069 光る鋼、舞い散る桜★

 

 やるべきことが山積みだ――槍の穂の製作、武器の調整、そして村への帰還。


{さっそく取り掛かりましょう!}


 エリクシルが意気込むと、その姿はいつもの航宙軍士官服に戻っていた。

 整ったシルエットと深い色合いが、彼女の知的な雰囲気を際立たせている。

 その姿を見たロランの口元が自然とほころんだ。


「その服を見るとホッとするぜ。なんか元気になるな。一番長く見てるからかな?」

{そうかもしれませんね。わたしも村娘の衣装が気に入っていましたが}

「いや、あれも良かったけどよ。この凛々しいのもいいぜ!」


 彼の照れ隠しのような言葉に、エリクシルは静かに微笑んだ。


{たまには違う雰囲気も良いかもしれませんね}


 言うなり、彼女の姿はゆっくりと変化していった。

 勿忘草色だったジャケットは淡い桜色に、青藤色のネクタイは柔らかな今様色に――そして髪も柔らかな桜色へと染まる。

 エリクシルが一息つくと、桜の花びらが舞い散るエモートが宙に現れ、彼女を引き立てた。


「おお……それ、めちゃくちゃ似合うじゃないか。なんていうか……別人みたいだ」


 ロランは目を丸くして彼女を見つめた。凛々しさと愛らしさが調和した姿に、言葉を失う。


{ありがとうございます。たまにはこういうのも、悪くないですね}


 桜色に染まった姿は、薄暗い船内を明るく照らすかのようだった。


{さて、ロラン・ローグ。リファイナリーにタングステン製の部品と、5ミリFMJ弾60発を投入してください}

「了解、こうだな」


 ロランはハーネスポケットからマガジンを取り出し、弾丸をリファイナリーに収めた後、タングステンの部品を慎重に置いた。

 その音が船内に響き、作業の始まりを告げるようだった。


{次に分析台に小鬼ゴブリン祈祷師シャーマンの魔石と眼玉をセットしてください。

その間にわたしが分析を進めますので、ロラン・ローグは休憩を取ってください}

「よっしゃ、任せた!」


 ロランはバックパックから魔石と眼球の保存袋を取り出し、分析台へ転がすように乗せた。

 保存袋から転がり出た眼球が緑の血液で分析台を汚すのを見て、エリクシルが思わず声を漏らす。


{……掃除するのは、わたしなんですが……}


 ロランはその声に気づくことなく、医療ベイへと向かった。

 シャワーでも浴びるのだろう。

 エリクシルはひっそりと蒸気が立つ「プンプン」エモートを再生した。


{まったくもう……}


 彼女はそう呟くと、ナイフにちらりと目をやりながら端末に視線を戻す。

 リファイナリーが低く唸りを上げ、タングステンの部品と魔石の分析作業が静かに進行していく。


 *    *    *    *


 シャワーから戻り、髪を軽く拭きながらラボに現れたロランの目に、台座に並べられた真新しい徹甲弾が映る。


「おぉ、ピカピカ! もうできたのか!」

{槍の穂の製作も進んでいますが、完成にはあと2時間40分ほどかかります。仮眠を取ることをお勧めしますよ}

「助かる。じゃあ、弾丸はマガジンに詰め直してくれるか? 分析結果は、移動中に聞かせてくれ」

{了解しました。お任せを}


 ロランはコップ一杯の水を飲み干すと、ベッドに倒れ込むようにして眠りについた。

 その安らかな寝顔を確認すると、エリクシルは静かに研究ラボへと戻った。


 *    *    *    *


{ロラン・ローグ、起きてください。時刻は2時30分。槍の穂が完成しました!}


 エリクシルの声で目を覚ましたロランは、口元の涎を腕で拭う。


「おう……」


 顔を洗い、コーヒーを片手にラボを訪れたロランの目に、台座に並べられた8つの槍の穂が映る。

 一つを手に取り、光沢のある鋼の表面を見つめた。


「これが槍の穂か。ソケット式になってて、簡単に取り付けられそうだな」

{その通りです。さらに、奥にはタングステン製の試作品も用意しました}


 ロランは奥に置かれた組み立て式の槍を手に取った。

 ドリルのように鋭利な刃が溝を刻む奇抜なデザインに驚く。


「……これか……なんか、ドリルみたいだ」


 ロランがコーヒーをすすりながら3本の内ひとつ、先端が尖っている物を手に取った。


{それぞれが連結可能になっていて、3本で1組の槍になる組み立て式の槍です。畳めばバックパックに括り付けるのも簡単でしょう}

「……なるほど」


 ロランは槍のその奇妙な構造に興味津々で、若干上の空に返事をする。

 穂の形状は工業用のドリルを彷彿とさせる。

 先端は尖り、溝は鋭利な刃物のように鋭く軸受に向かって広がっていく。

 その広がった先は刃物のような羽となっている。


「思ったより重いな。これ、回しながら突く感じか?」

{その通りです。溝の刃が岩を削り、体内を損傷させる設計です。ただし、村人では扱いきれない可能性が高いので、あなたに投擲してもらうことを考えています}


―――――――――――――

エリクシル。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330666636274606

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