戦力強化
131 ショートソードと手斧
* * * *
{……続いて入手したドロップ品の数々ですが、これもプニョちゃんが食べたがっていたとのことでしたね。こちらについては合成で使用したいものもありますので、予備が出た場合は与えてみることでいかがでしょうか}
「異論ないね」
{では、今ある分は保管しておきますね}
「おう! んで一つ提案があるんだけど――」
話は変わり、ロランの愛刀タイユフェルの試し切りをさせてもらったコスタンとラクモが、すっかりこの切れ味に惚れ込んでしまった件についてだ。
エリクシル謹製のタイユフェルのように、自前の武器を改良してもらえないかと頼み込んだのだ。
その対価として、今回のダンジョンで入手したすべての拾得物をロランが総取りとすることを提案してくれた。
一度は断ったロランの報酬総取りであったが、武器の改良代としてであれば有難く受け取れる。
それに改良できればパーティ全体の戦力が増強され、ダンジョン征服の安全性も高まるだろう、とエリクシルに説明した。
{船の外装を消費しない範囲で、特別な素材を必要としないのであれば、喜んで}
エリクシルは少し考えた様子であったが、条件付きで承諾してくれた。
特別な素材というのは、タングステンやチタンなどヴォイドの地に存在するのか確認できていない物などだ。
船内のレプリケーターで出力予定のふたりの装備も、以前作成した鋼鉄の槍と同じ素材で強化するつもりだ。
「大丈夫ですぞ! そちらの世界にある貴重な金属を使用しなくとも、素晴らしい仕上がりになることはロランくんの愛刀が証明済みですからな!」
* * * *
昼食を終え、すぐにコスタンのショートソードとラクモの手斧の改良に取り掛かることになった。
ふたりの武器を簡易スキャンしたエリクシルは、ひとまず芯鉄の変更や重心の調整などのオーバーホールを施すことになった。
そんなエリクシルも心なしかウキウキしている様子だ。
そういえば俺の武器を改良してくれた時も、楽しそうに説明してくれてたっけな。
{では内部の構造を分析し、おふたりの要望に合わせて改良方法を検討します。……ではコスタンさんからどうぞ、こちらの分析台の上に剣を置いてください}
コスタンが嬉しそうに分析台へ剣を置いた。
コスタンは武器の汎用性を高めることを求めていたため、両刃、鍔、柄、柄頭すべての形状を体形に合わせてフルカスタムすることにした。
刀身もネオニホン伝統の武器であるカタナと同じ造り込み製法によって、靭性と強度を両立できる。
ショートソードの取り回しの良さはそのままにして、斬撃、刺突、打突、殴打を兼ねる究極の鋼鉄剣に生まれ変わったのだ。
またデザインについても本人から要望があり、鍔に一角獣の意匠をあしらって欲しいとのことだった。
エリクシルがホログラムで完成予想図を表示すると、コスタンは飛び上がって喜んだ。
「ほっほーっ! これは楽しみですなぁーー!」
「今度は僕の番だね。僕はこんな感じがいいな――」
分析台に置かれたラクモの手斧は、投擲用も兼ねている。
エリクシルは投擲用の武器は斧のヘッド部分のブレードとハンドル部分の距離の比率が重要だと説明する。
ショートソードより厚みのあるブレードは高炭素鋼にしより強度と威力を増す。
それに伴って柄部分の一部を鋼鉄製に作り替え重量のバランスをとるのだ。
さらにヘッドの反対側に鋭利なピックを加えた。
持ち手を換えることで、よりピンポイントに装甲を貫いてダメージを与えられるように改良するのだ。
ハンドル部分は元の木製の柄を外装として再利用することで、見た目もこの世界に馴染んでいる。
エリクシル曰く、分類としてはタクティカル・トマホークとなり、軍用武器だそうだ。
投げナイフよりも重量があるため、有効射程距離が長くなるとのこと。
こんなものが頭に突き刺さったら即死だなとロランは考えながら、ラクモの弓筒を見て思いつく。
「エリクシル、ラクモさんの弓も強化できないか?」
しかしラクモから張力が変わると精度に関わると言われ、あっさり断られてしまった。
「なら……滑車付きの弓はどうですかね?」
張力が調整できる弓、それは滑車とケーブルが備わった
てこの原理を利用した滑車により、弓を引ききった時のホールド状態の負荷が抑えられているのである。
しかしエリクシルは、この世界では浮いた見た目になってしまうことを指摘した。
そして構造上の問題から現在の木製の弓を転用するのは難しいそうだ。つまり完全新規作成になると出費もそれなりにかかるということで、却下された。
弓はお流れになったが、ラクモより矢についての相談があった。
30本程持ってきたが、虫狩りで10本程折れてしまったそうだ。
もともと矢は、石や動物の骨を矢じりに、羽根は猛禽類から得て加工していたらしい。
ロランの弾薬を一から製造するよりは燃料を抑えられるということもあり、エリクシルが矢の補充を承諾した。
外で木を切り倒し、ワークベンチでシャフトを作り、石材から矢じりを作るという案もあったが、木材の水を抜くのに動力を使っては元も子もないということで却下された。
そうなるとシャフトや矢じりをアルミ合金、矢羽根をプラスチックで代用することになる。
どちらもゴミとなった食事コンテナを再利用できるため、素材はそれなりにある。
もし折れてしまっても回収すればリサイクル可能だ。
もちろん使用は今回のダンジョンのみに限るが。
「アルミとプラスチックを使うなら
{プラスチック以外にも滑車の機構や本体に金属、カーボンファイバーなどが必要になりますよ。……そうですねえ、魔石を集めて燃料を2,000分用意していただけるのであれば作りましょう!}
と、エリクシルは冗談を言ったつもりだったが、真に受けたロランが計算を初めて一同は驚愕する。
ゴブリンの魔石2,000個分、店で買えば20,000ルースだ。
これには天然なラクモも口をぽかんと開けて、自身の手斧をまじまじと見ていた。
{ラクモさん、それは分配の前払いなので大丈夫ですよ}
「あ、うん……。でも作ってくれたら大切に使うよ」
* * * *
装備の作成には2時間ほど要したが、まだ日は暮れてはいない。
ふたりはエリクシル印、そのままの意味でエリクシルのサイン入りの武器をいち早く試したいとずっとソワソワしていた。
外で試し切りをすることを提案すると、目を輝かせて一目散にタラップへと向かっていった。
エリクシルは、そんなふたりを{男の方ってみんなこうなんですか?}と呆れているように見えた。
草木を相手にして、武器の取り扱いや感覚を調節し、順応させるために外で試し斬りを行った。
ふたりは新しい武器の出来栄えに終始感動し、興奮している様子だった。
一同は新武器を実戦で使うのを楽しみに一度船内へと戻る。
それからコーヒーを飲みながら3層以降について話し合うことにした。
* * * *
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