087 未知のスキルと隠された真実★

 

「お待たせしました~お次は鑑定タイムでーす! まずはロランちゃんが身分を偽っていないか確認しつつ職業も登録しちゃいます~。こ・こ・に~手を置いちゃってください!」


 ビレーが取り出した鑑定の魔道具は、簡素な台座に据えられた水晶玉が特徴的だった。

 その下には精緻な加工が施された魔石が埋め込まれ、それで動作する仕組みがうかがえる。


《これがコスタンさんたちが話してた鑑定の魔道具か……!》

{{魔石の品質を見るに、非常に高価な代物ですね。それでは鑑定の様子を観察しましょう}}


 エリクシルは魔道具を分析していた。

 彼女によれば、魔石は小鬼ゴブリン祈祷師シャーマンの魔石に近い大きさだが、まるで宝石のような品質だという。


 ロランはおずおずと水晶玉の上に右手をかざした。内部がゆらゆらと淡い光を灯し始める。


「つ・ぎ・に~、ステータスを開示してくださいっ!」

「……ステータス開示」


◆ロラン・ローグ 23歳 自由民

◆無職 レベル1 犯罪歴:なし

◆所有スキル:"アサルトライフル"適性 "強化服"適性 幸運


《色々スキルついてるんだけど!》

{{私たちの言語で表示されたアサルトライフルと強化服の適性……。それに幸運ですか……。船に戻ったら検査しなければ! 魔石に内包物が生成されている可能性がありますよっ!}}

《それよりも、これはまずいんじゃないか、漂流者ってバレたり……》


 ステータスを見ていたロランは恐る恐るビレーの顔を見た。

 当のビレーはステータスに噛り付いている。


「おかしいですねぇ……。適性の前の文字が読めません。適性スキルは武器などが該当しますが、ロランちゃんの武器は……その剣ですよね?」


 ビレーの目がロランのバックパックに括り付けられた剣を捉える。

 その視線を感じながら、ロランはちらりとコスタンの方を見た。

 するとコスタンが眉をひそめ、目配せとともに軽く首を横に振った。


《……読めないフリをしろってことか》

{{そのようですね。慎重に対応しましょう}}


 ロランは顎に手を当てて少し考え込む素振りを見せ、困ったように首をかしげる。


「……うーん、俺も全く読めませんね」


 その態度は自然に見えたのか、ビレーは疑いの目を向けることなく深く頷いた。


「たまに読めないスキルが表示されることがあると聞いていますが、アタシも初めて見ましたよ~。……まぁわからないものは仕方ありませんね」

「そう……なんですね」


 とりあえず疑いの目から逃れられたことにロランは胸をなでおろす。


「それにしても幸運持ちとは珍しいですね。ロランちゃんが岩トロール討伐に関わっているんですか?」

「えぇ、そうです。私たちもその幸運にあやかったようですなぁ。彼のおかげで討伐に成功したといっても過言ではありません」


 コスタンは誇らしげに胸を張りながら言葉を続けた。

 対するビレーは目を細めてロランを見つめる。


「岩トロールは格4ですよ!? 冒険者にもなっていない村民を参加させないでくださいよ!」

「いやいや、彼はその辺の冒険者以上に頭も切れます」


 ビレーの声には驚きと怒りが入り混じっていた。ロランはその場の空気に押され、思わず息を飲む。

 一方でコスタンは動じる様子もなく、朗らかな笑みを浮かべた。


「いやいや、彼はその辺の冒険者以上に頭も切れます。あの状況下で適切な判断を下せる者が何人いるでしょうかな?」


 コスタンの余裕ある態度に、ビレーは眉を寄せつつも少し言葉に詰まったようだった。


「いくら頭が切れるからって、レベル1のロランちゃんを含むパーティで格4の岩トロールを討伐できるのか……」


 ビレーは腕を組みながら考え込む。何かを言いたげに目を細めたまま、ちらりとロランの顔を覗き込んだ。

「シャイアル村には魔法を扱える人材もいなかったはずだし……この角を見る限り、本物なんですけどぉ~……」


 ビレーの声にわずかな疑念が混じる。

 ロランは言い返すべきか迷いながらも、コスタンの動きを横目で伺った。

 一呼吸置いてコスタンが微笑みながら口を開く。


「岩トロール討伐の経緯を疑っておられるのですな?」


 その落ち着いた声に、ビレーは一瞬ハッとしたように顔を上げた。


「私を含む8名で村総出の奇襲作戦を立てたのです。もちろん、無傷では済みませんでしたが、討伐証は正規のものですぞ」


 ちらりと討伐証を見やり、角の形状を再確認するように目を細める。


「……討伐証が本物であることは確かですし、他のパーティが岩トロール討伐に出動した記録もありません。横取りスナッチも疑いましたが、犯罪歴は付いていませんでしたし……」


 疑念を捨てきれないものの、追及の根拠がないと判断したのか、ビレーは小さくため息をついた。


「う~~ん、討伐方法について完全に納得はできませんけど、討伐証がある以上、こちらとしては追及できませんねぇ……」


 ビレーの様子にロランはほっと胸を撫でおろした。


「……でももうひとつ確認させてください。コスタンさんも参加したんですよね?」

「ええ、もちろんですとも!」


 今度はビレーはコスタンに疑念を向けたようだ。


「……コスタンさんは、怪我で引退しているはずですよねぇ?」


 ビレーがコスタンの足元を見る。

 その視線に気が付いたコスタンはおもむろに椅子から立ち上がると、得意げにジャンプして見せた。


「ほれっ! この通りですぞ。傷はもう治りましたわい!」

「う~~~ん……」

「そういえば、私も冒険者の再登録をしようと思っていましてな。こたびの討伐でレベルの壁を越え、さらには覚醒を遂げたんですぞ! あ、鑑定は上級でお願いします」


《コスタンさんやっぱり冒険者に復帰したかったのか……》

{{コスタンさんが鍛錬を再開したと、サロメさんがおっしゃっていましたものね}}


 コスタンはビレーの返事を待たずに金貨3枚を差し出した。

 ビレーは片眉を挙げながら考えあぐねていたようだが、しぶしぶそれを受け取ると部屋の奥にいってしまった。


「ふぅ……なんだかずっと緊張してました……。でも助かりました、さすがですね」

「ほっほっほ、こんなのは容易いもんです」


 ロランがほっと胸を撫でおろすと、エリクシルに通信で尋ねる。


《そういえば魔道具の仕組みについてなにか見えたか?》

{{はい――}}


 エリクシルによるとロランの魔素が水晶玉を通じて魔道具内部の魔石と接続されていることを観察したらしい。

 内部に配置された4つの魔石が、ロランの魔素を練り上げていたとか。


《……俺の魔石の情報を読み取っているわけだな。練り上げているのはよくわからねぇが、ステータスの補足情報を開示できる魔石読み取り機リーダーって感じか》

{{それに魔道具の魔石が"カット"を施されているのが気になります}}

《魔石自体の値段が高そうだよな》


 奥の部屋の扉が開き、ビレーはさっきの鑑定魔道具よりも豪華そうな魔道具を持ってきた。


――――――――――――――――

鑑定の魔道具。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023212217578417

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