151 ミニエリー★

 

 皆で料理を楽しみながら近況を語り合う。楽しい時間の始まりだ。


 *    *    *    *


「……もしゴブリンが来てもエリクシルさんの鋼鉄の槍があるんで、向かうところ敵なしですぜ!」


 チャリスの話では村に大きな変わりはないようだ。

 他にはムルコがシャイアルケーキの改良をひと段落させたということで、しばらくは試作品の味見ができなくなってしまうと残念がっていた。


 こちらもこれまでの経過、もちろんダンジョンの成果についても説明する。

 ロランがレベルアップを経て3レベルになったこと対しては、「3日で3レベル!? 尋常じゃねぇ速度ですぜ!」と驚きつつもその頑張りを称えた。そしてそのことでチャリスは気になる話をした。


「……4階層で野外型のダンジョンになったってのは、もしかするとそこが最下層だからじゃねぇですか?」

「ダンジョンは最低5階層からじゃないの? いやもちろん僕も詳しいことは知らないんだけど」

「……思えば、私は今まで攻略中のダンジョンにしか入ったことはありませんでしたな。そもそもダンジョンの征服自体、少人数で行うものではないはずです。今回の我々はかなりイレギュラーな状態ですからな」

「そりゃそうでしょうよ。それに征服できるような腕利きの冒険者は限られていますぜ。……これは、知る人ぞ知る貴重な攻略情報ってこと!」


 チャリスはその経験がある冒険者ということか聞くと、鍛冶仕事で人と交流する中で知った情報だと言っていた。


「最下層ってことは、ダンジョンコアがある最深部ですよね? ボスとか、そこらへんはどうなってるんですか? やっぱめちゃくちゃ強いとか?」

「それはこの場にいる皆にもわからないことです。それに最下層と決まったわけではない、さらに下に続いているかもしれませんぞ」

「どんな魔物が出てくるかもわからない。見たところ密林だった。獣が出たっておかしくないよ」


 次の階層までにも多大な苦難が待ち受けているうえに、突破できたとしてもその先は未知数だ。

 と、ここで盾を修理中のエリクシルがリビングに現れた。


{……いずれにせよ、今まで以上に厳しい戦いになる可能性があるということですね。わたしは皆さんがお怪我をなさらないか不安です……。あっ、あとで盾について確認していただきたいのですが……}

「では、食事が終わったらお邪魔しましょうかな」

{お願いします}


 レプリケーターの出力にはそれなりの時間がかかるが、明日の朝までには完成予定だという。


「うむ、不安を解消するためにも、エリクシルさんがダンジョン内で活動できるように、急いでロランくんのレベルを上げなければなりませんな」

「そうだね。僕の索敵も万能じゃあない。エリクシルさんがいた方が他の支援も受けられる」

「……ん? どういうことで?」


 話についていけないチャリスに簡単に現在の状況を伝える。

 はじめダンジョン内ではエリクシルのサポートが受けられなかったこと、しかしロランのレベルが向上することで機能が復活したということを説明した。


「1レベル上げると、それに応じて1階層ずつエリクシルも中に入れるようになったんです」

「とすると、目標が4階層ってこたぁ、5レベルまで上げにゃならんのですね? しかしもう3レベルだってんならもう二日頑張りゃ達成しそうだァ!」


 この異例のレベルアップ速度について、ロランがソロで討伐することによる魔素独占と、加えてラクモとエリクシルのサポートがあったことを補足した。前代未聞のパワーレベリング……あえてパーティを組まずに魔素を集中させる方法はチャリスはもちろん、コスタンをも驚かせた。

 もちろんこの成功の大きな要因は、ロランの銃の暴威に頼る部分が大いにあるのだが。


「……そんで、これがスライム犬のプニョちゃんですかい……。初めて見る、新種の魔物ですぜこりゃぁ。ニョムちゃんが見たら喜ぶだろうなぁ!」

「あぁ、確かに喜ぶだろうなぁ。ニョムに会いたいよ」

「へっへ、そう伝えときやす! ……しかしロランさんに魔物使いの才能があるとは思いませんでしたぜ!」

「いやぁ、これはエリクシルが良く面倒を見てくれたおかげで……」


 既に料理も片づけ、いよいよ長話になりそうなため、各々リビングでくつろぎながらの報告会に移行することにした。

 古傷が完治したコスタンの膝に、量産されている治療薬の数々、進化したプニョちゃんに仕込んだ芸、コスタンとラクモの新武器、どれを説明しても驚き、信じられず、その目で確かめて納得する。


 波のように押し寄せる奇跡の数々にチャリスは頭を抱える。


「もう頭もそうですが、心も追いつかねぇですぜ!」


 この言によりしばしのコーヒータイムが開催されることとなった。

 芳醇なエクセルシオールブランドのアイスコーヒーを楽しみ、チャリスがようやく落ち着いた頃。


 エリクシルが完成した通信機器についての話を始める。

 皆で完成品を見にラボへと集まると、テーブルには丸く平たい小型端末が置かれていた。


{こちらが完成した通信機器になります。双方向受信のため、端末に話しかけるだけでわたしが感知できます。基本的には長期にわたっての運用を想定し、小型燃料電池に加え太陽光による充電機能を搭載しました……}


 エリクシルは、ホログラムを見せながらデバイスの仕様を説明する。

 チャリスは未知の高度なテクノロジーに対して羨望の色を隠せない。

 しかしその取扱い、特に充電切れに対して不安な様子であった。


{ロラン・ローグの腕輪型端末と同じなのですが、日光による発電が可能なので、日向においておけば充電されます。日が落ちても当分はバッテリーに蓄電された電力で賄えますので、よほどのことがなければ困ることはありませんよ}


 そう説明することでチャリスは安心した表情を浮かべる。

 もちろん充電を行う時は、人目に付くところに置かないことが前提だ。


{そして性能に関してなのですが……このわたしのように精巧なホログラムを表示するとなると、かなりの電力を消費してしまいます。ですから、最低限度の指示が可能かつ、使用者に安心感を与えられるようなサイズと外見を作成しました}


 エリクシルが実際にホログラムを表示すると、そこにはデフォルメされたミニサイズのエリクシルが現れた。

 手のひらサイズの小さな小さなエリクシルに、一同は可愛いと喜びの声をあげる。


「すげぇ!」

「これはなんとも愛くるしい姿で!」

「ちっちゃな子供妖精みたいだ」

「これまたどうやって……」


 褒められて満更でもないエリクシル(大)が、照れながらホログラムを操作し、説明を交えて通信方法を確認する。

 指示に合わせて空中を浮く小さなエリクシルが手を振ったり、走って見せる。

 皆はおもちゃの人形のような姿と動きから目を離せないでいる。


{し・か・も、これだけではないんですよ……!}


 エリクシルは当然衣装も複数あるのですと、自慢げにコレクションを見せてくれた。

 次々に変わる探検家、教師、白衣、村娘など、今までにも着替えてくれた衣装の数々。

 それらを全てデフォルメサイズにリモデリングしたという。

 一同はその精巧な出来栄えに驚きを隠せない。


「……すげぇ、しか言葉がねぇな……」

「着替えまで可能とは、これはニョムさんが喜びますな!」

「あぁ、子供達にはこのオモチャは魅力的すぎますぜ!」

「うん、確かに」


{E.L.I.X.I.Rは演算能力と併せて、この着せ替え機能がウリですから、がんばりました!}


 さながら動く着せ替え人形、エリクシル本人もこのモデルを楽しんで作り込んでいることが伺える。

 ロランは、エリクシルが夜な夜なこの準備をしていたことに感心しつつも、その品質と独創性、そしてAIの範疇を越えた創造性に驚きを隠せない。


(エリクシルもしっかりと成長しているんだな……。俺も頑張らねぇと……!)


 ロランも新たに覚悟を決め、説明会は幕を閉じた。

 最後にこの小型端末を決して外部の人に見せたり、手渡したりしないよう念を押してチャリスへと託された。


 村へと帰るチャリスを送る際、実際に触ってもらい端末の操作方法を確かめる。

 ナビゲート機能のテストも兼ねて、携帯端末に村までの道案内をしてもらう。

 チャリスが村までの道案内を指示すると、エリクシルがミニエリーと名付けたホログラムがポンと現れ、小さな指で道を指し示し案内をはじめた。

「これは帰り道も楽しくなりそうですぜ!」と喜ぶチャリスを皆で見送った……


 *    *    *    *


 約一時間後……

 ミニエリーの案内で問題なくチャリスは村へ到着し、道中も安全なルートで進めたとのことだ。

 最後に船と村の間で問題なく通信が行えるか、サロメやムルコ、ニョムを交えて通信の最終確認を行いつつ、現状報告をする。

 船でコスタンの治療が行われたことに対して、サロメを中心に一同不安な様子だったが、大事ないとのコスタンの声と笑い声を聞くことで皆も安心した様子だ。

 一同は村への通信手段を確立できた安心感と達成感を味わうと、次なる目標である4階層攻略のためにロランのレベル上げを再開するのであった。


 *    *    *    *


――――――――――――――

ミニエリー。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093088993209771

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