リベンジ

125 地下1階層再突入★

 

 彼女はこの発見と計画を明日、ロランたちに説明することを決意していた。


{この進化の過程は、プニョちゃんだけではありません。……わたしたちの未来に大きな可能性をもたらすかもしれません!}


 *    *    *    * 


 ジジッ、ジーージジッ、ポーーーン

 短いノイズの後に小気味よい音が鳴り、船内にアナウンスが再生される。


{おはようございます。皆さん、定刻になりました。恒星間年月日は統一星暦996年9月17日の6時です。本日は皆さんに重要な報告があります。食事を済ませたらラボにお集まりください}

「くわぁ~よく寝た……。それにしても重要報告ね……」


 大きく背伸びしながら自室からリビングへと向かう。


「おはようございます! ロランくん」 「ロランさんおはよう!」

「おはようございます! コスタンさん、ラクモさん! よく眠れたようですね?」

「ええ、おかげさまで……!」

「知らないベッドで眠れるか自信なかったんだけど、落ちるように寝ちゃってね」


 皆、新しい環境でも快眠だったのであろう、清々しい顔をしたふたりから朝食の希望を聞く。

 ヴォイドの地の食事は基本1日2食、朝食と夕食にパンやスープ、干し肉などをがっつり食べる。

 昼前後に軽食やオヤツ休憩をとることはあっても、この基本サイクルは変わらない。

 ロランが村に訪れていた時は、非常時や歓迎会の意味合いもあって、普段のサイクルとは別に食事が振舞われていたのだ。


(今までの俺ならシリアルとかバーで軽く済ませるんだけど……)


 ロランはふたりを尊重しそのサイクルに合わせ、朝からたっぷりの食事を用意することにした。

 もちろん自分の分もである。数日ではあるがムルコ達と一緒に朝食を摂っているうちに、朝になると自然に腹が減るようになってきたのだ。

 冷凍品ではあるがベーコンとスクランブルエッグ、パンは調理器で焼き立てを、スープは粉末の物を熱湯で溶かした物を用意した。

 相変わらずの調理時間の短さにふたりは驚きながらも、船内で漂流者の食事を食べると言うイベント感もあって、朝からテンションが高くなっている。


 食事を済ませ、コーヒーを振舞う。

 犬だけど猫舌のラクモさんにはたっぷりのミルクでぬるめにし、甘いものも好きとのことで多めに砂糖を入れてみた。それも大層気に入ってくれたようだ。


「うむ、見た目は完全に泥水ですが、なんともいえぬ香り! これが飲まずにはいられませんな。"味変"のミルクと砂糖も、これまたよいものですな……!!」

「うーん、これは落ち着くね……」


「気に入ってもらえてよかったです。今日は1日ダンジョンなので、休憩にシャイアルケーキと飲めるように少し持っていきましょうか」

「それはありがたい!」

「ダンジョン征服に来たのにこんなに楽しいなんて、油断しないように気を付けないとね」

「ですね……!」


 ロランはコーヒーを保温ボトルに注ぎ、その辺に投げ捨てたままのバックパックに仕舞う。

 3人がリビングからラボへと向かうと、白衣姿のエリクシルが出迎える。

 そして分析台にお行儀良くしている見慣れない生物に一同は目を奪われた。


「エリクシル、そいつは……?」

{プニョちゃんですよ}


 笑顔のエリクシルが子犬型のプニョちゃんを紹介すると、パウッと小さく鳴いた。


「ニョムさんが面倒を見ていたスライム……」

「……犬?」

「プニョちゃん犬になったのか!? また進化!?」

{はい、そうなんですよ――}


 エリクシルが昨晩の出来事について説明を始めると、コスタンは初めプニョちゃんがコミュニケーションを取れることに懐疑的だった。しかしプニョちゃんが伏せやお手といった芸を披露するのを目の当たりにし、その能力を信じざるを得なくなったようだ。

 ロランはエリクシルがプニョちゃんに芸を仕込んだことに「まじかよ」と驚嘆し、プニョちゃんがレベルの壁を越えて成長していることにも感心する。

 さらにプニョちゃんが医薬品や錬金素材を取り込んだと知り、その理解を深めようとするも能力が追いついていないようだ、ということも知らされた。

 プニョちゃんに思考力が芽生えた事にも驚きだが、向上心まで持ち合わせているだなんて……。


 エリクシルによる説明会は、プニョちゃんに起きた驚くべき進化と、それに伴う新たな可能性について、皆に共有する貴重な機会となったようだ。


「……とりあえず餌をたくさんあげて成長させればいいんだね。それにしても、前見た時よりも随分大きくみえるけど」

「瓶に入らねえもんな……。プニョちゃん、放し飼いにするか……?」

{入れ物がないのでそうする他ないんですよね。こちらの言う事を聞いてくれるので、勝手にどこかへ行ってしまうことはないと思いますけど}


 やや不安げな表情をしたふたりがプニョちゃんを見下ろすと、上目づかいでこちらを見上げていた。

 まさか置いてけぼりにはしないよね?とでも言いたげなウルウル目だ。

 ……うーん、可愛い。


「……コスタンさん、魔物って街に連れていけるんですか? たしか魔獣使いってのがいるって以前……」

「プニョさんをギルドで登録すれば大丈夫かと。それと管理下にあることを示す首輪も……」

{手続きを踏めば大丈夫なのですね!}

「しかしこの姿、スライムには見えません。新種の魔物のようで、とても目を引くと思いますが……」

「……やっぱり無理にでも瓶に入ってもらうしかないのか……?」


 ロランがそう言うや否やプニョちゃんは反応し、体をぶるぶると震わせながら、驚くべき行動を取る。

 プニョちゃんの身体が2つに分かれ、その片方が瓶の中にすっぽりと入ってしまった。

 エリクシルはこの現象を目の当たりにし、驚きと共に理解を示した。


{分離しました! なるほど、多細胞生物なので小核を渡せば分身を残せるのですね!}

「えーと、分身ってことはまた合体もできるのか?」

{恐らくそうですね。あっ、ちょうど……}


 プニョちゃんは示し合わせたかのようにするりと瓶から出ると、分身と合体し大きくなって見せた。


「すごいな……鳥使いの鳥よりも頭が良いと見た」

「このスライムはいったいどこで?」


 プニョちゃんは元々ロランの世界、ネビュラから連れてきた生物であること、そしてスライムとは異なり宇宙アメーバという種類であることがエリクシルによって説明された。

 この地に来てから意思疎通が可能になった原因は不明だが、プニョちゃん自身もロランと同じく成長を遂げているようである。

 エリクシルはプニョちゃんがその成長に伴い、ポーションの改良に役立つ可能性があると期待しているのだ。


「なるほど。従魔の扱いについてはわかりませんがパーティの一員であるとすれば、ダンジョンに同行することで成長させることも可能かもしれませんな」

「うーん、戦力にはならないけどポーションの改良ができるかもしれないのなら連れる価値があるね」


 分け身のプニョちゃんは引き続きエリクシルの研究を手伝いうことに決め、本体のプニョちゃんを瓶に戻した。

 一同はプニョちゃんのレベル上げも兼ねて、3人と1匹?でダンジョンに再突入リトライすることを決めた。


「じゃぁ、さっそく出発!」


 *    *    *    *


 ――『タロンの悪魔の木』


{ロラン・ローグ、くれぐれも気を付けてくださいね!}

「あぁ、今度はヘマしねぇ! 『ポーション』に『毒消しの丸薬』、『癒しのスクロール』も持った! 何もなければまた一時間で戻るな」


 持ち込む道具には本番に備えて取っておいたものを追加した。

 ロラン一行、新生プニョちゃんを正式にパーティへ加えてダンジョンへ向かう。


 *    *    *    *


 ダンジョンへの侵入は、その不気味な感触に変わりはなかった。

 そして再びロビーで立ち回りを確認する。


 今回も毒を持つ魔物は極力避け、昨日と同様の陣形で進行することになる。

 ロランは適正スキルを獲得するために、ショットガンベルバリン 888の使用を継続することも考えている。もちろん使用する相手は慎重に見極める必要があるが、注意深く対象を選べば、面での制圧力に優れるショットガンは害虫類ヴァーミンの種類を問わず有効な武器であることが期待される。


 モンスターの再湧きリポップを確認しながら、毒芋虫ポイズンキャタピラーのいないルートを探す。

 リポップしたであろう尾針蜻蛉ニードルフライ金鎚蜱ハンマーマイトの他、血色蜱ブラッディマイトショットガンベルバリン 888で木っ端みじんにしながら進む。


 ダンジョン内を慎重に進みながら、コスタンが手書きのメモでマッピングを行う。

 その後一行は無事に最奥にあるボスの部屋へと到達した。

 ここまでに被害はなく、先手の有利を最大限に活用できている。


 ドロップ品はふたつ、虫の甲殻と翅を入手したが、用途不明だ。

 持ち帰ることを考えたが、プニョちゃんが欲しがったので後で与えることにした。


 一同は地下1階層の小部屋を全て回り終え、最後に物々しい雰囲気を放つ小部屋へと辿り着く。

 正面には壁に穴の開いたような闇が広がっており、ダンジョンの出入り口と同じ構造のように見える。


「ここがボス部屋……ですか」


――――――――――――――――

分け身。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073485346163

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