パワーレベリング
137 『レベル2』
{誓約……それに感謝と決意……ですか。……ありがとうございます。ですがコスタンさんが倒れるのも避けなければいけません、ですから……}
エリクシルは気恥ずかしそうに微笑みながら、ロランに目配せをした。
「あぁ、そうならないよう注意するよ」
* * * *
{思った以上に木の魔物が硬かった件ですが……。
木の材質が変われば、靭性や耐久性も異なる。
二酸化ケイ素を含む
「エリクシルさんのトマホークでも硬く感じたよ、打ち直してもらわなかったら僕も危なかったかも」
「地下3階層のボスにしては耐久度も攻撃力も別格でしたなぁ……。これは大斧くらいは必要かもしれません……」
{以前聞かせていただいたダンジョンの難易度とはだいぶ異なっているようですね。ボスが明らかにわたしたちを殺しにかかっているような……}
「あぁ、
「ダンジョンが飢えてるのかなぁ」
「ふむ……外からの魔素を取り込むためにボスを破格の強さにする……。さらには4階層を
{わたしも同じ印象を受けました。しかしダンジョンについてはまだそれほど研究も進んでいないんですよね?}
「……と思っていましたが、ポートポランのギルドの蔵書が改編されていたりと、私が現役を離れている間に研究が進んでいる可能性も考えられます。王都の研究機関や学術機関であれば新しい論文も出ているかもしれませんな」
{王都にはそのような機関もあるのですね!}
「ダンジョンについての論文かぁ……」
ロランはもし読むことができるのならば、エリクシルに取り込ませればいいなと思った。
「お恥ずかしい話ですが、村やポートポランではそのような論文を目にする機会もなく、より専門的な話になると私もついていけないことの方が多いのですが」
{そういった貴重な知見は何かに属していなければお目にかかれないはずですよ。コスタンさんは充分に博識です!}
「ははっ、エリクシルさんに褒められると……ほっほっほ」
コスタンの朗らかな笑み、心底嬉しいのだろう。思わずこっちも微笑んでしまう。
話がいくらか脱線したところでロランが話を戻す。
「……コスタンさんは
正直な所そいつのためだけに、担ぐような武器は増やしたくはない。
となると。
「……スラッグ弾、作れないか?」
{従来の鉛のペレットではなく、一つの大きな固形の弾丸で構成されたスラッグ弾ですか? 確かに制圧面積は減少しますけど、貫通力と射程距離に優れています。……それに回収のしやすさもありますし、いいでしょう。14ゲージのシェルを流用してシンプルで製造も簡単なフォスター型に寄せてみます}
「お、おう。それがなんだかわからねえけど、100発くらい作っておいてくれ」
{はい、ではショットガンの弾を200発ほどラボに届けてくださいね}
「ロランくんの銃は弾を換えて威力が変わるのですな」
「矢じりの素材を変えるようなものなのかな」
「まぁ、そんな感じです。骨の矢じりより鉄の方が威力が増すように」
「……なるほど」
うんうんと頷くラクモ、よく伝わったようだ。
ロランは倉庫からショットガンの弾を回収するとラボへと向かい、リファイナリーのそばに置いたときにある物が視界に入った。
「これ、プニョちゃんの家……か?」
レプリケーターの奥にハムスターのケージよろしく、内部には回転台、水飲み台、自動給餌器、ふかふかのベッドのようなものが思える。
中には分裂後の愛くるしいプニョちゃんがふわふわと、ふよょ~~と可愛い声をだしながらエリクシルの如く浮いている。厳密には細い触腕で宙ぶらりん状態なのだが。
ロランは腰に付けたプニョちゃんの本体を見る。
うたた寝している小さな子犬のような姿。
分け身と随分違う様子に混乱する。
{あぁ、気が付かれました? プニョちゃんも立派なわたしたちの家族ですから、手厚い待遇をと思いまして}
「浮いてるのは……?」
{わたしを真似しているようですよ、ニョムさんに寄せた犬形態といい、主人と認めてもらったような感じがしますよね}
嬉しそうに笑うエリクシル。
ロランは自分も付かず離れず移動を共にしてきたのに、と思ったが。
エリクシルのように深くコミュニケーションをとったり、愛でるようなことはしなかったと悔いるほかない。
「……まぁ、弾は頼んだ……」
ロランはこれからは愛情を掛けようと決意する。
そして装備の問題が解決したところで、エリクシルにはさっそく弾薬の製造に取り掛かってもらい。
コスタンは今日と明日は術後の経過を見るために、休養という形でダンジョン遠征は不参加となる。
完璧な治療に終わったと思われたが、古傷を長年かばってきた弊害か、体のバランスが歪んでいるとエリクシルが指摘した。
当初の予定通りその歪みを改善するためのリハビリは必要で、休養中にもトレーニングは継続する方針だという。
とここで休日の存在について文化の違いがわかったのだが、これはまた別の話。
一同は夕食を終え、ゆったりとした時間を過ごす。
各自装備の点検をしたり、マシントレーニングを試したり。
船内をじっくりと見せたり、ロランの世界の映像をみたり。
もちろんロランはプニョちゃんに構いながらだ。
「あーーーっ!」
プニョちゃんを愛でながら、ふと、肝心なことを思い出すロラン。
{ど、どうしました!?}
「なにごとですか?」
耳をピコピコと動かし目を丸くするラクモ。
コスタンの窮地とその治療のことで、ロランは自身を襲ったある変化について失念していたのだ。
「そういえば俺……『レベルアップ』したと思います。胸が熱くなって――」
――全身の血が滾るような感覚。
コスタンもラクモもそれを肯定する。
エリクシルの促しによって、さっそくステータスを開示するロラン。
◆
ロラン・ローグ 23歳 戦士 自由民 レベル2
◆
「レベル……2!! やったー!!」
「おめでとう」
「めでたい!」
ロランの肩を叩き祝福するふたり。
エリクシルはソワソワと落ち着かない様子。
{さっそく検査しましょう! 今すぐ! あぁっ、ええと、まずは問診からですっ! レベルが上がって何か変わった様子はありますか?}
興奮しっぱなしのエリクシルにラボへと誘導され、問診からの診察が始まる。
* * * *
{……魔素の量が増えた以外に、内包物の生成等は確認されていません。筋肉量や骨密度、体重と身長も変化なし、知能も変わらず}
「おいあれ知能検査だったのかよ! 変なのやらせやがって!」
{力強くなったりすることはないと聞いてはいましたが、まさか何もかわっていないとは……正直がっかりです……}
「うぅむ、レベルが1上がった程度ではあまり感じないかもしれませんなぁ。10レベルともなれば、こう自信がつくというか……」
「うんうん、安心感が違うよね」
{それは本当に自信がついただけのような……}
「まぁまぁ、レベルが上がればスキルが成長する可能性があるだろ? もうちょっと上げてみようぜ」
「たしかにそれも良いかもしれません。最下層は
魔物の混成。
今までは階層ごとに魔物の種類が統一されていたが、そうではないということだ。
それは魔物に奇襲を受ける可能性があることを示している。
ラクモの嗅覚がいくら優れているとはいえ、エリクシル程万能ではない。
{2日目にして最下層に辿り着けたことは思いがけないことでしたね。レベル上げに興じるのもありかもしれません。ドロップ品も収集できますし}
「うんうん、プニョちゃんのごはんも増やしてやれる。レベル上げ、賛成だ!」
「なら明日はどうする? 休養日だって言ってたけど」
{コスタンさんは、もちろん不参加ですよ}
「おっ! ……まぁ、そうでしょうな」
「なら俺とラクモさんで2~3層を回るのもいいかもな」
「いいね」
{コスタンさんがいないのは不安ですが、比較的脅威度の低い2層と3層の魔物相手であれば許可しましょう。くれぐれも
「スラッ」
{スラッグ弾であってもです!!!}
「う、わかったよ……」
{全く
「ふはっ、夫婦だよねふたりは」
「えっ、そんなんじゃ!」
{夫が甲斐性なくて……}
「はっはっはっは」
「くっくっく……」
* * * *
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