088 上級鑑定と復帰★


 奥の部屋の扉が開き、ビレーはさっきの鑑定魔道具よりも豪華そうな魔道具を持ってきた。


 ピカピカに磨かれた水晶玉が納められている台座は、華美な意匠が施され真鍮のような鈍い光を放っている。

 そして下の方には見るからに上質そうな魔石が取り付けらている。


《今度は上級か……》

{{先ほどの物よりもさらに品質が高そうな魔石ですね。見事な"カット"です}}

《魔石の更に高そうな感じはわかるけどよ、このゴテゴテした装飾はどうなんだ?》

{{道具としては無駄に凝った装飾も見受けられますが、機能との関連はわかりませんね。……鑑定を観察してから考えましょう!}}


 ビレーはコスタンに「どうぞ」と声をかけた。


 コスタンは右手をかざし、水晶玉の内部に光が灯り10秒程でチラチラと点滅し始めたのを確認すると「ステータス開示」と唱えた。


◆コスタン 54歳 村長 シャイアル村領

◆剣士 レベル24 犯罪歴:なし

◆所有スキル:片手剣術(2)長槍術(2)体術(2)軽鎧術(2)話術(2)片手斧術(1)小盾術(1)アライアンス作成(1)剣士の心得 町長の心得 博識 火魔法 採掘 開墾 


「あれまぁ……レベルが24……」


 ビレーが驚いたように口を開け、呟く。


「ほっほー! 町長の心得まであるとは思いませんでしたが、加えてスキルが5つも強化されていますぞぉ~! ホクホク、絶好調ですわい!」


 満面の笑みで自身の成長を誇示するコスタンをよそに、ビレーはカウンターの奥の本棚を漁り始めた。


《コスタンさん、一気に5レベルも上がってたのか! すげぇな!》

{{はい。次のレベルの壁まで達する形で上昇しています。壁を越えると蓄積された魔素が作用し、一気にレベルが引き上げられる仕組みでしょう。これが覚醒による影響だと考えられます}}


《じゃあ、ラクモさんが2レベルしか上がらなかったのは……?》

{{冒険者としてのキャリアの差が一因でしょう。また、魔素の蓄積量や年齢による体内の魔素の性質も影響している可能性がありますね}}


 ロランは納得しつつ、目の前のコスタンのステータスに目をやる。


《それにしてもスキルの量がすごいな。この"かっこ"の中がスキルのレベルってことか?》

{{おそらくそうでしょう。ただ、スキルレベルの具体的な強さは比較対象が限られているため、現時点では推測の域を出ません。それに、レベルのないスキルもいくつか存在します。恐らく、パッシブスキルや知識系のスキルですね}}

《色々あるんだなぁ……。それと――》


 ロランはふと上級鑑定についての疑問を口にした。

 エリクシルによると、魔素の練り上げに時間がかかる理由については、カットされた魔石が魔素を一旦分割し、再構築するプロセスが含まれている可能性が高いという。

 これは、より詳細で正確な情報を抽出する効果があると考えられるが、その裏付けは現時点では難しい。


{{魔道具そのものを分解して解析できれば、内部構造やプロセスの違いが明らかになるでしょう。ただ、練り上げにかかる時間は鑑定精度を高めるための不可欠な過程と見られます}}

《ふむ……まぁ、ここで考え込んでも答えは出ないな》


 そう思考を切り替えたところで、ビレーが分厚いファイルを取り出し、バサバサとめくり始めた。


「……記録では19レベルでスキルは軒並み……1でしたよね、コスタンさん……」


 コスタンは鼻を膨らませて得意げな表情をしている。


「覚醒、しましたからな……」


 コスタンのいつもより渋い声と決め顔にロランは思わず笑みをこぼす。


「……ということは、覚醒報告の記録も作成しなきゃだー! 大変だっ! ……それとおふたりのステータスの確認も済んだので認識票の作成に取り掛かりますね。少し時間がかかるのでその間に手引き書を読んでお待ちくださいー!」


 ビレーはそう言うとそそくさとカウンターの奥の部屋に引っ込んだ。


「……コスタンさん、凄いですね!」

「これもロランくんとエリクシルさんのおかげです。この膝のサポーターを装着したとき、これがあれば再び冒険者に戻れることは確信していたのです」

「……シャイアル村はどうするんですか? 依頼をこなすために村を離れる機会が増えませんか?」

「もちろん、今まで通り村長を続けます。……冒険者は依頼をこなすのが全てではありません。師弟メンター登録をしてロランくんに指導をしようと思っています」

師弟メンター……」


 エリクシルがアーカイブから情報を引き出す。


{{師弟メンター制度は、上級冒険者が初心者を育成する仕組みです。師弟メンターは指導した冒険者の貢献度に応じてポイントを得られるため、彼らにとっても利点があります。また、師弟メンターが登録した冒険者の進捗を共有できる機能もあるそうです}}

《それって俺が成長するとコスタンさんも得するってことか?》

{その通りです。師弟関係を通じて互いに利益を得る形ですね}

《なるほどなぁ……俺もちゃんと成長して恩返ししないとな》


「……コスタンさんに師事できるのは助かります!」

「ほっほっほ、ともに頑張りましょうぞ! ……では、彼女を待つ間に資料でも読んで待っていましょう。私も久しく読んでいませんから確認したい……」

「はい! ……と、その前に俺も職業を確認しておこう」


 ロランがステータスを開示すると、職業欄は確かに戦士となっていた。

 鑑定の魔道具が職業を定める原理に首をかしげていると、エリクシルが小声でロランに囁いた。


{手引き書の記録は終わっていますし、他の資料を探してみましょう}

「おう」


 ロランたちはカウンター横の閲覧区画に向かい、雑然と並べられた資料の中から興味を引くものを探す。


「これはリクディアの大陸図か、結構でかいなぁ」


 ロランは手に取った羊皮紙を広げ、街や山脈、大陸を囲む海の様子に目を奪われる。


「ポートポランは北に位置してるんだな……」

{地図は精細とは言えませんが、大まかな地形の把握には役立ちそうですね。それにしても、他の冒険者たちはこれを元に旅をしているのでしょうか}

「……冒険の世界はこうやって広がるんだな」

「うむ、私も若いころは同じことを感じましたな」


 しばらく地図を眺めていたロランにコスタンは懐かしさを感じていた。

 ロランその温かな視線に微笑みながら、次の資料に目を向ける。


 次に手に取ったのは、しっかりと装丁された厚みのある本だった。

 表紙には「魔物図鑑」と書かれ、荒々しいタッチで描かれた小鬼ゴブリンの絵が目に入る。


「おおっ!」


 ページをめくるたびに現れる挿絵にロランは目を輝かせる。

 異形の魔物たちが生々しく描かれ、それぞれの特徴や生息地が簡単に記されている。


{ロラン・ローグ、興味はわかりますが、後で閲覧できますよ。さぁ、早く記録しましょう!}

「そうだな、今は記録優先だな」


 ロランは少し名残惜しそうにページをめくる手を速め、資料の記録を終えた。

 資料を一通り読み終えると、コスタンが声をかけた。


「うぅむ……ほとんどめくっているだけに見えましたが……」

「全部エリクシルがやってくれましたから」

「……そのようですなぁ、エリクシルさんの能力は計り知れません」

{えっへん!}


 エリクシルが端末をチカチカと点滅させていると、カウンターの奥の通路から話し声とドアが閉じられる音がした。

 複数の足音からビレーが誰かを連れてきたのかと思ったが、新たな顔ぶれの3人が出てきた。


――――――――――――――――

リクディア大陸図。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023212276627761

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