090 依頼の清算と貨幣価値★


「ちょっと待ってください! これ……『鉄壁』の祈祷師シャーマンじゃないですか!?」

「『鉄壁』……やはり二つ名持ちでしたか」


「先月、異常に耐久性のある小鬼ゴブリン祈祷師シャーマンが現れ、パーティが半壊して敗走する事態がありました。その後、危険対象として二つ名が認定されています!」

「確かにこいつはやけに耐久性がありましたね」


 ロランは祈祷師シャーマンのストンスキンに阻まれ、一撃で仕留められなかったことを思い出す。


「……ちょっと待ってください。これを倒したのって、ロランちゃん?」

「え、ええ、まあ……コスタンさんと一緒に、ですけど」


 ロランは少し動揺しながら、隣のコスタンへと視線を向けた。


「はは、まあ運よく挟撃が決まって、というところですな……」


 コスタンが笑顔でさらりと答えるが、ビレーは簡単に納得しない様子でじっと二人を見つめる。


「岩トロールまで討伐しているとなると、ただの幸運では済まされない気もしますけどねぇ……」

「たまたま上手くいったとか、そんな……感じですよ、たぶん」


 ロランの軽口に、彼女は深く溜息をつくと、前髪を掻き揚げて気を取り直したようだ。


「……『鉄壁』のシャーマンには追加報奨金がつきます。それと魔石ですが、売却されますか?」


 その問いかけに、ロランは少し考えて答える。


「あ、魔石は手元に置いておきたいので、査定だけお願いできますか? 価値を知りたいんです」

「了解しました~。通常の小鬼ゴブリンの魔石なら、査定不要で1個5ルースで買い取っていますよ~」

「えっ、そんなに安いんですか……」

小鬼ゴブリンの魔石は土属性で、利用範囲が限られていますからね~」


 ビレーが淡々とした口調で説明する。


 小鬼ゴブリンの魔石は琥珀色で、土属性の象徴とされる。

 価格は低めだが、それでも市場で取引される重要な交易品だ。

 魔道具や錬金術の素材として活用されるものの、他の属性に比べて用途が狭く、価値も控えめだという。


「……岩トロールとシャーマンの魔石の方はどうだろう?」


 ロランが問うと、ビレーは軽く頷きながら応じる。


「おそらくそれなりの値段が付くと思いますよ~。それぞれ査定料20ルースかかりますが、大丈夫ですか?」

「20ルース……高いような、安いような……」

「魔石の売却益でお釣りが来ますから、気にしなくても大丈夫ですぞ」


 ロランは査定をお願いすると、ビレーは重そうなお盆を軽々と持ち上げ、カウンターの奥へと消えていった。


{……小鬼ゴブリンの琥珀色の魔石は土属性として登録します。属性は色として反映されるようですね}

「あぁ、エリクシルの仮説通りだったな」


 エリクシルが周囲に人影がないことを確認して、小声で囁く。

 ロランはそれに軽く頷きながら、魔石の性質について少しずつ理解が深まっていくのを感じていた。


 一方で、コスタンは軽く息をつくと、安堵の笑みを浮かべた。


「……ふぅ、なんとか誤魔化せましたな」

「はい! でも、本当に助かりました……」


 ロランも肩の力を抜き、ひとまず状況が落ち着いたことに胸を撫でおろす。

 だがふと、報酬として手に入れる金貨や銀貨の価値についての疑問が浮かび、彼はコスタンに尋ねた。


「それはそうと、コスタンさん。清算が済む前に通貨について教えてもらえませんか?」

「お金をもらっても、その価値がわからねば困りますからな! よし、通貨について簡単に説明しましょう!」

{「お願いします!」}


 エリクシルも興味津々といった様子で賛同する。

 コスタンは意気揚々と、口を開いた。


「では、まずリクディア大陸で流通している通貨は『ルース』という名称で――」


 この大陸では5種類の貨幣が使用されている。

 最も目にするのは銅貨。庶民の日常生活に欠かせない基本単位であり、価値は1ルース。

 その次に流通するのが銀貨だ。10ルース分の価値を持ち、宿代や少し贅沢な買い物に使われる。

 さらに上位の金貨は100ルース。貴重品や高額な取引において使用される高価な貨幣だ。

 次に控えるのが大金貨。これは1,000ルースの価値を持ち、大きな取引や特別な支払いで登場する。

 そして最上位に位置するのが白金貨。1万ルースという桁外れの価値を持ち、貴族や大商人が扱う象徴的な貨幣だ。


{10進法に基づいているのですね。理にかなっていますし、非常に便利そうです!}

「10進法って言うのか、これ……」


 エリクシルの興味津々な声に、コスタンが笑みを浮かべてうなずいた。


「商人たちにとっては、この単純さがありがたいのです」

{ですが、貴重な貨幣ほど流通が少なくなるのは自然なことでしょうね。大金貨や白金貨は、やはり持ち歩きが難しいのでしょうか?}

「うむ、その通り。貴族や大商人でも、大金貨や白金貨を持ち歩くことはまずありませんな。大きな取引には通貨の代わりに証文や手形を使うのが一般的です」


 コスタンはさらにポートポランでのおおよその物価についても補足した。


{つまり、ポートポランでは宿屋食事代で1日30ルースあれば十分生活できるということでね。銅貨が一般市民の生活における主な取引通貨であることも頷けます!}


 ロランはそのやり取りを聞きながら、異世界の通貨体系の合理性に感心しつつも、自分の世界との違いに小さく首をかしげた。


 通貨についての説明が終わった頃、カウンター奥の扉が開き笑顔のビレーが戻ってきた。

 お盆の上には大小さまざまな通貨が並べられている。


「依頼の清算が済みましたぁ~~、魔石の査定量の40ルースは差し引いていますよっ」


 ビレーがカウンターにお盆を置くと、ロランが興味深そうに覗き込む。

 銀貨4枚、金貨7枚、そして大金貨が2枚ある。

 ロランの瞳に光り輝く通貨が映り込む。その輝きに思わず顔がほころぶ。


「さて、討伐報酬の内訳を説明しますね~。あって、ロランちゃんには依頼についても説明しておきましょうか!」


 ビレーが説明を始めようとした瞬間、ロランは拡張現実ARに映し出されたエリクシルの情報をちらりと確認し、先回りするように口を開いた。


「依頼報酬は討伐証による貢献度と合わせて、ギルドの規定に基づいて計算されるんですよね。そして緊急依頼中の場合は、仲介手数料や掲載料が免除される――と手引書に書いてありました。つまり、今回はコスタンさんの依頼料の満額に近い報酬が支払われる仕組みになっている、ということですよね?」


 ロランがすらすらと話し始めると、ビレーは目を丸くした。


「その通りです……よくお勉強されていますね? それにしても、あんな短時間でそこまで理解するなんて信じられません……」

「へへへっ」

{{わたしのおかげですね! えっへん!}}

《もちろんな!》


「えーっとつまり……2,740ルースのお支払いになります!」


 依頼報酬         ――2,150

 岩トロール討伐の報奨金  ――200

 岩トロールの角買い取り  ――100

『鉄壁』の祈祷師シャーマンの報奨金  ――300

 小鬼ゴブリン13体の報奨金    ――130

 査定料20x2奨金    ――-40

 合計           ――2,720ルース


《初仕事にしては上出来か?》

{{ふふ、そうですね}}


――――――――――――――――

通貨。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023212482842577

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