179 キャラバンの来訪★
男はドマンがギルドの奥に消えるのを見届けてから、独り呟いた。
「ふふっ、これから忙しくなりそうですねぇ……」
* * * *
――スネア伯爵家の
広場ではキャラバンの準備が慌ただしく進められていた。
スネア伯爵の命を受け、シャイアル村に復活したという鉱山ダンジョンの調査に向かうためだ。
冬の近づく冷たい風が頬を切るように吹き付ける中、冒険者たちは手早く荷物を積み込んでいた。
大きな荷物を積んだ馬車が数台並び、その前には早馬のユニサスが繋がれている。
見慣れぬ服装をした数人は悠然と準備を整えていた。
彼らの衣装は機能性を重視した丈夫な布と革でできており、動きやすさと防御力を兼ね備えている。
手には指先の動きが制限されない革手袋をはめ、腰には様々な道具が収まったベルトを巻いている。
使い込まれた鎧や武器は実用的に見え、それらをまとう者たちの目は鋭く光り、屈強さと狡猾さが同居して見える。
中には顔に傷を負った者もおり、その傷跡が彼らの経験を物語っていた。
彼らは、ダンジョン調査を生業とする
お供の荷物持ち達は、少し緊張した面持ちで徒歩で進む準備をしている。
彼らは
「急げ! スネア伯爵の命令だ、遅れるな!」
指揮を執る男の声が、喧騒の中に響き渡る。
その声に応じて冒険者たちはさらに動きを早めた。
ユニサスは羽根の生えた尾を揺らしながら、落ち着かない様子で蹄を鳴らしていた。
曇りがちな空の下、キャラバンは準備を終え、出発の時を迎えた。
ユニサスが一斉に駆け出し、馬車がガタガタと音を立てながら動き出す。
冒険者たちはその後に続き、足早に進んでいく。
「出発!」
再び指揮官の声が響き渡り、キャラバンは屋敷の門から正門へと向かった。
正門にはギルドの紋章が掘られた馬車が並ぶ。
どの荷台にも多くの調度品が載せられ、先頭の御者の隣には見慣れた娘が座っていた。
「
「では我々も出発しましょうか」
御者は手綱をしっかりと握り、軽くユニサスの首元に引き寄せた。
手綱を引きながら声をかけると、馬たちは反応して前に進み始めた。
正門を出ると、冷たい潮風がキャラバンの後ろを追いかけるように吹き抜け、彼らの出発を見守っているかのようだった。
* * * *
村の北北西に、砂ぼこりが上がり始めた。
遠くからキャラバンが近づいてくるのが見え、村人たちは心配そうに見守る。
「……さっそくお役人さんのおでましかい。奴らは金の匂いがするとすぐに動きやがる……」
村の一角で、その様子を見ていたチャリスが毒づいた。
「そうはいっても僕らだけじゃダンジョンをどうにもできないよ」
落ち着きなく足を動かすチャリスを、ラクモは優しく宥めた。
「岩トロールの依頼もこれくらい早く処理してくれりゃぁよ……」
「あなたの言いたいこともわかるけど、彼らの前では口を慎みなさいよ……!」
チャリスの妻、サハヤはチャリスのお尻をバシンと叩いた。
「うおっ!?」と変な声を出し、表情を和らげたチャリスはいつもの明るい様子になる。
やがてキャラバンが村の入口に到着した。
村長のコスタンと伝令員が出迎え、キャラバンの一団がゆっくりと進んでくるのを見守った。
「冬越えも想定してらっしゃるのですな」
キャラバンに積まれた荷物を眺めていたコスタンが呟くと、伝令員は深く頷いた。
「えぇ、ダンジョン管理のためにも多くの人が訪れることになるでしょう。この村も手厚く
「……ふむ」
コスタンは深く考えるように頷いた。
「おーーいっ!」
後方の馬車で大きく手を振っていた女性は、馬車から飛び降りるとコスタンに駆け寄った。
「コスタンさんっ! 皆さん! お元気ですかっ!?」
「ビレーの嬢ちゃんじゃねぇか!!」
「ほっほ、派遣されたのはビレーさんでしたか。おかげさまで元気ですぞ。そちらは?」
「私なんかよりも、ダンジョンが復活しただなんて! 国中が大騒ぎですよ!」
再会を喜び世間話をし始めたところ、キャラバンの先頭集団が馬車の上から声をかけた。
「……ゴホン、ビレーとやら、我々は一刻も早く調査をしたいのだが……?」
「あっ、失礼しました! こちらはシャイアル村の村長、コスタンさんです」
ビレーはにこやかに両者を紹介した。
「コスタンさん、こちらは
「これはタリオン様、こんな辺境の地までわざわざお越しいただき、誠にありがとうございます」
コスタンは深々と騎士に対する丁寧な礼をし、鉱山の方へと慎重に案内を始めた。
「うむ、よろしくな。コスタン」
「ダンジョンはこちらにございます。以前使われていた石造りの家もございます。少々埃をかぶっておりますが、掃除すればすぐにでもご使用いただけます」
」
* * * *
ダンジョンの入り口の前には探窟家の一団が集まり、その後ろではキャラバンの荷下ろしが進められている。
冒険者たちは手際よく荷物を運び、装備を整えている様子は、緊張と期待が入り混じった空気を醸し出していた。
「ほぉ、これが……。『ルハ・シャイア』といったか……」
タリオンがダンジョンの入り口をじっと見つめ、呟いた。
その声には未知の領域に踏み入る興奮と、同時に警戒心が感じられた。
「シヤン語で『甦りの鉱山』を意味する言葉ですわな」
探窟家の利発そうな男のひとりがタリオンに説明した。
その隣で、猫のような獣人はダンジョンの入り口をじっと凝視している。
後ろできょろきょろと周囲を警戒している鳥人の目が鋭く光る。
一番大柄な戦士のような風貌の男はトロッコに腰掛け、自慢の大斧の手入れをし始めた。
「……甦り、鉱山の資源も復活していたとの話だったな?」
タリオンは静かに問いかけた。
その声には冷静さと鋭い洞察力が滲んでいた。
「えぇ、そうでございます。タリオン様」
コスタンは丁寧に応え、その視線は揺るぎなかった。
「君らのパーティが内部を確認したところ、資源のある
タリオンの言葉に、一瞬の沈黙が広がった。
その異常な環境に対する不安と興味が交錯する中、コスタンは慎重に言葉を選んだ。
「……はい。その目で確認していただくのが一番かと」
タリオンは頷き、周囲を見回しながら再び口を開いた。
「……そうであったな。では、コスタンよ、案内を頼めるか? それにビレーよ、仔細頼んだぞ」
「もちろんでございます……!」
「承知いたしました! 準備を進めておきまっす!」
コスタンとビレーは深々と礼をする。
コスタンはチャリスたちに目配せすると、
「気を付けて行ってくだせえ!」
チャリスたちは一団とコスタンがダンジョンの闇へと消えていくのを見届ける。
「……んじゃぁ、俺らはビレーちゃんの手伝いでもするかっ!」
「お願いしまっす!」
チャリスたちは慌ただしく荷下ろしをする人ごみの中に入っていった。
ビレーは愛嬌のある笑顔を振りまき、明るい声で手際よく指示を出し始めた。
ギルドの出張所の設営が滞りなく進められる。
* * * *
―――――――――――――――――7章 完
光輝の先鋒。
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