仇
057 "杖持ち"、襲来★
{{ロラン・ローグ! 村の北に設置したセンサーに生命反応! その数6体!}}
《なにっ!?》
{{その内の一体は"杖持ち"と思われる高濃度の反応を示しています。この速度だと30分程で村に到着すると思われます。マークします!}}
エリクシルの警告が入ると同時に、ロランの視界に
《そりゃ俺らを見つけて、そっとしておいてはくれないよな……》
{{そうですね。しかしセンサーのおかげで、敵の存在を早期に感知できました。今なら村人を避難させる余裕もありますし、反撃の準備も整います}}
《よし、まずはコスタンさんに報告をしよう》
村では住人たちが食事や酒を楽しみ、宴の賑わいが最高潮に達していた。
ロランは静かにコスタンに近づき、耳元で告げる。
「コスタンさん、エリクシルが"杖持ち"
ロランの表情から事態の深刻さを感じ取ったコスタンは、顔を引き締める。
異変を察した妻のサロメも、手にしていた器を置き、慎重にロランへ視線を向ける。
「……感知の方法については、後ほど詳しく聞かせてもらいます。それより、奴らが村に着くまでどれほど時間があるのです?」
{30分ほどです}
「……30分で、ですか? そんな遠くにいる敵の接近を、感知できる技術があるとは……。漂流者――あなた方の力は本当に驚くべきものですな」
コスタンは腕を組み、しばし黙考した。
その間にもロランは言葉を続けた。
「コスタンさん、
「ロランさんおひとりでですか!? それはいくらなんでも無茶です。"杖持ち"……そやつは恐らく
{{
《ありがとう。助かるよ》
「……やっぱりあれは魔法だったのか。ニョムを送り届ける時に火の玉を飛ばしてきた奴がいたんです」
その言葉に、コスタンの目が驚きで大きく開かれる。
「無事で戻れたことが奇跡です! “ファイアボール”――奴らの魔法のひとつ。当たればひとたまりもない……。実は、ニョムさんの父親も、それで命を落とされたのです」
サロメが小さく息をのむ気配がする。
ロランは視線を落とし、静かに続けた。
「遠くからの攻撃だったので、運よく避けることができました。でも、次も同じように対処できる保証はありません。だからこそ、先にこちらから仕掛けます」
「……とりあえず村に被害が出ないよう、村人の皆さんを安全な所に避難させてください。あとは俺が……!」
「あれは"パーティー"、失礼……数人の仲間で一団をつくり、戦術を練って相手取る必要がある魔物です。ひとりで真っ向から相手にするのは無謀もいいところですぞ!」
「いえ、気づかれる前に倒します。村人の安全を最優先にしたいので」
ロランはそう言うと、そばのバックパックから武器を取り出した。
それを見たコスタンの眉が、さらに険しくなる。
「……その武器は……?」
「
ロランが構えたその武器は、彼らの知る弓とは形も用途も異なる異質なものだった。
しかし彼の真剣な眼差しに、コスタンは決断を迫られる。
「ええ。ただし、攻撃の際には大きな音がします。その分、矢よりもずっと速く飛びます。この武器を使って狙撃します」
ロランは発砲音について前もって説明し、混乱を避けるために慎重に言葉を選んだ。
さらに、屋根の上から狙撃する計画を告げると、コスタンは一瞬困惑したように眉をひそめたものの、考え込む様子で再び口を開いた。
「……村の近くまで引きつけて迎え撃つという策は取らないのですか?」
「いえ、気づかれる前に仕留めます」
「しかし……この暗がりですぞ。どれほどシャーマンが接近していると分かっても、ロランさんのレベルでは夜目のスキルは持ち合わせていないのでは?」
《なるほど……村まで引きつけて迎え撃つと思っていたのか。それにしても、夜目が利くスキルとは興味深い……》
{{そうですね。スキルは、彼らにとっては技術と鍛錬の証なのかもしれません。森に暮らす狩人たちが長年かけて身につける技のように……}}
「……俺ではなく、エリクシルが見えています。彼女の力を借りるんです」
ロランとコスタンの視線を受けたエリクシルがビシリと敬礼して見せる。
「ふむ……魔法を扱う
コスタンは再び黙り込み、深い思索にふけったようだったが、ついに意を決したように顔を上げた。
「……分かりました。村人たちには、私の家に避難してもらいます。あの石壁ならば、
コスタンは村人たちを集めると、事の次第を手短に伝えた。
敵が接近していること、英雄がすでに迎え撃つ準備を進めていること。
そして安全のため、速やかに避難する必要があることを。
「ロランさんが倒してくださる――皆、安心して避難を進めてくれ」
その言葉に村人たちは大きく頷き合い、不安げだった表情も次第に和らいでいった。
彼らは互いに声を掛け合いながら、避難を始めた。
その背中を見守るロランの横で、コスタンはそっと目を伏せた。
「できれば、コスタンさんにも避難していただきたいのですが……」
ロランがそう提案すると、コスタンは静かに首を振る。
「いや、私は見届けなければなりません。ニョムさんの仇ですから」
「……分かりました。それでは、俺は屋根の上で狙撃の準備をしますが、コスタンさんもご一緒に?」
「ふぅむ……年寄りには少々骨が折れますが、登るのを手伝ってもらえるなら」
「もちろんです」
ロランは頷き、エリクシルの指示でコスタンの家へと向かう。
彼は左の上腕に触れて強化服を起動すると、家の裏手のポーチから軒下に飛び上がり、屋根に手をかけた。
「なんと身軽な……」
コスタンが感嘆の声を漏らす。
その間にもロランはひょいと屋根に登りきると、即座に手を差し出した。
「しっかり握ってください」
「ええ、頼みます」
――――――――――――――
襲来。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093086002747108
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