128 キノコの王国★
「矢と槍はあんまりか……。俺の銃だとどうなるんですかね、次のやらしてもらっても?」
「えぇ、もちろん」
通路を左に進み、今度は体高50センチの四つ足の
犬のようにトコトコと這い回っている。
「ちょっと可愛すぎて……」
そう言いながらも、今度は
ダッーン!
その衝撃にキノコが吹き飛び、転がる。
弾は見事に貫通し後面の傘と茎の一部を歪に裂いた。
起き上がりヨタヨタとロランに向かってくるのを、コスタンが真っ向から切り伏せる。
今度のキノコも縦に両断され塵となって消えた。
「効きはしますけど、剣で倒した方が良さそうですね……」
「うむ。しかしもうひとつの銃ならどうですかな?」
「あぁ、そう言えば」
次の通路に進むと、行き止まりの小部屋に2体のキノコが立っている。
燃えるように赤い、照りのある傘から気色の悪い小さな傘を生やしている。
「片方は私が」
「これはあんまり可愛くない……」
ロランの
ショットガンの暴威、キノコの8割が派手に吹き飛ばされ、塵となって消えた。
その瞬間、ポンと中空からドロップ品が現れた。
「お、ドロップするところ初めて見ましたっ! 面白れぇ!」
「……キノコですな」
コスタンが
「……食べられるんですか?」
「さぁ……」
「無理じゃないかな……」
プニョちゃんは食べる気満々で瓶に顔を押し付けている。
その場では与えず、一応はエリクシルの確認を待つことにした。
「プニョちゃん、ちょっと待っててくれよな」
「……それにしても、その銃は相変わらずの威力ですな」
「えぇ、これなら一発……。でも弾がもったいないですね」
「剣で倒せるならね」
戦闘が長引けば胞子が効いてくるのかもしれないが、今のところは戦力が過剰で脅威にもならない。
この階はキノコのボーナスステージだろう。思わずジャンプしたくなるな。
一行は足早に2階層を回り地図を埋めることにした。
今度は真っ赤な傘に黄色い刺の生えた
刺を飛ばしてくるらしいため、
次なる
ロランが愛刀タイユフェルの切れ味を試すこと提案し、強化服を起動した。
服の恩恵も試すために横斬り、縦斬り、袈裟切りを順に試す。
どの斬撃もキノコの繊維を無視した切れ味を発揮し、その結果にコスタンとラクモも驚きを隠せない。
強化服無しでも結果は同じだったことから、単純に武器の性能の違いだろうとの結論に至った。
ふたりはタイユフェルで試し切りしてみたいと切望し、続く小部屋のキノコたちがその餌食となった。
キノコたちは練習相手には丁度良いようだ。
「砦でゴブリンを一太刀で真っ二つにしたとは聞きましたが、まさかこれほどのものとは……」
ロランはコスタンの発言にんん?と首をかしげる。
(いや、してないぞ……。首を刎ねたに尾鰭がついたのか?)
コスタンの話に苦笑していると、今度はラクモが尋ねる。
「これって前にコスタンさんが素振りさせてもらったのを、エリクシルさんが改良したんだって?」
「そうです。船の素材を使って強度と鋭さを増したって言ってました」
素振り……というと薪割りの時か?
コスタンさんはラクモさんにその時のことを話していたんだな。
「……チャリスさんもよくやる方ですが、エリクシルさんは別格、
「ホント、これなら何でも切れそうだね」
ふたりがタイユフェルを絶賛し、ロランは自分の事のように照れる。
そしてエリクシルにもこのことを伝えてやらないと、と思うのであった。
数体倒したところで茶色のマッシュルームからドロップ品を得た。
そのままマッシュルームの見た目をしたそれは、香りも良くてちょっと美味そうだ。食べないけど。
そして次なる敵は、網を被ったような独特な外見の
こいつは足のような石づきは生えておらず、その場を動かない。
戦闘態勢になると、眼に見えるほどの量の胞子を周囲にまき散らすらしい。
防毒マスクのおかげで毒に罹ることはなかったが、眼から入ったのか、涙とくしゃみが止まらなくなってしまった。
ドロップ品はキノコの菌糸、プニョちゃんの反応からして錬金素材だろう。
30分ほどの休憩で症状が治まったので、攻略を再開することになった。
そして魔物はその30分で
小部屋の床から大量のキノコが生えてきたのを見て大層驚いた。
キノコの群体とでも言うのだろうか、子犬サイズのキノコが走り回り、飛び蹴りしてきたり頭突きをしてきたりとてんやわんやだった。
足で踏みつぶしたり、捕まえて千切っては投げちぎっては投げ……、ちょっとかわいそうだな。
ようやく処理が終わって一息ついたころ、安全地帯はロビーにしかないのかとコスタンに尋ねれば、稀に魔物のいない小部屋も存在するんだとか。
それは大きなダンジョンで見かけるらしい。オアシスとかセーフハウスみたいなもんか。
と、次の小部屋に行く前にショットガンのペレット回収を試みたが、すべて拾いきるのは無理だ。
そう思って早々に諦める。エリクシルにどやされないといいが……。
ボス部屋の前には赤い傘に白斑のキノコが2匹寄り添ってくつろいでいた。
正直地下1階の虫と比べると、この階はファンシーすぎてほっこりしてしまう。
この調子ならボスもただの大きいキノコのような予感がするが……。
ボスを前に気を引き締める腹積もりで、愛刀タイユフェルで処す。
とここでファンシーなキノコからドロップ。
「闇の魔石ですな」
「キノコが落とすんだね……。初めて見るよ」
煙水晶のような見た目の魔石だ。
初めて手に入れたが、宵闇の住民がそれを有しているらしい。
キノコが闇……、暗くてジメジメしているところに生えてるイメージがあるけど、そういうことなのか?
魔法や魔道具の触媒として使うらしいが、想像もつかない。
ちなみにプニョちゃんは目をキラキラさせて欲しがっているように見えた。
ボスを前に小休憩して、いざ挑む。
大きなキノコ、待ってろよ!
* * * *
――ボス部屋
「げぇっ……なんだこいつ」
「どう見ても
中央で身構えているのは体高1.5メートルのどうみても虫なのである。
見るからに凶悪そうな顎に、刺の生えた腹、毒のありそうな尾針。
ひとつ気になるものがあるとすれば、背中には不思議な物体がくっついていることだが……。
「コスタンさん、ボスってその階層の上位個体とか強化個体って言っていましたよね?」
「そのはずですが……」
「んー……甲殻の隙間から生えてるの、森で見たことあるような。寄生してるの」
ラクモの言葉で、顎髭を撫でながら「うぅむ」と思案していたコスタンがハッとする。
「寄生と言えば……
「ちゅうそう……。さすがコスタンさん、虫博士だね」 「いやいや、なんの……」
ちゅうそう?ふたりは何か思い当たるものがあるようだが、ロランにはさっぱりだ。
「寄生されてるんですか? あの虫」
「えぇ、
「乗っ取られてるんスか……まじかよ……ゾンビ蟻……」
頭部の後ろと胴体の背中部分、甲殻の隙間からヒョロヒョロとした軸が飛び出し、先端は丸みを帯びた穂のようなものがある。
キノコが虫を操り人形にする……菌類にどういった意志があるのか……
額に汗をにじませるロラン。
そして
悩んでいるとコスタンが口を開く。
「……私もこの手の魔物は初めて戦います。ひとまず頭部をショットガンで、ですかな。最大火力で攻撃してもらうのが良いと思います」
「うん、いくら操られてるとはいえ、頭がなければできることは減るだろうね。僕は念のため腹部を射ってみるよ」
ロランが
耳を伏せたラクモがその横で腹部を狙う。
ガウンッ!!バギィッッ!! バツッ、ッド!
ギギャ!ギュチィ……
ペレットが頭部の大半と背中の
のたうつが一向に死ぬ気配もなく、腰を折り曲げて腹部をこちらに向ける。
その腹部の先端の尾針からはなにやら滴っているようだが……。
「ロランさん、腹をもう一度!」
コスタンの焦ったよう叫びにすかさず応えるロラン。
頭と腹部を失った
頭部と腹部の空洞に菌糸がびっしりと生えているのが見えたかと思うと、塵となって消えた。
一同は汗を拭い、気が抜けたのか座り込んだ。
「ふぅ……おっかねぇ……! ドロップはなしか」
「……
「見間違いじゃなかったんだ……。あんな感じで乗っ取っていたんですね」
寄生……。
死んだ身体にあの菌糸がくっついて乗っ取るのか?
それとも生きたままじわじわと自我を失うのか……?
そこまで考えてから頭をぶんぶんと振り、深くは考えないことにした。
「……不気味な敵でしたが、次は地下3階層ですな……」
「はい、降りたら一度出ましょうか」 「わかった」
――ドロップ品:闇の魔石、形の異なる小さなキノコx2、キノコの菌糸
* * * *
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https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073494470125
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