141 ラクモと攻略
兼ねてから気になっていたこと。
ロランが無意識のうちに母親と重ねてしまった人物。
「……ムルコさんっていくつ……?」
「…………そこ、聞く? 気になるのもわかるけど……」
「……ここならだれも聞いてないって!」
ロランは周囲を確認しながら、少し声を弾ませて言った。
ラクモは少し躊躇しながらも答える。
「……僕に聞いたって言わないでね」
「もちろん! 誰かに教えるなんてことはしない!」
「……確か37」
「さ、37っ!? もっと若いと思った!」
ロランは目を丸くして驚いた。
ラクモも同意するかのように頷くと付け加える。
「12人も子供いるからね」
言葉には出さなかったが改めて思う、シヤン族は多産な種族なのかと。
エリクシルほどではないが、この世界の種族体系についての興味も湧くものだ。
「……そうかぁ。ラクモは何人兄弟?」
「内緒」
「ええっ!?」
(ラクモ、全然読めねぇ!)
そんな軽いやり取りのあとに控えるのはボス、
ロランはスラッグ弾を一発放ち、怪物の頭部と胴体を打ち砕く。一撃で退場だ。
「うっひゃー、スラッグ弾すげぇ……」
「ゾッとする」とラクモに言わしめるその威力は、ロランも初めて経験するものだった。
ラクモとの距離感も縮まり言葉も砕けた頃、向かうは地下3階層。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』地下3階層
ここでも腕輪型端末はうんともすんとも言わず。
「やっぱりダメか」
「レベル上げないとだね」
エリクシルのサポートがない中でレベル上げが続けられる。
3層の小型の
「連戦に次ぐ連戦だね、大丈夫?」
ラクモは息を切らしたロランに声をかけた。
多少の疲労はあるが、地上ではこんなに頻繁に魔物と戦うことなんてまずない。
「うん。 ……それにしても敵に遭遇するのも楽だし、ダンジョンって戦闘経験を積むのに最適だなあ。なにより解体の手間がないのもいい!」
ロランはゴブリンを解体した時の記憶が蘇る。
この先も、あの血生臭さに慣れることはないだろう。
「レベルアップの目標もあるし、みんながダンジョンに潜る理由がよくわかるでしょ」
「確かに!」
そんな話をしながら、一行はダンジョンを脱出する。
攻略時間は3階層まででおよそ1時間ちょっとであった。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』前
脱出後はエリクシルとの定時連絡で、
今後も周回のたびに攻略完了後の報告をする約束を決める。
{当然ですが3階層でも切断されたままの状態でしたね。レベルを上げて変化を期待する他はないようです}
「そうだな……」
魔物の再湧き時間を計算し、それに合わせて次の行動を計画する必要があった。
その間、ロランたちは短い休憩を取り、水分を補給し、食料を分け合った。
休憩は彼らにとって体力を回復させるだけでなく、次の戦いへの戦略を練る貴重な時間でもあった。
余った時間はコスタンの様子について報告を受けた。
昼食を先ほど終えたところで、あることが発覚したとエリクシルは報告。
どうやらコスタンは調理器などの機械類と相性が悪いそうだ。
{恐らくですが……。コスタンさんは
「でもよ、初めて使うんだ。使い方を教えたんだろう?」
ロランが尋ねると、エリクシルは困惑を隠さずに言う。
{……それがコスタンさんが触れると不思議と誤作動するようでして……}
コスタンが調理器のボタンを押すと、時間が3600分にセットされたり、調理器のオートモードが不調になって食べ物のコンテナが爆発したという。
「爆発っ……!?」
「それって普通は起こらない?」
「うん、コスタンさんは機械に嫌われてるかも……」
「ふはっ」
ラクモは思わず吹いてしまう。
「……じゃぁどうやって調理を?」
{わたしがシステムをオーバーライドして操作しました。試してみるもんですね!}
エリクシルはえっへんと胸を反らす。
とても自慢げで、褒めてもいいんだぞとアピールした。
「ええっ……物理的な接続はないはずなのに、すごいな……ほんとに……」
またもやAIの能力以上の、それも今回で言えば実体のないエリクシルが物理的な問題を解決したという結果に、ロランは頭を抱える。
彼女の成長は喜ばしいものだが、どこに向かっているのか、AIの進化に恐怖さえ感じてしまう。
「……そういえば、コスタンさんのリハビリはどう?」
今度はラクモが尋ねる。
エリクシルは仰々しくカルテを取り出すと、眼鏡を掛けて応える。
{硬直した筋肉や組織は超音波装置や柔軟運動で改善しています。あとはトレッドミルにて走り込みを実施してもらってます。2,3日で調整も終わると思いますよ}
「2か月かかる予定だったのに、すごいね。さすがエリクシルさん!」
{どういたしまして。ですがコスタンさんの復帰に対する熱意の高さと努力が、一番治療に影響を与えています。みなさんのためにと、すごく頑張っていらっしゃいますよ}
エリクシルは頬を染めながら一礼した。
コスタンの復帰が大幅に短縮となったことは一同にとって喜ばしいことだった。
(そうだ、喜ばしいことだ。前向きに考えよう……!)
ロランはそう思うと洞の入り口を鋭く見つめた。
「……俺たちもレベル上げを急がないとな!」
「だね。そろそろいこっか」
* * * *
――『タロンの悪魔の木』地下1階層
「ロランも近接戦闘にだいぶ慣れたね。どうだろう、毒持ち以外の
「……まじで?」
「まじのまじまじ。ほら、コスタンさんだってリハビリ頑張ってるよ」
顔に嫌悪感を湛えるロランに、優しく促すラクモ。
ラクモの言葉が深く刺さったロランはふぅーと一息ついた。
「……確かに、俺が頑張らなくちゃどうするんだって話だもんな」
「そうそう、前向きに」
「……いつまでも苦手なままじゃいけない。よし、やってみるか! ……んで、何かコツとかある?」
「こう、バーって行ってシュッ!」
ラクモは手刀を構えて振り抜いて見せる。
虫が苦手な俺に配慮しておどけてくれているんだろうか。
「へへ、格闘術の解説よりもめちゃくちゃ適当……! さっきみたいにコツとか教えてくれよっ」
「……さっきまでのはコスタンさんの受け売りも……すこしある」
(えっーーー! 『すこし』って、もしかして殆どそうだったんじゃねぇか!?)
ラクモが頬をポリポリ掻きながら、若干バツが悪そうにしている。
さっきのは冗談じゃなかったのか……。そういえば料理の教え方も感覚的だったもんな。
「……道理でしっかりしてたと思った! ラクモは雲みたいなところがあるよ……」
「あっ、それ別れた彼女にも言われた……グスッ」
(えっーーー! 泣いてんのこのヒト!? やっぱり読めない男だ……)
「……まぁ、ロランならできるよ。攻撃されそうになったら、ヒョイッってやってシュッ!」
ラクモは泣いたかと思えば次の瞬間にはケロリとし、今度は手のひらをくるりと回して振り抜いた。
「やっぱり感覚派すぎる……。これは実戦あるのみかもな」
ロランは額に手を当てながら苦笑いする。
強化服の身体能力強化は生身と比べて雲泥の差があるのだ。
(これも慣れてきたら使わないで訓練しないとな……)
次の相手は
「2体か、片方は速攻で潰すとして、もう片方はどうすれば?」
指導が感覚的だろうが、これも学びだ。
ロランが助言を求めれば、ラクモは快く指示を出す。
「その盾で防ぐか、躱すといい」
実際に盾で受けてみるとその威力も分かってくる。盾の木の部分がへこむ程度だ。
さすがに何回も受ければあの鋭い吻なら貫通するかもしれない。
「直で受けない方がいいんだな。ちょっと逸らす感じ」
「いいね! 正解!」
穴ぼこになった盾をエリクシルに修理して貰うことを考えつつ、今度は回避することに取り組む。
ボス部屋に辿り着くまでの戦闘で、ロランは飛び掛かるダニを、
ラクモはそんなロランの急成長を喜ばしく見つめている。
「ひゅー、やるねぇ」
「へへっ」
「さぁ、次」と促す先は
ボスは慢心せず慎重に、
「ドロップはなしか」
「残念」
* * * *
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