083 港街ポートポランへの旅路★
「ぎゃひーーーーー!」
バイクの轟音を響かせながら、ロランたちはシャイアル村を後にし、北西に位置するポートポランを目指して旅を始めた。
村を抜け、旧街道に続く道を進む。
景色は次第に広がり、自然の中を突き進む感覚が心地よい。
ロランはハンドルを握りながらコスタンに尋ねた。
「ポートポランまではどれくらいかかるんですか?」
「村を北に抜けて旧街道を西に進めば、半日もかからず到着するでしょうな。しかしこの速度なら1時間とかからないような……。いやはや恐ろしい……」
コスタンはロランの腰にしっかりしがみつき、声を張り上げて説明した。
その手に込められた力から、彼がまだバイクに慣れていないことが伝わってくる。
しばらく走ると、ロランは視界の先に道のようなものが入る。
「エリクシル、これが旧街道かな?」
{そのようです。街道沿いを進みつつも、商人たちに出くわさないよう注意が必要ですね}
彼女の指摘を受け、ロランはシャイアル村の防衛のために設置したセンサーについて考え始めた。
移動用に持ち出すべきか、それとも現状を維持すべきか。
しばらく悩んだ末、村の安全を優先してセンサーはそのまま残し、予備のセンサーをポートポラン近郊に設置することに決める。
「予備の陽電子バッテリーもあることだし、道中はパルス索敵でカバーするしかないか……。でも、ポートポランって結構遠いんだろ? センサー同士を圏内に設置しないと機能しないんじゃないのか?」
エリクシルの回答は、ロランの予想を少し裏切るものだった。
{本来であればその通りですが、最近リンク機能が拡張され、帯域が向上していることを確認しました。おそらく電波が大気中の魔素を経由しているのかもしれません}
「……それって、いつからだ?」
{ロラン・ローグ、あなたが寝ている間に検証しました。直近で岩トロールを討伐したことと何かしら関連があるのかもしれません……}
彼女の言葉に、ロランは眉をひそめた。
「俺がパワーアップするのはなんとなくわかるけどさ、エリクシルの機能が拡張されるのはどういうことだ?」
{はい、それについても考察しているのですが、予兆は確かにありました。たとえば、あなたがゴブリンを倒した後に白花の丘で風や魔素を感じ取れるようになったり……。ただ、現時点では結果ばかりが得られていて、過程が全く不明なんです}
ロランはしばらく黙り込んだが、やがて大きく息をついた。
「まずは受け入れるしかねぇよな……」
その言葉にエリクシルは小さく頷くように応え、話を一旦締めくくった。
道中、路肩に散らばる岩や砕けた車輪の残骸が目に入る。
ロランはバイクを停め、コスタンに声をかけた。
「これって……岩トロールの仕業ですか?」
「間違いないですな。砦に向かう途中、この道を通ったのでしょう。行商人たちの馬車が襲われた跡かもしれません」
散らばる木製の破片や転がった荷物の跡が、その惨状を物語っていた。
{岩トロールがこれほど荒らすとは……よほど空腹だったのかもしれませんね}
「ええ、奴が冬ごもり前に食料を求めて活動範囲を広げたのかもしれません」
「商人が通るなら、このバイクを見られるのはまずいな。迂回路はないか?」
{音も目立ちますし、コスタンさんに相談してみましょう}
ロランはコスタンに尋ねる。
「ここを商人が通るなら、出くわさないようにしたいんですが」
「ふむ、商人たちは岩トロール討伐の情報を知らぬゆえ、経路を変えているかもしれません。ただ、討伐目的の冒険者に遭遇する可能性があります……。となると――」
コスタンの道案内に従い、バイクは川沿いの迂回路を進み、やがて小高い丘へと辿り着く。
湿った風に交じるかすかな潮の香りに、ロランはハンドルを握る手を少し強くした。
丘を登りきると、眼前に広がる青い海が彼の視界を満たす。
「あ……海だ……」
ロランにとって、幼い頃以来の海の眺めだった。
思わず漏れたロランの声に、エリクシルも感嘆の声を上げる。
{これが海……初めて見ます! とても綺麗ですね!}
波間に浮かぶ船々と、その手前に広がる白い街並みが、ポートポランという名に相応しい輝きを放っている。
その街並みは、シャイアル村とは比べ物にならない規模と賑やかさを感じさせた。
「コスタンさん、あれがポートポランですね!」
ロランが振り返ると、風圧で顔をブルブル震わせながらも、コスタンは笑顔を見せた。
「そ、そうですな! このまま進みましょう!」
{わたしっ、新しい街を訪ねるのに、とてもワクワクしてますっ!}
「俺も楽しみなんだよなー」
「……ご飯処に商店、色々ありますぞ! 時間の許す限り楽しみましょう!」
「はい! ……あっ、そういえば何時に帰るとか考えてませんでしたね」
「うむ、宿もあるので寝泊まりすることもできますが……」
「……できれば今回は日帰りが良いですね! 村に戻ってからやりたいこともあるので!」
「日帰りでも構いませんが……、なにをなさるのですかな?」
「えーっと……具体的にはまだ決まっていないので、またあとで相談しながら決めさせてください」
{{ロラン・ローグ、もしかして、例の賭けについてお話してくれるんですか?}}
《そうだ》
「……ふむ、ならば『海の竜頭亭』で昼食をとりながら聞きましょう」
「『海の竜頭亭』! それは良いですね! ポートポランの食事、食べてみたかったんです!」
丘を降り、街道に合流すると、ロランはバイクを茂みに隠すため、適当な場所を探す。
シャーマンの頭飾りをバックパックに括り付け、岩トロールの角を収納した後、装備を隠すための外套を整えた。
討伐証は見えるところに付けたほうが、拍が付くらしい。
コスタンの助言通りに従うと、ロランはエリクシルに声をかけた。
「エリクシル、姿を消してくれるか?」
{もちろんです}
「あ、エリクシルさん……」
{私はいつでも見ていますから、心配しないでください}
エリクシルが姿を消し、彼女の声だけがロランに届く。
心配そうにしていたコスタンもその仕組みに感心しながら、エリクシルの凄さに驚いていた。
ポートポランの石壁が見え始めると、街道を行き交う人々の列が目に入った。
関所の建物が大きな影を落とし、黄色みを帯びた石材が海の青さに映えていた。
その壮観な景色を目の当たりにしながら、ロランたちは新たな地へと足を踏み入れようとしていた。
―――――――――――――――
ここまでの経路。
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