為すべきこと
066 挑むべき壁
「岩トロールを倒す?」「俺たちが……?」「どうやって……」
村人たちは困惑し、ざわめき始めた。
自分たちが想像もつかない魔物と戦うことになると知り、不安が一気に広がる。
{はい、そのつもりですが、まずは壁を越えるための条件について教えていただけますか? }
エリクシルの冷静な声が、場のざわつきを抑えた。
コスタンはゆっくりと頷き、落ち着いた声で答える。
「うむ、岩トロールの格は確か4のはずです。もし討伐することができれば、私含めて多くの者が20の壁を越えることになります」
{ちなみに
「通常の
{
コスタンが頷く。
「そして壁を越える条件についてですが、壁を越えたい者が直接討伐するほかに、パーティーを組んだ上で魔物に一撃を加える必要がありますな。この場合は他のパーティーメンバーがとどめを刺したとしても、それまでに一撃でも与えられた者全員が壁を越えることができるのです」
「……パーティーは何人まで組めるんですか?」
「通常であれば5人でしょう」
{「通常?」 }
「はい、私がいれば"アライアンス"…同盟や連携を意味するものですが、それを組めるので10人までは引き連れることができるでしょう」
《コスタンさんは何を言っているんだ?》
{{ ……聞くほかありません }}
その沈黙を見て取ったコスタンが、少し照れたような表情を浮かべる。
「私は村長ですから、指導者として皆を取りまとめる役割があります。王や指揮官ほどではありませんが、村人同士で同盟を組む権限を持っているのですな」
《……王様が軍隊を率いるのはわかるが、村長が、ねえ?》
ロランはエリクシルに視線を送る。
{{有事の際に村を取りまとめるのが村長の役割であれば理解できます。軍隊でいうところの分隊指揮官のようなものでしょう……追及しても解決しない話です}}
《そうだな……シュミレーションゲームみたいでおもしれえけど》
ロランの軽口に、エリクシルは頷いて応じた。
「……まぁ村長権限のようなものだと理解してくだされば結構です。……ちなみに、村長に限らず、職業ごとにある種の特性を持っているのですよ。たとえば戦士がパーティーにいると、仲間全員の力が増すといったような」
「スキルみたいなものなんですか?」
「それについては、私も不勉強なものでわかりません。ただ、職業ごとに定められた特別な特性であると考えています」
コスタンの説明を聞きながら、ロランは何かを思いついたように口を開く。
「狩人がパーティーにいたら、遠くまで見えるようになったりとか?」
「遠くまで見えるわけではありませんが、狩人がいると少し機敏に動けるようになるとか……そういったことはあるでしょうな」
ロランは首をかしげたまま、再びエリクシルに目をやる。
{{原理は全くの不明ですが、興味深いですね。どうやってそんな特性が共有されるのか……}}
《ほんとにな》
考え込むロランを横目に、エリクシルがさらに質問を重ねた。
{……パーティーを組むことで職業の特性が共有される、ということでしょうか? }
「その通りです。ですから、基本的には恩恵を得るためにパーティーを組みます。協力した方が生存率も高まりますからな。稀に一匹狼の冒険者もいますが、彼らはそれなりの信念や矜持を持っているのでしょう」
コスタンの説明にロランは頷きながら、ふと思いついたことを口にする。
「あ、壁を越えるには岩トロールに石を投げつけて隠れるとかでもいいんですか?」
その軽い提案に、コスタンは苦笑いを浮かべた。
「いえ、壁を越えるためには魔物に対して有効打を与える必要がありますな。適当な攻撃では条件を満たせません」
エリクシルの言っていた「自己経験」という概念がロランの頭をよぎる。
格の高い魔物に有効打を与えることで得られる実績――それが壁を越える条件なのだろうか。
「簡単にはいかないものですね……僧侶や癒し手の場合はどうするんですか? 戦闘向きではないでしょうに」
「僧侶が壁を越えるには、飛び道具を使うのが一般的です。
コスタンが記憶を辿るように遠くを見つめる。
{クロスボウ……なるほど。弓の引き方を習得する必要がなくても、有効打を与えられるのは理にかなっていますね}
「そのクロスボウって、村にあったりしますか?」
ロランの問いに、コスタンは肩をすくめた。
「残念ながら、ありませんな」
その一言で、ロランは軽く頭を抱える。
《……クロスボウを作ったらいくらくらいかかる?》
{{ レプリケーターの3Dプリンタで強化プラスチック製を作ると、一つにつき魔石10万個程度でしょうか }}
《げっ! 木ならどうだ?》
{{ 木そのものを出力するのはできませんし、都合よく素材に適した木材がないでしょう }}
考え込むロランの脳裏に、別の案が浮かんだ。
《クロスボウが無理なら、槍はどうだ? 岩トロールの関節部なら岩で覆われていないだろうし、俺が銃で弱らせれば、安全な距離から槍で攻撃できるかもしれない》
{{ 槍の穂はシンプルな形状なので良案です。ただ、都合よく柄があるかどうか……提案してみましょう }}
ロランは顔を上げ、コスタンに提案を持ちかけた。
「槍なんかはどうですか?」
その一言に、コスタンは顎をさすりながら鍛冶師のチャリスを呼び寄せる。
「チャリスさん、私のお古の槍はまだ残っていますかな? 確か3本あったはずですが……」
「ええっと……あの槍ですかい? 穂は鍋にしちまったぜ。柄だけなら倉庫に転がってると思いますが……」
チャリスは額をポリポリと掻きながら答え、コスタンは困ったようにため息をついた。
「残念ですが、柄しかありませんな……」
「いえ! 柄さえあれば、穂はなんとか作ります!」
それを聞いたコスタンは安堵の表情を浮かべる。
{それであれば……このような穂を用意するので、必要な物を見繕ってもらえますか? }
エリクシルはそう言うと、ホログラムで槍の穂の設計を投影した。
美しい木の葉型のデザインが宙に浮かび上がる。
「おお、こりゃすげえな! わかりやすい図だ! 魔法みてえだな!」
村人たちも「おお~」と感嘆の声を上げる。
{……魔法というより、技術に近いものです }
エリクシルの控えめな返答に、チャリスはにっこりと笑って頷いた。
「ふむ……単純な軸受け式ですかい。釘も2本ありゃ十分だ。それなら柄の寸法がいりますぜ。すぐ倉庫からとってきやす!」
チャリスは勢いよく家を飛び出していった。
「ふむ、長槍であれば比較的安全な位置から攻撃ができますな。しかし岩を貫けるとは思えませんが……」
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