔を滲ませた。
{ 馬子にも衣裳ですね。素敵なシャツ、お似合いですよ! }
ロランはエリクシルに振り向き、満面の笑顔で返す。
「おおっ、エリクシルが作り替えてくれたおかげで、脇腹のあたりも余裕があってイイ感じになってるぜ! ありがとうな!」
{ お役に立てて幸いですっ! }
エリクシルの笑顔はそのままに、少し照れたように答えた。
ロランはエリクシルの顔をまじまじと見る。
(エリクシル、イイ顔するようになったよな……なんか、すごく……)
最近エリクシルは以前よりも自然でリラックスした表情を見せるようになった。
それが嬉しい反面、彼女の笑顔を見ると自然と胸が熱くなる。
ロランは彼女に対して何か特別な感情も芽生え始めていることに気が付いていた。
エリクシルが軽く咳払いをし、話を続ける。
{ ……コホン、どれほど滞在するのかは未定ですが、
「宿のグレードにもよるんだろうけどな」
ロランは頷きつつも、現実的な問題を指摘する。
{ 一日あたり30~40ルースを見てます。不要な散財は控えて欲しいものですね }
エリクシルの声は真剣だが、その目にはどこか楽しさも混じっている。
それに気が付いたロランは冗談交じりに反論する。
「何言ってんだ、エリクシルも買い物好きじゃねえかっ!」
{ それはっ! このヴォイドの地を生き抜くための経費です! 決して無駄遣いなどではありませんよっ! }
ポートポランでは魔法のスクロールやポーションの購入に前向きであったエリクシル。
調査目的と称して色々な物を買うように指示するのは目に見えている。
ロランは笑いながらもエリクシルの真剣さを感じ取り、少しだけ表情を引き締めた。
「ちょっとの買い食いぐらいは大目に見てくれよ。魔法ギルドに図書館、しばらくは知識の吸収のために走り回りそうだからな……!」
{ 一理ありますね。……食事に関しては許しましょう。ロラン・ローグは体が資本ですからね! }
エリクシルも少し緩んだ表情で答える。
何気ない会話だが、心地よさを感じる。
(変な夢を見た不安があったけど、それも杞憂だといいな)
ロランは少し考えを巡らせると、両頬を叩いて覚悟を決めた。
「……よっと、じゃぁ行きますか!」
ロランはバイユールに設置する予定のセンサーを慎重にしまい込み、バックパックを背負うと深く息をついた。
ふたりは新たな装いで船のタラップを降り、バイクを出庫する準備を整えた。
「おっ! ちょっと都会娘っぽい衣装だな! 街に着いたら姿を消さなきゃいけないのが勿体ねえな!」
ロランはエリクシルの服装を見て感嘆の声を上げた。
エリクシルはいつもの村娘の衣装とは一線を画す、品の良い白のブラウスを身にまとっていた。
袖はゆったりとして動きやすく、胴体部分はきゅっとタイトに絞られたデザイン。
さらに紺のスカートが彼女の姿を一層引き立てている。
風にそよぐスカートの裾が彼女の歩みと共に軽やかに揺れるたび、ロランはその光景に目を奪われ言葉を失ってしまった。
(ポートポランでも見かけたことがあるスタイルだな……)
ロランはよくもまぁ似たような衣装のバリエーションがあるものだと感心していた。
{ 衣装のモデルをこの地に寄せて見ました。ミニエリーと同じようにやればできるものですねっ! }
「……まぁ、そうか、もうなんでもアリだもんな……。すげぇよ」
バイクの荷台に座り誇らしげに語るエリクシルに、ロランは投げやりな調子で答えながらも、その才能に感嘆の念を禁じ得なかった。
ふたりはバイクを走らせ、原生林をかき分けて進む。
経路はエリクシルの索敵パルスが周囲の安全を確保しつつ、タロンの原生林を南下しバイユール近辺にバイクを駐車する予定だ。
街に滞在するため、荷物は最低限にした。
銃と強化服がないのは心もとないが、今回は戦いに行くわけではない。
観光のようなものだと自分に言い聞かせた。
冒険者ギルドに寄って、昇級試験を受ける時間もあるだろう。
(そう気負わなくてもいいはず。かといって油断もできない、適度な緊張感を持ちつつ向かおう)
ロランは心の中で自分を励ました。
エリクシルの索敵パルスを展開し原生林を突き進む。
目的地は『湖の街バイユール』だ。
{ 新たな街と出会い! ワクワクしますねっ! }
「だなっ!」
* * * *
――ポートポラン、冒険者ギルドの一室
燻った木材の香りと混ざり合った潮の香りが漂い、部屋の外は冒険者たちの熱気が充満している。
喧騒の中、突然一つの声が響き渡った。
「――以上が報告になります!」
伝令員は背筋をピンと伸ばし、緊張した面持ちで巨漢に報告した。
その声はしっかりとした口調で、ギルドのざわめきを切り裂くように通った。
巨漢は腕を組み、眉をひそめて顔に濃いしわを刻みながら重々しい声を発した。
「にわかに信じがたいことだが、コスタンは信頼に足る人物だ。……君はキャラバンの編成と派遣について急ぎスネア伯爵に報告してくれ」
「はっ!」
伝令員はマントを翻し、急ぎギルドを後にした。
彼の足音が廊下に響き渡り、徐々に遠ざかっていく。
「……シャイアル村にギルドの出張所が必要になりますね、マスター・ドマン」
巨漢の陰から白銀のローブを身にまとった若い男が現れた。
茶色の癖毛を指でくるくると巻く男の頭部からは、立派な巻き角が生えている。
男はキラキラと輝く目でドマンを見つめている。
その眼差しは冷ややかでありながら、どこか楽しげな光を帯びていた。
それを横目に見たドマンは大きく肩を落とし、重たい溜息をついた。
「……君の所の探窟家集団も出てくるんだろう? 鉱山跡地には使われていない建物もあったはず、そこを拠点にすればいい。こちらからはビレーを派遣するからよく使ってやってくれ。彼女はコスタンの馴染みだ」
白銀ローブの男は髪で遊びながら、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「えぇ、そうさせていただきます。……スネア伯爵は交易で大成するのみならず、ダンジョンの利権も手に入れるとは、強運ですなぁ」
ドマンは男の不敵な笑みを一瞥し、軽く会釈した。
「……俺はエセリウムの使者の相手をするので、これで失礼する」
男はドマンがギルドの奥に消えるのを見届けてから、独り呟いた。
「ふふっ、これから忙しくなりそうですねぇ……」
* * * *
――――――――――――――
巻き角の男。
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