150 チャリスの来訪とドラゴン風ステーキ★

 

 *    *    *    *


 ――イグリース


「ぬおおお! おおっっ!!!」


 船まで案内すると、チャリスはコスタンとラクモに負けない興奮っぷりをみせ、驚嘆と歓喜の声をあげる。


「「「ただいま、イグリース」」」


 ガガガ、グォォオンオンオン……

 ハッチが重厚な音を立てて徐々に開き、船内の照明が自動的に点灯した。


「これが、"船"、で、名前まであるんですかい。くぅ~~~この金属、質感、とんでもねぇ代物だ!」


 チャリスはハッチの油圧ポンプをノックして、その重低音を確かめると、うっとりとしながら触っている。ロランが缶詰を渡した時よりも、彼の眼は一層輝いていた。


「さぁ、中に入りましょうか。軽食なら用意できますけど……どうします?」

「もちろん、ありがたくもらいますぜ!」

「うーん、僕もなんか緊張が解けたらお腹すいちゃったよ。ご一緒してもいいかな?」

「私はコーヒーのお代わりをもらいましょうかな」


 もはやいつもの面々となった彼らは、口々に自身の要望を伝えてくれる。

 気を許してくれているようで、俺としても嬉しい。


「オッケーです! じゃあ上がりましょうか」


 あらかじめ船倉の一角に駄獣のスペースを用意しておいた。そこにチャリスンを繋げる。

 彼のための水も準備してある。

 チャリスンがしっかり繋がれていることを確認してから、ロランはタラップを上がる。


「うおぉ…………」


 船内に一歩足を踏み入れた瞬間、チャリスはさらに息をのんだ。

 彼は再び眼が飛び出そうなくらい大きく見開き、キョロキョロと見回している。

 と、なにか注目した様子だ。


「おやまぁ……信じられんませんぜ……! これ、コスタンさんの盾ですかい?」

「あっ……。それ、俺が借りてて……ボロボロになっちゃって……」

「ほぉ! 盾を使うのが初めてだったんだろう? そりゃあ、こんな風になるのも無理はないですぜ」


 旧友の盾を目にしたチャリスはただならぬ反応を示した。

 盾に残された無数の傷跡を指でなぞりながら、彼はその一つ一つから魔物の種類を見抜いていった。


「……ふうーん、虫系……ですかい」

「……わかるんですか?」


 ロランが素直に驚くと、チャリスは「へっへ」と屈託なく笑う。


「まぁな! この感じは獣の牙とか爪じゃぁありやせん。ちぃとここでは修理はできねぇが……」


 チャリスのこの能力は、彼が長年にわたって数多くの武具を修理し、それぞれの武具が持つ物語を読み解いてきた結果なのだろう


「……あ、だ、大丈夫です、エリクシルに直してもらおうと思ってて! エリクシル、ドロップ品も結構手に入ったし、いいよな?」

{もちろん、お任せください! 皆さん、とても頑張ってくださっているのでこれぐらいはさせてください!}

「で、どう修理するんで?」


 チャリスの興味津々な様子を見て、エリクシルは盾のホログラムを表示すると、指し示しながら説明する。


{そうですねぇ……。このラウンドシールド、元々は木材と鉄でできていますが、修理ではもっと軽くて強度の高い素材を使う予定です。あ、もちろん外見は現地のデザインを損なわないように偽装を施しますよ。ですので、見た目は変えずに性能を向上させることができるはずです}


 チャリスはエリクシルの提案に目を輝かせた。


「そりゃぁもはや、新造だろうよ! あの鋼鉄の槍を設えたエリクシルさんのことだ。こりゃ期待が持てますぜ!」


 彼の声には明らかに興奮が含まれており、エリクシルの技術とアイディアに対する深い尊敬と信頼が感じられた。チャリスの関心は、ただの修理を超えた職人技に対する賞賛へと変わっていったのだ。


「……生まれ変わらしてもらえよ! このおっ!」


 チャリスは快活に笑いながら、盾を軽く小突いた。


(盾ボロボロにしちゃったけど、怒られなくてよかった……)


 叱責も覚悟していたロランだったが、安堵の表情を浮かべると、さらに船の奥へと案内する。

 エリクシルは盾の修理・改造のためにラボへと向かった。


「……そんで、ここがリビングです! みなさん、食べたいものの希望はありますか?」

「僕は肉、それしか考えられない」


 いっぱい動いてお腹がペコペコなんだ、と舌なめずりをしながらラクモが即答する一方で、チャリスはロランに促されるがままにフリーザーの中を覗き込む。


「どれどれ……」


 中のいくつかの料理パッケージを見たチャリスは、驚きの表情を浮かべた。


「……これは、絵ですかい!? なんともまぁ、旨そうな!! この箱に料理がはいってるんですかい……」


 ひどく驚いている様子のチャリスを見て、経験者であるコスタンとラクモは腕を組んで感慨深そうに頷いている。


「うむうむ、その気持ち、わかりますぞ!」

「僕もはじめはびっくりしたよ」

「ふっふっふ……チャリスさん、これは凍っていてこのままでは食べられないので温めるんです」


 種類豊富な冷凍食品の数々に圧倒され、チャリスは決めきれない様子だ。

 しかしラクモがドラゴン"風"ステーキを選ぶと、目を輝かせて同じものを頼んだ。


 グラスフェッド牧草飼育ビーフの熟成Tボーンステーキをグリルで調理したそれは、まさしくドラゴンを思わせるような大きな骨が付いていた。

 調理器で絶妙なレアに仕上げられた特大の一枚肉を前にラクモは涎をだらだらと流し、もちろんチャリスも興奮を隠せなかった。

 ロランは料理の仕上げに専用のスパイスとスーパーソルトを振りかけ、それぞれの皿に盛り付けた。


「なんちゅうもんを食わせてくれるんだ……!」


 チャリスは恐る恐る料理に手を伸ばし、一口食べる。

 彼はひと際目を輝かせると、一心不乱に頬張り、肉汁と香辛料の織りなす複雑な味わいを堪能する。


「全くこれが夢じゃねぇんですから……! なんて旨さだ!!」

「確かに何ともそそられる匂い、そして見た目! 私もいつか食べたいですなぁ!」


 コーヒーを嗜んでいたコスタンもドラゴン風ステーキの見た目に興味津々だ。


「ビーフシチューも確かに美味かったですが、これはそれを越えてますぜ!? いったいどんな肉を使ってんだ……!」

「ふふふ、これはモウの肉だね。もちろんそれだけじゃない、調味料が凄いんだ。実は"旨味"っていう味覚があってね……」


 ラクモが誇らしげに料理について解説を始めた。彼は最近学んだことを誰かに教えたくてうずうずしているようだった。コスタンにとても似ているところがある、たがいに影響を与え合っているようだ。

 ロランとエリクシルはそんなラクモを見て、微笑ましく思わずにはいられなかった。

 皆で料理を楽しみながら近況を語り合う。楽しい時間の始まりだ。


――――――――――――――

チャリス。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093077087724667

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