最後の詰め
152 『レベル5』前半
一同は村への通信手段を確立できた安心感と達成感を味わうと、次なる目標である4階層攻略のためにロランのレベル上げを再開するのであった。
* * * *
「さて、ロランくんのレベルも4となり、3階層まではエリクシルさんの支援も受けられそうなのですな?」
「そうです! レベル上げを工夫した甲斐がありましたよ!」
ロランは元気よく答えた。コスタンも満足げな表情を浮かべている。
{確かにボスマラソンの効率は良いと思いますが……テンパードの存在はイレギュラーでした。次のボスマラソンを開始する前に、再び1階層のボスを確認する必要がありますね}
「そうだな……もし、またテンパードが居たら弾薬の消費は赤字になるか?」
その問いにエリクシルは計算式を表示させる。弾薬消費とドロップ確率やその売値の予測などが瞬く間にシミュレートされる。
{……『迷宮の精髄』の価値の如何によって、弾薬代を惜しまない選択肢もあると思います。もし売却できなくとも、有効な使い道を見つけることができれば合格でしょうか。しかし出費の事を置いておいても、テンパードは通常個体よりも多くの魔素を含んでいましたから、レベル上げにはうってつけだと思います。コスタンさんとラクモさんの協力が得られるこの状況で、なるべく経験を積むことも重要だと考えます。……ですが、そもそもテンパードが再度出現するか予測できません……}
テンパード1体に弾薬を惜しげもなく使った結果、スラッグ弾12発とFMJ弾44発を消費している。今後もテンパードに備えて弾薬を多めに携行する必要もあるだろう。
「そうか、レベル上げにも良くて、もしかしたらドロップ品も価値があるかもしれない……。ラクモもいるから倒すのに不安もないし、また湧いてたら倒したいところだな」
「うん、任せて。相手の体力も大体わかったから、今度は止めを譲れるように調整するのもいいかも」
「そりゃ頼もしいな!」
ラクモの自信満々の笑みに、ロランは感謝の言葉を交わす。
エリクシルもそんなやり取りを見て、戦闘面での不安は払拭できたようだ。
{……それでしたらさらに効率よくなりそうですね! 次はレベル5が目標ですね}
「おう、コスタンさんの復帰に間に合うように頑張るぜ!」
「そうだね」
「エリクシル先生、今日は身体の最終調整ということでしたな?」
{ええ、これが本日のリハビリメニューになります}
ホログラムにびっしりと、訓練スケジュールが分刻みで表示される。
「おぅ……こりゃぁ」
「大変だね……」
「いえ、これをこなせば復帰ができるのです。根性の見せどころですぞ!」
コスタンは明るい顔でニカッと笑って見せる。気持ちもノリに乗っている様子だ。
{その意気ですよ! コスタンさん}
エリクシルはいつの間にかチアリーダーの衣装をまとい、ガッツポーズをして跳ねて見せる。
「むっふぉ! これはなんだかやる気が出ますな!! むーんっ!」
「ははは! じゃぁ、またあとで!」
「ふはっ、コスタンさんらしいや。行ってきます!」
「くれぐれも怪我には気を付けて下され!」
お互いの健闘を祈り、一行はそれぞれの仕事にとりかかる。
プニョちゃんは今回はお留守番だ。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』 入り口
風はダンジョン攻略者の会話に耳を傾けるかのように、穏やかにやさしく吹いている。
「さぁーて、ボスマラソンと行きますか!」
「うん」
{頑張りましょう!}
ロランたちは『タロンの悪魔の木』の前で準備体操をし終えると、洞の内部へと歩む。
レベルが上がったからか、入り口内部の重苦しい空気が薄れたように感じる。
「あの淀んだ、なんとも言えない気持ち悪さが減ったな……」
{やはり魔石の魔素保有量とダンジョンの魔素濃度とは、密接な関係がありそうですね}
「やっぱりそうだろうな。レベルが上がって、頭の霧が晴れたみてぇだ」
{ダンジョン内部の壁向こうの魔素が検知できないように、なんらかの妨害効果を発揮しているのかもしれません}
「そういえば、魔物を倒して、魔素が地面の下に流れつくその先はまだわかんないのか?」
{はい。ダンジョンは階層構造かつ、それぞれが個別に機能している可能性があります。階層によって全く異なる空気や環境、魔物が住み着いていますからね}
「そうなのか」
ロランたちはぐんぐんと進み、あっという間に1階層に降り立った。
{では、目標を再確認しますね……}
エリクシルの予定ではこうだ。
2階層のボスまで、最短距離で進み、道中の魔物を処理していく。
2階層のボスを倒したらすぐにダンジョンを脱出、すぐに内部へ再突入。
そこからボスマラソンの開始だ。
ボスは魔素量が多いので、効率よくレベリングが可能だ。
周回中にテンパードが出れば幸運だ。大量に補充した弾薬を、惜しまず使って討伐する。
{任務の終了時刻は19時予定です。その間、適宜休息も挟んでいきましょうね}
「おう!」
「わかった」
* * * *
1階層の
ロランは盾が修理中で、攻撃を防ぐ術が無いことが若干心許なかったが、敵の攻撃をわざと誘発させれば回避はもちろん、タイユフェルでいなすこともそれほど難しくはなかった。
「おおっ! 意外とできるもんだ」
「ロラン、眼が良くなった。よく見てるね」
「へへ……」{気を抜いて怪我をしないように、気を付けてくださいね?}
「おうっ!」
一行は迷うことなくボス部屋の前の小部屋に辿り着き、3人は入り口を前に息を飲んだ。
「……テンパードがどうなってるか、だね……」
「もっと強い個体になってたらどうするよ?」
{縁起でもないことを言わないでくださいロラン・ローグ……。"コトダマ"になってしまうかもしれませんよ?}
エリクシルが肩をすくめて何か言っている。またアーカイブで仕入れた知識なのだろうか。
「ごめんってば。……よし、行くか!」
真っ暗な入り口に侵入し、光の出口を目指す。
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