132 植物園★
それからコーヒーを飲みながら3層以降について話し合うことにした。
* * * *
「ダンジョンの最下層が何階かはわかりませんが……。この調子で進めば特に苦戦することもなさそうに思えますな!」
コスタンはロランの武器に加えて自分たちの武器も準備万端ということで、上機嫌にコーヒーを啜りながらそう言った。
「そういえば、ダンジョンってだいたい何階まであるんですか?」
「規模によりますが、40階層を越えるダンジョンも存在していると聞いたことがありますな。しかしそんなダンジョンを攻略できる実力者はごく僅かで、私はせいぜい10階層までが関の山でしたが……」
「40階!? そんなに大きいのがあるんですか……」
『タロンの悪魔の木』ですらもう何度も出入りしては作戦会議を重ねているのに、40階層の攻略なんて一体どれくらいの時間と労力、準備が必要なんだ?想像がつかないな……
{うーん、ダンジョンについてはまだわからないことの方が多いんですよね。ダンジョンや内部構造による魔物の構成や格、パターンに特性があると予測も立てやすいのですが……}
「パターンって、6階層から格3の魔物が出始めるとか、11階層からは格4が出やすいみたいなことか?」
{ええ。例えば、5階層毎に魔物の格が1上がるダンジョンの場合は、40階層を越える時には格10とかになるのですかね……?}
ラクモは、質問を予想していなかったのか困った表情をする。
「僕はそこまではわからないな……」
「私にも……」
{ゆくゆくは他のダンジョンの情報も集める必要がありますね。しかし『タロンの悪魔の木』の最下層は何階なのでしょう?}
「若いので5階層前後ではないでしょうか……。ただの経験則からの勘ではありますが」
ラクモはさっぱりだという表情をして肩をすくめる。
{それならばいいのですが。もしもあまりに深い場合は、1階層から繰り返し潜る必要があることを考えると大変な労力ですね}
エリクシルの発言にコスタンがハッとした表情を見せる。
「あぁ、そのことでしたら! なんとですな、10階層まで攻略すれば次回からは
「へぇ~~!」
「そうなんだ、知らなかった」
スキップの話はラクモも初耳のようだった。
狩人をしつつダンジョンに入る冒険者の案内をしていたとのことだったが、その際に深くは潜ったことはなかったそうだ。あくまで本業である料理人として森で食料を調達する傍らの副業だ、命に危険をさらすほどのリスクは負わないようにしていたとのことだった。
{スキップ、これまたどうやって……。いえ、ダンジョンとは非科学的なものでしたね。内部の構造や入り口の不可解さを考えれば有り得ない話ではないんでしょうね。しかし強い侵入者をより深層に誘き寄せやすくなる、その意図は図りかねますが……}
ファンタジーを非科学的という言葉だけで片付けられるようになったエリクシルに、ロランは(この世界に染まってきたなぁ)と感心する。
「だったら『タロンの悪魔の木』が10階層より深くても、スキップできるなら大幅な時間短縮ができますね」
「うむ……。征服を目指すならば苦労は避けられませんが、スキップできるだけありがたいことでしょうな」
今のところはロランがレベル1のまま攻略を進められているが、いつ難敵と遭遇するかもわからない。
エリクシルから、格3の魔物が出現し始める可能性がある6階層を前に、ロランに様々な武器を用いた魔物との立ち回り、弱点などの知識と経験を積ませてはどうかと案があった。
今後のことを考えれば、
レベルの向上によってスキルの獲得や、スキルレベルの上限が上がる可能性もあるため、今後はスキル修練やレベル上げに勤しむ必要も出てくるだろう。
皆の意見を聞いた結果、ダンジョン攻略の様子を見ながら、並行して修練に励むことが当座の目標となった。
今日は準備ができ次第、第3層の攻略を再開する。
そして明日、つまり攻略3日目の午前は、通信機器を渡すためにシャイアル村まで鍛冶師のチャリスを迎えに行き、午後はロランの稽古というスケジュールになった。
「そうと決まれば地下3層へと行きましょうか」
「うん、わかった。手斧を使うのが楽しみだよ」
{ロラン・ローグは新しい武器に喜んで机の角を切るような失態を見せました……。皆さんもくれぐれも夢中になってケガなどしないようご注意くださいね? なにせこのエリクシル印の武器ですから!}
エリクシルは呆れたような、意地悪をする子供のようないたずらっぽい表情でそう言ってみせた。
「おいっ! 言わなくてもいいだろっ」
「はっはっは」
「くっく……」
エリクシルの水をさすような告発にロランは苦い顔を見せるが、当の本人はからからと笑うしぐさをみせて楽しそうにしていた。
皆で笑いながら、名残惜しいコーヒータイムを終え、プニョちゃんの分け身を置いて船を出発した。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』地下1階層
1階層は相変わらず
ロランの銃撃とラクモの弓矢で沈め、最短ルートで下層へと向かった。
ドロップ品はなし。
――『タロンの悪魔の木』地下2階層
「この階層ならば手も掛かりません。ここは一度ロランくんをパーティから外して、個人でレベル上げをしてみましょうか」
「そうだね」
「え、魔素を分配しなくていいんですか?」
「ええ、ロランくん一人で敵を倒し魔素を独占した方が、3人で分配するより効率が良いですからな」
「……わかりました。俺もそろそろレベルが上がってほしいと思ってたんで、やらせていただきます!」
ロランはパーティ脱退を唱えると、やる気に満ちた面持ちで正面の通路へと進んだ。
* * * *
難なく2階層のキノコを殲滅するも、残念ながらロランのレベルは上がらず。
ここでボスに挑むために改めてパーティへ加入。
冬虫夏草を圧倒すると、再びドロップ品が落ちた。
今度はまるでボスをそのまま小さくしたかのような、蟻からひょろひょろのキノコが生えている物体だった。
コスタン曰くこれが
そしてコスタンのうろ覚えではあるが、この素材も免疫力を高める有用な錬金素材になると言う。
ロランにとって重要な素材となる物だが、彼はこれを心底気持ち悪いと感じながらも、丁重にしまった。
* * * *
――『タロンの悪魔の木』地下3階層
最初の通路には
虫やキノコと同じくその姿は多種多様なようだ。
大きさは50センチ、球体のように絡まった根に4つ足が生え、頂部からは芽が出ている。
ロランはキノコに続き、どこか可愛らしい魔物の姿につい気を緩めてしまう。
コスタンさん曰く、こんなのでも大きくなるとヒト型形態になるのもいるのだとか。
(同じ格1でもゴブリンや虫と全然違うじゃねぇか……。それも格が上がると可愛くなくなるのかな……)
可愛い見た目に躊躇するロランとは反対に、コスタンとラクモは浮足立っている様子だ。
キノコの魔物をロランに譲ったため、新装備の実戦投入がお預けとなっていたからだろう。
「やっと私たちの出番ですな……! 本音を言えばキノコでも試し切りをしたかったのですが、それはまた今度です!」
「わかる」
ロランを差し置いて愛らしい
スラリと抜かれたショートソードの剣先がチラリと輝き、革の鞘から抜かれたタクティカル・トマホークは鈍い光を放っている。
不思議と
まずはコスタンによるショートソードのひと薙ぎ。
続けてラクモのタクティカル・トマホークの振り下ろし。
がんじがらめに絡んだ根っこが斬り落とされ、その断面は芸術的な美しさだ。
ふたりが目を見合わせ、その表情からは自然と笑みがこぼれている。
……確かな手ごたえ。
ロランは心の中で可愛い
「どう……でしたか?」
ふたりはニヤリとして見せる。
「これはすごい。手ごたえがやっぱり違うよね」
「キノコよりも遥かに硬い根っこがこうも簡単に……」
ふたりは武器を絶賛しているが、それは技量があっての威力だ。
力任せに斬っているロランはそれを理解している。
「これほどの武器は王都でもなかなか買えますまい……」
「コスタンさんのは体の造りに合わせてもらってたもんね、名だたる名工でもそこまではできないよ」
「なにしろ
一同はエリクシルを讃え、感謝し、自慢の武器を愛でた。
気分も乗った状態でこの植物園を回ってゆく。
蕾の魔物、歩く樹の人形、食虫植物……この階層の魔物も多種多様だが、苗木や若木が多いため特に苦労することもなかった。
一同は地図を埋めながら、ボスの部屋へと辿り着く。
「さて、道中は楽でしたがここは気合を入れねば……」
コスタンの仕切り直しに皆も十分に気合を入れると、ボスの部屋へと通じる闇ををくぐり抜けた。
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マッピング。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093074183419549
植物類。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073494471588
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