139 離脱と制限★
{詳細な分析のためには、頑張ってさらにレベルを上げていただく必要があります! 頑張ってください!}
「まぁ、そうなるよな……。よーし、頑張りますかっ!」
「そうだね!」
エリクシルの応援を受けて、さっそくふたりはダンジョンへ突入。
ラクモを引き連れてはいるが、パーティは組まない。
魔素をロランに集中させるという戦法で、レベル上げに勤しむのだ。
1階層を銃を惜しげなく使って安全に進み、あっという間に殲滅される魔物たちを見てエリクシルは呟いた。
{……
「銃の火力がすげぇからな。……脅威と言えば見た目もそうじゃねぇか? 気持ち悪いとかそういう意見はないのか?」
{私はそういう風には感じませんね。みなさんは気持ち悪いと感じるのですか?}
「うーん、苦手なヒトはいるよね。 ぼくも羽音とかは耳にぞわぞわきて苦手だなあ」
「俺も足がいっぱいあるのとか見ちゃうとなぁ……。小さいならまだいいんだけど、でけぇとインパクトが半端ねぇわ。エリクシルは先入観がないからそう思わないのかもな」
{わたしは生物学的反応を示すよりも先に、データとして客観的に見てしまいます。……もちろん気持ち悪い、可愛いといった感情も学習しているつもりですが、皆さんが苦手に感じるのはヒトとしての本能によるものかもしれませんね}
「本能かー。僕は蛇が苦手かも」
ラクモが苦手な対象に、なんとなく納得しつつ進むとあっという間にボス部屋だ。
「ふふん、毒腺さえ避ければ楽勝ってね!」
「コツさえ掴めば怖くないね」
{初めてのボスでしたが、相手が動く暇もなかったので戦闘データが取れませんでした。 大きさゆえに機動力が低いのですね}
「初回はやばかったんだけど、まぁ3回目だしなぁ」 「慣れたもんだよね」
ボスが何もドロップせずに消滅し、エリクシルはその過程をじーっと観察する。
{……体液までも塵となって討伐者の魔石に吸い込まれていく様子を観察できました。半分は地面に吸い込まれるんですね}
「へぇ、地面に……」
「……一体下になにがあるんだ?」
顎に示指をあてて考えるエリクシル。
{うーん、思いつくことと言えばより深層の……ダンジョンコア、とかですかね}
「地下に降りて行ってるって思えば、なるほどってなるな。ダンジョンが生き物なら、コアは心臓ってか?」
「……よくそんなの分かるね。考えたこともなかったよ」
{わたしはこれが仕事ですから、えへへ……}
頬をうっすらと赤く染めるエリクシルが照れながら両手を胸に当てた。
さて、ボスを撃破したことで2階層への入り口が出現している。一行はそのまま降りていく。
沼のような暗い闇の中を突き進み、ざりざりと微かな音がする中で、光の出口を目指す。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』地下2階層
「…………あれ?」
「エリクシルさんは?」
「いない……」
2階層に突入したが、さっきまでいたエリクシルの姿が見えない。
「確かに一緒に入口に入ったよね?」
「はい、間違いなく一緒だったんですけど……。おーい、エリクシルー?」
ロランとラクモの声が空虚な空間にむなしく消えていく。
ロランが腕輪型端末をトントンと叩いてみるが、こちらもうんともすんとも言わない。
「一度出ようか」
「……ですね。エリクシルと話した方が良さそうです」
ふたりは2階層の入り口から脱出し、洞の木の前へと戻る。
{……あっ!}
「お!」
「いたいた」
不安そうに洞の入り口を見ていたエリクシルがふたりに気が付くと、安心した様子で小走りしてくる。
{2階層への入り口に入ると同時に通信が切れたようです。すぐ戻ってくださったので安心しましたよ~!}
「俺も安心したよ、非常事態とかじゃなくてよかった。……でも、なんで切れちゃったんだ?」
{むむむ、下層に行くほどに魔素が濃くなっていくために通信が妨害されてしまうのでしょうか……}
「ようやく治ったと思ったらまた問題発生か、どうすりゃいいのかさっぱりだぜ」
ロランとエリクシルが思案していると、ずばりラクモが言い放つ。
「レベルが上がれば治るんじゃない?」
ロランとエリクシルが驚いたように目を合わせる。
{今ある仮説では、確かに妨害を受けないほどのレベル、魔素の総量があれば接続できそうな気もします……}
「俺もそんな気がしてきた! ……で、どうする? 1階層を周回してレベル3まで上げるか?」
{いえ、ザコ敵の
エリクシルが思いついたように悪戯っぽい笑顔をみせると、ロランの鼻先に顔を近づける。
ロランは軽く顔を仰け反ると、悔しそうな、でも嬉しそうな顔をした。
「くっ……。言うじゃねぇかエリクシル!」
「ふはっ、エリクシルさんやるねぇ」
「もともとエリクシルなしで4階層まで行ったんだ! 問題ないねっ!」
ロランもまた頬をほんのりと赤くしながら、意気込むように応える。
そのやりとりを、ラクモは穏やかな微笑みを浮かべながら静かに見守っていた。
「なんて頼もしいんでしょう! ふふ……ではレベルが3になったら報告をしてください! さっそくみんなで2階層を冒険しましょう!」
エリクシルの声には勇気づけられるような温かみがあり、その言葉が二人の戦士の背中を押す。
ロランは鋭い眼差しを向けながら力強く答えた。
「よしっ、やってやるぜ!」
ラクモも負けじと元気よく応じる。
「がんばろー!」
ダンジョンは薄暗い光に照らされつつも、ふたりの決意によって明るく感じられた。
彼らの前に広がるダンジョンの風景は、今までと変わらないかもしれないが、その一歩一歩が新たな挑戦へとつながっていく。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』地下2階層
1階層は先ほど倒されたばかりでリポップしていない。一行はボス部屋への最短ルートを進む。
エリクシル謹製のスラッグ弾により、為す術なく葬られた
2階層の小部屋のキノコを前に、ロランは装備を持ち替える。
「
「じゃあ僕はここで見学してるね」
ラクモは隅で観察する構えをとる。
「わかりました!」
ロランがそう言うと、トコトコと歩くのろまなキノコたちに対峙し始める。相変わらず一目散に体当たりしてくるキノコを盾ではじくと、キノコはドテッと音を立てて倒れ手足をバタつかせる。その光景に思わず肩の力が抜けてしまう。
(キノコ可愛すぎちゃってなぁ……)
しかしラクモの声が冷静さを取り戻させる。
「油断しちゃだめだ。戦闘中に気を抜く癖がついちゃうと深層じゃあ最初に死んじゃうよ」
ロランはそんなラクモの指摘を受けてすぐに姿勢を正し、バタつくキノコを縦に斬り付ける。
ダンジョン内での戦闘は、常に緊張感を持ち、一瞬の気の緩みが命取りになり得る。慢心や油断をしないよう、常に自己を律することが重要な訓練となる。
キノコたちとの一見平和そうな戦いも、それを忘れてはならない貴重な教訓を提供しているのだ。
「すいまっせん! キノコが可愛くてつい……」
「それに剣のキレが前見た時と違うよね。もしかして手を抜いてる?」
ロランは思わずドキリとした。このラクモ先生、結構厳しくて怖い……?
――――――――――――――
顔を近づけるエリクシル。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093076086883430
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます