148 タロンの巨獣★
ロラン同様に、使い続ければその適正スキルを獲得することができる。そう元気付け一同は明日に備えて休息をとる。明日はチャリスを迎えに行く日だ。
* * * *
ジジッ、ジーージジッ、ポーーーン
短いノイズの後に小気味よい音が鳴り、船内にアナウンスが再生される。
{おはようございます。皆さん、定刻になりました。恒星間年月日は統一星暦996年9月19日の7時です。加えて、昨夜21時17分に通信デバイスが完成したことを報告します。そして本日はチャリスさんのお迎えと、デバイスの受渡日です}
アナウンスを聞いた一同がリビングに集まる。皆しっかりと休めたのだろう、顔には元気が漲っている。
朝食を食べながら、これからのことを話し合う。
「くぁー良く寝た」
「……今日はチャリスさんが来る日でしたな」
{はい、昨夜にはデバイスも完成しました! なんとか間に合いましたよっ!}
「エリクシル、よくやった! そんで、船の南側はどうだ? 前言ってた高反応のヤツ」
度々現れては引き返す、この森の主と思われる魔物。
ロランたちが船に来る間にも、遠巻きに様子を観察していたようだが……。
{……相変わらずこちらの様子を伺っているようです。やはり我々がチャリスさんを迎えに行くのが安全かと思われます}
「わかった。またなにか変化があったら教えてくれ」
{承知いたしました! ★では『タロンの抜け道』までチャリスさんを迎えに行く予定を立てます。……出発時刻は9時、到着に備えて早めに出発しましょう。★来るまでの間に薬草採取をするのはいかがですか?}
「エリクシル先生、私はお留守番ですか……?」
コスタンは上目遣いでエリクシルを見上げている。
その視線には、行動を共にできないかもしれないという不安が隠されていた。
皆がエリクシル先生の顔を伺う。
エリクシルはコスタンの顔をじっと見つめ、声を明るくして続けた。
{もちろんコスタンさんも同行していただきますよ! ……明日まではリハビリを継続しますが、屋外歩行も訓練に取り入れようと思っていましたから!}
この言葉にコスタンの目が一層輝きを増し、顔には期待に満ちた笑顔が広がった。
「よっしゃっ、それで行こう」
「コスタンさん、良かったね」
「ほっほー! 食べ終わったらさっそく準備に取り掛かりますぞ!」
* * * *
――『タロンの抜け道』
現在、エリクシルのセンサーはシャイアル村も覆っている。
そのためチャリスとチャリスンは予めマークされておりその動向がわかる。
プライベートを侵害しているような気もしたが、エリクシルであればそれ以上の意味もなく、悪用することもないだろう。
時刻は9時30分、チャリスの到着までしばし周辺で薬草採取に勤しむ。
その間も高濃度反応の魔物は遠巻きにこちらの様子を確認しているようだ。
それはまさにチャリスと合流すという時に動いた。
チャリスンに跨りのんびりと揺られているチャリスが両手を振っているのが見えた。
「おぉ~! 皆でお迎え、感謝しますぜ!!」
{ッ!! 例の反応がこちらに急接近! 皆さん備えてください!}
「っほ?」
エリクシルの号令で、ロランは
エリクシルの指さす方に向かって構えた。
チャリスはポカンとし、事態を飲み込めない様子だ。
一方のチャリスンは気配を察知したのか、脚が震えだし、その場を動けないほど怯えた様子を見せている。
「どうしたよチャリスン、そんなに怯えてよ」
「チャリスさん、静かに……」
目の前の林、その奥から地鳴りが聞こえる。
木々がバキバキと折れる音、地面を蹴る音が近づいてくる。
「……ッ!!」
チャリスは事態を把握するとすぐに下馬し、背中の大槌を堂々と構えた。張り詰めた空気が瞬間を支配し、その緊張の糸が切れたかのように、目の前の木々をへし折りながら巨大な獣が現れた。
その獣は体高3メートルにも達し、黒い毛皮に覆われた体からは野生の匂いが漂ってくる。牙をむき出しにし、深く低い唸り声を上げながら、その表情には強い威嚇の意志と確かな敵意があふれていた。
頭部からは後方に向かって何本もの鋭い角が突き出し、その前腕は見る者を圧倒するほど筋肉質で、さらに堅牢な甲殻で覆われている。その様体は岩トロールですら一蹴してしまうのではないかと感じてしまうほどだ。
背中には角ほどの太さの鋭利な刺が突き出し、さらに長い毛で覆われた尾には、ナイフのような刃が恐ろしく光っている。
その長い尾っぽを入れれば、体長は7,8メートルはあるだろうか。
グオォォォ――――――ルルルル……!!!
大気を裂くような咆哮が響き渡り、その恐るべき声に一行は本能的な恐怖を感じた。
獣は姿勢を低くし、口を震わせながらこちらを警戒し、目つきは凶暴さを増す。
その目は赤く燃えるようで、見る者の魂を凍りつかせるような深い恐怖を与え、その場を支配した。
(これは不味いですぞ……!!!)
コスタンは身を挺し、ロランの前に出た。
(コスタンさん……!)
握る拳がわずかに震えているのが見えた。
この危機的状況に、ロランが無声通信でエリクシルに助けを求める。
《無声通信! エリクシルどうする! 銃でどうにかなる相手とは思えねぇっ!》
{{……計り知れない強さ、ですね。排除するには死を覚悟しなければならないかもしれません……}}
《斉射して逃げる時間を稼ぐかっ!?》
{{……待ってください。今まで遠くから様子を見ていて、今姿を現したのにはきっと訳があるはずです}}
《かといって魔物に話が通じるわけないだろ!?》
{{……ですが}}
エリクシルは、額から滝のように汗を出しているコスタンに目配せすると、衣装を改めた。
この場に似つかわしくない、巫女のような白銀のヴェールに包まれている。
コスタンはその姿を見て、思わず息を漏らす。
「おおっ…………」
《おっ、おいっ……!! エリクシルどういうつもりだ!?》
{……こちらに敵意はありません}
――――――――――――――
主。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093076981706791
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