129 地下3階層突入と冒険の先に★

 

「次は地下3階層ですな……」

「降りたら一度出ましょうか」


 *    *    *    *


 ――『タロンの悪魔の木』地下3階層


 5メートル四方の部屋のような構造は変わらず、より一層木々が密集した壁となっている。

 色合いも深緑で、木々の匂いも一層濃く感じられる。

 相変わらずラクモは臭いをフンフンと嗅いでいる。


「ラクモさん、どうですか?」

「深い森の匂いは強いけど……虫でも、菌でもないね」

「……と言うと?」

「うーん、小部屋を見なきゃわからないや」

「どれ……エリクシルさんへの報告の前に1体くらい見ていきますかな……」


 ロビーの通路から小部屋に向かう。

 最初の部屋には…。


植物プラント類ですな。確か枝葉族リーフキンや、歩く樹トレントなどの樹人族ウッドキンなどですな」

が動くってことです……よね? 」 「うん、そうだよ」


 地面から生えている苗木のような魔物が2匹。

 緑の体表はつぼみのようで、腕を模した二枚の葉に加え、つぼみの先からは葉が生えている。

 名前を幼苗木シードリングと呼ぶらしく、片方は倍近い大きさがあるが、さほど強い魔物ではないらしい。報告前に倒してみることにする。


「じゃあ今度は僕が」

「ではもう片方は私が足止めを……」


 ラクモがコスタンに合図を送り、手斧を片手に小さい方に向かっていく。

 ふたりの接近を感じ取ったのか、幼苗木は地面から這い出し、根のような足で歩み始めた。

 大きさは40から80センチ程度で、速度は茸生物マイコニドと変わらない程度だ。


 サクッ!

 大きい方はコスタンが鋼鉄の槍で貫き、足止めする。


 ザッ!

 小さい方は胴体部分に手斧を振り下ろされ、深々と刺さり塵となって消えた。

 そして残った方に2撃、斬り込んで塵となった。

 幼苗木シードリングは両名の体格と力の差に、なす術もない。


「植物なら鉈剣、斧が有効そうですね」

「ええ、樹人族ウッドキンにはあまり剣と槍は通じませんが、斧なら有効です」


 苗木や若木程度ならば枝も柔らかく、斬撃を通しやすいが、樹木となるとそうはいかない。

 幼苗木シードリングですらサイズによっては斧で両断することが難しい。

 草木の繊維は思った以上に頑丈なのだ。

 ふたりが倒した魔物から出た光の塵が、自分の方に引き寄せられていくのを見て思い出す。


「そう言えばまだレベルが上がらないんですよね……。レベルって上がったらわかるもんなんですか?」


 ロランはステータスを開示しながら訪ねる。


「わかるよ、上がったなって感じがする」 

「うむ、胸が熱く、血が湧きたつような感じがしますな」 「そうそう」

「なるほど……?」


 こればっかりは実際に経験してみないと感覚は分からないかもな。


「あと、俺たちは結構サクサク倒しているとは思うんですけど、レベル上げとダンジョンの攻略速度としてはどうなんですか?」

「尋常ではなく速いとしか言いようがありませんな。いやまぁ、ロランくんの装備が強すぎましてなぁ……。レベルに関しても、もう上がってもいい頃合いだとは思うのですが……」


 コスタンはマッピングなどに使用している羊皮紙と懐中時計を取り出し、それに目を落としながら続ける。


「私たちはここまで来るのに1日ちょっとしか掛かっていませんが、初心者であれば1階層だけでも数日掛けです。何度もダンジョンに出入りすることもザラで、都度パーティの連携や魔物との相性など戦術や装備、持ち込む道具を練ります」

「1階層に数日ですか、それに相性も……。確かに害虫ヴァーミンが相手だと大変そうですよね。遠距離武器がないと危ない敵が多かったです」

「ええ、虫、いや……害虫ヴァーミン相手では毒に裂傷、出血と損耗が激しすぎるでしょうな。たとえ茸生物マイコニド相手であっても、よっぽどの力自慢がいなければ寄ってたかって叩いて倒す程でしょう。一太刀で屠るにはそれなりの技術や力が必要となります」

「……そう言えばコスタンさんは冒険者等級は5だったんですよね? それって中級者くらいなんですか?」


 コスタンは話が長くなりそうだと思ったのか、ロビーの方へと戻ることを提案する。

 一同は小部屋の中央に荷物を置き、ドカッと腰を下ろした。

 ラクモはポーチからおもむろに糧秣を取り出して皆へ配る。

 ラビ肉のジャーキーだ。

 燻してあるため、噛めば噛むほど濃い味が染み出す。


「硬いけどこの味、癖になりますねっ!」

「うむうむ、ダンジョンで食べるのは懐かしいですなぁ……」

「ふふっ……」


 約束の1時間までもう数分ある。

 船までは30分掛かる、その前に少し休憩をしても良いだろう。

 皆でジャーキーに噛り付きながら……。


「……等級は5でもレベルが19だったので、中堅に片足を突っ込んでいた、くらいでしょうな」


 コスタン曰く5レベルで初心者卒業、10レベルで初級者、15レベルを超えてようやく1人前、上級者となれば30レベル越えだそうだ。


「20レベルってのはそれほど大きな壁なんですね……」

「ええ、格4の魔物となると、魔法や技能スキルを当たり前に扱い、岩トロールのように屈強なものも多くなります。初級者の多くが中級へ上がれず死亡するか、昇級を諦めてその地位でできる依頼をこなして生計を立てる者もいます。……私のように引退する者も少なくないでしょう」

「なるほど……」


 ロランはコスタンの顔をじっと見つめる。

 遠くを見る目の横にはしわが刻まれているが、熟練の剣士を思わせる精悍な顔つきだ。

 髪の毛は少し薄いが、年の功を感じさせる博識ぶりに、お茶目で頼りがいのある俺の師匠。

 自分もこんな良い年の取り方ができればなと、ふと思う。


 冒険者復帰をしたとしても、年齢を考えれば第一線は退いていてもおかしくはない。

 だからこそ師匠となり、後の者に繋ぐためできることをしているのだろう。


 冒険者は命あっての職業だ。

 昇級を諦める理由も様々だろう。挫折に怪我、守るべき家族やトラブル……。

 自身の命と天秤にかけ、その地位に甘んじて日銭を稼ぐ者もいるだろう。

 しかしそれを責める者はいない。

 それほどまでに冒険者という仕事は常に死と隣り合わせなのである。


 よしんば、運よく格を上げることができたとしても、上級者への道のりはまだまだ遠い。

 その運が長続きしなければ、待っているのは怪我や死だ。

 とどのつまり、日々の研鑽、才能、実力が物を言う世界なのだ。


 ロランはこの地からの脱出と家族の捜索を目的としていたが、彼はこの世界に根を張る冒険者たちの生き様に心を奪われていた。

 家族を見つけるために銀河を彷徨い、その日銭を稼ぐ生活には終わりの見えない空虚さを感じていた。

 ロランはそんな想いをグッと飲み込む。想いを押し殺すような感覚が胸を締め付ける。


「……おっと、そろそろ時間ですな。エリクシルさんを待たせるのも悪いですから、帰りましょうか」

「……はいっ!」


 *    *    *    *


――――――――――――――

コスタン。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073880887840

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る