124 プニョちゃん、進化する?★

 

 今日もセンサーが捉える魔素の反応に時折注意を払いながら、いつものように研究を続ける。

 しかしこの日はエリクシルが一人で研究に励む夜ではなかった。


 その理由は、プニョちゃんがいるからだ。

 今ではプニョちゃんの存在が、エリクシルにとっての研究だけではない、別の種類の交流や学びの機会を提供しているのだ。


{……プニョちゃん、なんだか瓶いっぱいにまで大きくなっていますね……。いつのまに?}


 ダンジョンから戻ってきたロランがラボに置いていったプニョ瓶、どうやら気付かない間に大きくなっていたようだ。


{とりあえずプニョちゃんの体を調べさせてほしいのですが、協力してくれますか?}


 プニョちゃんがOKサインを出すと、エリクシルが機械アームを操作し、瓶ごと分析台へと移動させた。

 赤いレーザーがプニョちゃんを解析し始めると、エリクシルはそのデータをもとに何かを深く考え込む。

 そして音声ログを記録するためにあえて独り語り始めた。


{もともとの大宇宙のような深い紺色だった体色はニョムさんと出会って数日後、意志を持った時点で薄まり、現在はその色を維持しています。ゲル組織や魔石の質量、体積も共に2.5倍増しとなっています。魔石が器としての大きさを変化させるのは壁を乗り越えた時のはずです……。となるとプニョちゃんも岩トロールを倒した恩恵を受けたというのでしょうか?}


 プニョちゃんは肯定するかのように体を伸び縮みさせている。


{プニョちゃん、貴方はパーティに参加していなかったはずですが……?}


 プニョちゃんはまたも肯定して見せる。


{ロラン・ローグとパーティとは異なる特別な繋がりがある、とでも言うのでしょうか……}


 プニョちゃんはハテナマークを作り応答する。


{これでは推測もできませんね……。しかし格も上がり、魔石を餌として吸収し大きくなったように見えますがそれだけなのでしょうか……}


 エリクシルは期待せずにプニョちゃんに問う。


{何か他に変わりはありませんか?}


 プニョちゃんはガラス瓶の蓋部分を数回ノックしてみせた。


{ここから出してくれと言っているのでしょうか……。わたしの許可なしに何かを食べないと、約束してくれますか?}


 プニョちゃんがジェスチャーで両手で大きな丸を描くと、エリクシルはアームを使って蓋を取り除いた。

 プニョちゃんは体を収縮させ、まるで力を溜めるかのような様子を見せる。

 そして分析台からぴょんと跳び出し、そのゲル状の体表を波立たせながらぶるぶると震え始めた。


{……おや!?  プニョちゃんのようすが……!}


 プニョちゃんのゲル状組織が動き始め、徐々に形を変えていく。

 約1分間の変化の末、プニョちゃんは犬のマスコットキャラクターを思わせるような姿に変態していた。

 ゲルを纏ったその姿は、表情まで備えているようで、非常に愛くるしい。


{なぜ、犬のように……}


 エリクシルは長考する。思い当たることがあるとすれば……。


{……ニョムさんと長らく接していましたが、もしかして近しい姿を再現、ペットのような形態をとったのですか?}


「パウパウっ!」


 気泡が割れるような破裂音が交じってはいるが、犬のように吠えて肯定しているかのようだ。

 エリクシルは思いもよらず驚かされた。

 そして子犬のように――といっても粘液のようにゲルを引きずりながらではあるが――分析台の上をボヨボヨと走り回る!


{こっ、これはっ! ……可愛いっ!!}


 エリクシルの驚きと感嘆を込めた黄色い声が響くと、ラクモがほんの一瞬耳を動かしたが、すぐにまた深い眠りへと戻った。


 その後、エリクシルは研究のすべてを一時的に放り出し、プニョちゃんとのコンタクトに没頭する。

 彼女はプニョちゃんとの会話を試みたり、その体組織を分析するなど、ついでに芸を仕込むうちに、ついにはプニョちゃんが彼女の研究に手を貸すことになった。

 プニョちゃんはゲル内の神経節を器用に操り、アームでは難しい細かな操作を代行している。


 意外にもプニョちゃんが興味を示したのは、錬金素材や医薬品の数々だった。

 エリクシルがポーションと医薬品の合成に関する研究で難航していることをプニョちゃんに伝えると、最初はただそれらを眺めていたプニョちゃんだが、何かを試すかのようにいくつかの素材を前足で取り込んでしまった。

 しばらく特に変化も見せずに観察された後、合成が可能かどうか尋ねられると、プニョちゃんはぶるぶるとしてそれらを吐き出してしまった。


 プニョちゃんが試みた錬金素材や医薬品の合成に特に変化が見られず、それらを吐き出した後、エリクシルは少し落胆しつつも諦めない構えを見せる。


{やはり、無理ですかね。念のため検査はしておきますが……}


 エリクシルは呟きながら、出所不明の粗石に思いを馳せる。

 その小ささから、おそらく小動物のものであり、魔素フィルターによって検出されないほどの小さな魔石が粗石である可能性を考える。

 プニョちゃんに起きた変化は、様々な種類の小さな魔石を大量に摂取した結果かもしれないと推測する。


 エリクシルはプニョちゃんの変化を進化と確信し、さらなる素材を与え続けることにした。

 しばらく素材を与え続けていると、プニョちゃんの魔石内部の内包物が結晶化し始める様子を観察できた。

 まだ完全な結晶ではないが、エリクシルは成長することでいずれは……という期待を抱かずにはいられなくなる。


 これを受けて、プニョちゃんの成長を支えるため、より多くの魔石や素材を与え、魔物の死骸からも魔素を積極的に取り込むことが必要であるとエリクシルは考えた。


{この進化の過程は、プニョちゃんだけではありません。……わたしたちの未来に大きな可能性をもたらすかもしれません! 明日一番に報告しなければなりませんね!}


 *    *    *    * 


――――――――――――――――

犬型プニョちゃん

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073485344422

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