123 団子風呂★

 

「根に持ってるなぁ……。わかったよ」


 使い方を教えながらの入浴とのことで、手っ取り早く3人まとめてシャワールームに入ることにした。


 *    *    *    *


(うわっ、コスタンさん、古傷すっげぇ……)


 シャワールームの中で、ロランはコスタンの体にある無数の傷跡に目を留める。

 興味深そうにそれぞれの傷がどの戦いで得たものなのかを尋ね始めた。


 *    *    *    *


 コスタンがわき腹の傷を示しながらしみじみと語る。


「……これなどは、腰まで水に浸かってウィグルと戦った時にできたものでしてなぁ……」

「……コスタンさんそろそろいいよ……長いって」


 コスタンは古い戦いの話と共に、それぞれの傷跡にまつわる英雄譚を語り始めたが、いくつかを語ったところをラクモに制止された。


「あっはっは! 面白い話でしたけど……この話を聞くには酒があった方がよさそうですね」

「……私としたことがうっかり話し過ぎたようですな! たしかに、ダンジョン征服もまだ先は長い! またの機会にしましょうか」


 コスタンがあっさりと長話をやめ、洗体していると今度はラクモの様子に驚くことになる。

 その毛量のせいか、シャンプーの泡がモコモコと立ち昇り、もはや面影がない。


「ぎゃっはっは! ラクモさんいつの間に!」

「あっはっはっは! 泡の魔物かと思いましたぞ!」

「魔物じゃないよ」


 ラクモはぶるぶると身体を震わせると、泡がそこかしこに飛び散る。


「うわっ、泡が顔に!」


 ラクモの反撃を受けたふたりは、笑いながら泡を投げ返した。

 そしてそのままの状態で湯舟に3人で入ることになる。

 手狭なため膝を抱えて団子のようになって収まる光景は、エリクシルが見ればきっと笑っただろう。


 浴槽が瞬く間に温水でいっぱいになるとふたりは感心した。

 さらにはコスタンがジャグジーによるマッサージ効果に大はしゃぎしたのだ。

 彼の子供のような喜びように、ラクモとロランも巻き込まれ、3人は冒険の疲れを癒やすだけでなく、深い絆で結ばれた仲間としての時間を満喫する。


「おっほほほほぉ~~~! これは気持ちが良いですな! ……じゃぐじーとは、やはりロランくんの世界の技術はとてつもない!」

「こんなお風呂なんか入ったことないよ、貴族くらいでしょ? 入るのなんて」


 シャイアル村の鉱山跡地にある使われていない公衆浴場はあるが、そもそものそれも鉱山の利益があって運営されていたものだ。あくまで鉱員が仕事の汗と泥を流す目的で使用するため、浴場といってもゆったりと湯船に浸かるような場所ではないのだ。

 それも今は日の目を見ることはなく、手入れもされず劣化を待つばかりだ。

 更にラクモの口ぶりから、彼は公衆浴場にも入ったことはないようだ。

 そんな折に手狭ではあるが、温かな風呂に入れるという経験がふたりを大層喜ばせたようだ。


「泡風呂ってすごい楽しいな……」

「うむうむ、童心に帰った気がします」

「ふふふ……」


 ジャグジーにより、ラクモの毛に着いた泡がまた息を吹き返したようだ。

 もこもことした泡風呂の中で、ラクモは泡を手ですくって息を引きかけて飛ばす。

 自身の毛量が多いことで、こんなにも楽しい時間を提供できるとは思ってもみなかったと感じ入っているようだ。


「あれ……毛が……」

「む、これもですな」

「僕の毛だ、……ごめん……」


 楽しい時間も束の間、湯船に浮かぶラクモの毛が大量になってきたことに気が付いた。

 最初は笑い話だったこの問題が、少しずつ面倒な事態になってきた。


「体に毛がくっついてしまいますな……」

「これ、排水溝詰まらねぇかな……」


 ロランが解決策を考えるも、すぐにお手上げ。

 結局、彼らは外にいるエリクシルに助けを求めることになる。


 エリクシルは、ややつっけんどんな言い回しをしていたが、見事解決策を提示してくれた。


{ とりあえず毛はシャワーで洗い流してください。今シャンプー用のディスペンサーを交換して毛を溶かす薬剤を充てんしました。それで排水溝を処理をすれば詰まらないはずです } 

「エリクシル、まじ助かる」

「いつもいつも、頭が下がりますな」

「もう女神だよね」


 色々とあったバスタイムも、戦いの間にある、ふとした息抜きの時間となったようだ。

 皆の顔は笑顔で溢れ、パーティの結束がより深まったことをエリクシルは感じ取っていた。


 *    *    *    *


「ふぅ、風呂に入れると聞いていましたが、まさかこんな良い物だったとは……!」

「じゃぐじーって言ったかな? すごいね、体がほぐされるようだったよ」


 ほかほかと湯気を立ち昇らせながら、3人がシャワールームから出てくる。


「気に入ってもらえてよかったです。……そんで! 風呂上がりにこれを飲むのが最高なんです」


 しゅぽんっ!

 そういってロランがキャップを外して渡したのは、キンキンに冷えた瓶。


「冷たっ!」

「これは……?」


 深い青色の瓶が特徴の、ギャラクティック・ブリューズ社のコズミックエールだ。


「"ビール"という酒です。こっちの世界のミードとはまた違うんですけど」


 ロランの言うどこかの国の作法に倣って、男3人、タオル一丁を巻いた腰に手を当てると、グイッと瓶の中身を一気に煽る。


 ゴクゴクと喉が鳴り、シュワシュワとした炭酸と癖になる苦みが喉を通り抜ける。

 火照った身体を冷えた飲み物が癒す。それはまさしく快感に他ならなかった。


「プハァーーッ!」

「うわぁ、これは美味い……」

「でしょう! ニョムがいるときはなんとなく飲めなかったんですけど……」


 3人でビールの余韻を楽しみながら、適度に酔いも上がり、調子もよくなっていく。

 そんな陽気な3人の様子に、エリクシルはダンジョンで危ない目に合ったのにと心配を通り越して呆れた表情を浮かべていた。


「……あぁ、そうだ。このあとの夕食はどうします?」

「昼の魚は美味しかった、けど今度は別のがいいな」

「私もできれば違うものを!」


 *    *    *    *


 楽しい夕食を終え、今日の復習や明日の準備、連携などについて議論を重ね、3人は就寝準備を始める。

 コスタンの寝巻はスウェットパンツに『アーサー王と124人の宇宙騎士』の限定Tシャツ。

 ラクモも下は同じ、上は『ギャラクシー・ウォーズ アースウォーカーの夜明け 』の限定Tシャツ。

 ふたりの服は全自動洗濯機『ステラクリーン』にお任せだ。


 一風変わった精巧なプリントにふたりは驚いていたが、もっと驚いたのは下のパンツだった。


「とても履き心地が良い……」

「生地が伸びますな……。麻の下衣とは比べ物にならないほど素晴らしい……!」


 コスタンから貰った衣服も高価なものだ、それでも着心地には天と地の差があった。

 ロランはふたりの反応を心地よく感じながら、カウチをベッドへと展開した。


「不思議なベッドですな。毛皮でも羽毛でもない……」

「押すと跳ね返ってくる」

「"ウレタン"、"プラスチック"、うーん、石油? から作っているらしいです」

「石油、ですか。鉱山にもありましたな、良く燃える油。それがこうなるとは……」

「考えが及ばないよ」

「ですよね!」


 それはロランも同じだった。エリクシルに製造の過程を見せてもらわなければ信じなかっただろう。

 ロランは最後に就寝前に飲み水、照明について再度説明し、おやすみの挨拶を告げた。


{ 皆さんおやすみなさい! }


 エリクシルは寝る必要がないため、夜もラボで研究に没頭することが多い。

 それはシャイアル村にいた時もそうだった。センサーと腕輪型端末の範囲であれば投影できる。

 といってもホログラム故に実体はないのだが、はたから見ればテレポーテーションに見えるだろう。

 今日もセンサーが捉える魔素の反応に時折注意を払いながら、いつものように研究を続ける。


 しかしこの日はエリクシルが一人で研究に励む夜ではなかった。


――――――――――――――――

湯煙コスタン。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093085023669765

限定Tシャツ。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073485341563

泡ラクモとビール

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073574147618

★以下サポ限定

洗濯機。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073485343095

ギャラクティック・ブリューズ社

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093073574151116

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