071 黄金の瞳と篝火の灯★
《出発だ!》
* * * *
鬱蒼としたタロンの原生林を抜け、白花の丘に差し掛かった頃、エリクシルの声が響く。
{
ロランは速度を落としながら頷く。
「ああ、頼む」
{結論から申し上げますと、シャーマンのDNAには塩基配列の突然変異が確認されました。ただし、全体としては他の
「つまり、あいつらの根本的な種族は変わってないってことか」
{その通りです。ただし、この変異が進化の方向性を示すものである可能性はあります。シャーマンの子孫が魔法に長けた種族になることも考えられるでしょう}
エリクシルが
琥珀色の石には赤い輝きが宿り、内包物が拡大されて表示される。
「これは……金色の輪っかと三本の線か。スカウトの銀の針とは違うな」
{はい。魔石の透明度や色合いも異なっています。特にこの赤色はファイアボールなどの火の魔法と関連している可能性があります}
「火の魔法だから赤い……って単純な話か? この内包物が魔法そのものを示してる可能性もあるだろ」
{それも一理あります。ただ、断定するにはさらなるデータが必要です}
次にエリクシルはシャーマンの眼球の画像を表示する。
突然の映像にロランが肩を揺らした。
《うわ、急に出すなよ……あれ? 瞳が?》
魔石の内包物とシャーマンの瞳の形状が酷似していることに気付いた。
金色の輪っかと三本の線を持つ瞳は、魔石と奇妙な一致を見せていた。
{どういうわけか、瞳と魔石の内包物に共通点があります。DNAの突然変異もこれに関連している可能性が高いですが、現段階では結論を出せません}
「結局わからないことだらけってわけか。でも、こういう謎が多い世界も嫌いじゃないぜ」
ロランはそう言いながらバイクを再び加速させた。
その左手には村人たちが灯した篝火の光が揺れている。
「あれが目印だな」
{そのようです。砦付近のセンサーに村人と思われる反応が8つあります。我々ももうすぐ到着します}
「砦の敵はどうだ?」
{はい、数は14体から変わりありません。特に何か活動をしているわけではないので寝ているのかもしれません}
「そのまま寝ててくれれば、
{はい、それが一番でしょうね}
ロランは篝火へ向かうとイヤーマフを外し、音楽を止めた。
隣ではエリクシルが村娘姿に戻り、髪も青みがかった水色に変わっていた。
ロランはその姿を見て少し勿体ないような気がした。
「おぉっ!? ロランさんだったのですかい? なんかすげえ音を出しているとは思いましたが」
篝火のそばにいたチャリスが驚きつつ迎える。
背後では槍を手にした村人たちが警戒心を漂わせていた。
ロランはバックパックから鋼製の槍の穂を8つ取り出して手渡した。
{柄のサイズが異なるため、それぞれ番号を合わせて取り付けてください。釘を打ち込めば十分な強度が得られます}
エリクシルが取り付け手順を説明する間、チャリスは槍の穂を食い入るように見つめていた。
「あぁ……これは凄い! よくこんなものを短時間で……! 神業かぁ!?」
「では、コスタンさんを迎えに行きます。準備をお願いします」
ロランは軽く手を振ると再びバイクに跨り、篝火を後にした。
バチバチと音を立てていた篝火が遠のく。
チャリスとそのほかの村人たちは軽く手を振ると、槍の柄を持ち寄って作業を始める。
* * * *
村に到着したロランは、コスタンの家の前でバイクを停めた。
扉が勢いよく開き、杖を構えたコスタンが飛び出してくる。
「何事かと思いましたぞ!」
「すみません、砦の
ロランの視線がコスタンの腰に向いた。
冒険者時代のものだろうか、鞘に収まった剣が揺れていた。
服も質素な農民服から、装いが変わっている。
「えぇ、服も剣も冒険者時代のお古ですがな。丸腰では心もとなくて……」
「コスタンさんには怪我をしてほしくないのですが……」
エリクシルの心配をよそに、ロランは剣に釘付けだ。
「その剣……かっこいいですね」
「お守り代わりです。前に出るつもりはありませんがな」
{そんな状況に陥らないことが第一ですが、万が一の時に備えるに越したことはないでしょうね}
ロランも納得したように頷く。
「ええそう思いまして。……してその早馬、にはどうやって?」
ロランが察してバイクの荷台をポンポンと叩く。
「ここに跨って俺にしっかり掴まってください。……心配だと思いますが、大丈夫です。ニョムもこれに乗ってきましたから」
コスタンがバイクに跨ると、案の定ぎこちなくしがみついた。
ロランがバイクスタンドをしまうとハンドルを切り返す。
「う、お、あ……」
慣れない乗り物の上でコスタンが変な声を出す。
「行きますよー、とにかくしっかり掴まっててください。……落ちたら落馬どころではないですよ!」
ロランはコスタンの返事を待たずにアクセルを回した。
バイクが吠えるような音を立てて夜の静寂を切り裂く。
「ウヒィーーーー!!!!」
風が容赦なく吹きつけ、コスタンの悲鳴が夜空に高く響く。
エリクシルの声が冷静に割り込んだ。
{全く、ロラン・ローグ……急いでいるとはいえ、もう少し配慮をしてください}
《わりィ、焦っちまった》
{こういう時こそ冷静に、とコスタンさんもおっしゃっていましたよ}
《そう、だったな》
ロランは苦笑しながら速度を緩め、ふと脇を見やる。
後部座席で揺れるコスタンの様子を確認すると、思わず笑いをこらえきれなくなった。
「コスタンさん、すみません急いじゃって。大丈夫ですか?」
「いえ、
突然の衝撃。
バイクが石を乗り越え、大きく跳ねた。
コスタンはしがみつくのが精一杯で、間抜けな声を上げた。
「ぶふっ!」
{ロラン・ローグ、失礼ですよ!}
エリクシルが憤慨するも、ロランの肩は笑いを堪えきれずに震えていた。
「すみません! でもコスタンさんの反応が……なんかおもしろくて……。おかげで緊張がほぐれました!」
ロランがようやく笑いを収めると、コスタンが未だ恐怖と戦う声を絞り出した。
「そりゃ! 良かったですが! この乗り物、怖すぎますぞぉーーー! アヒィーーーー!」
夜の闇に響き渡る叫び声は、どこか滑稽でありながら、ロランの胸の中にほんの少しの安堵をもたらした。
背中越しに伝わるコスタンの必死さが、彼の使命感と一抹の心の余裕を再認識させる。
―――――――――――
シャーマンの魔石。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330666703016916
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