054 味覚で繋がる友情★
ロランとエリクシルは、村人たちの温かい歓迎と賑やかな食事に心から感謝し、笑顔を浮かべながら料理を堪能していた。
テーブルの上には様々な料理が並び、ロランは次から次へと手を伸ばしていく。
まず、シチューの入った器を手に取り、香ばしい香りと湯気に包まれながら一口すくう。
柔らかく煮込まれた野菜と、メェルの乳からくる深いコクが口の中で広がる。
芋やハーブが絶妙なバランスで溶け込んでおり、思わず顔がほころんだ。
「このシチュー、すごく濃厚で旨いですね! メェルの乳のおかげなんでしょうか」
「その通りですな。この村で育てているメェルの乳は栄養価が高く、コクもあり、スタミナ補給に最高ですぞ」
コスタンが満足げにうなずく。
ロランがさらに興味を示して、他の料理にも手を伸ばす。
サラダの器から新鮮な野菜を取り分け、トウモコロシやオニョンのソースが絡んだレスタシやママトの組み合わせに舌鼓を打つ。
「これもまた爽やかで美味しいですね。トウモコロシの歯ごたえも楽しいです」
「サラダのトウモコロシは干して保存したものを水で戻していますが、こうすることで風味がより引き立つのです」
{コスタンさんは料理まで詳しいんですね }
「俺もそう思った」
「いやっはっはっは、まぁ冒険者というのは自炊もしますし、旅先で良いものを食べますからなあ。……舌が肥えすぎて困っているところです」
コスタンはサロメの方を一瞥すると、後半は小声で言った。
「聞こえていますよ!」
「おっと!」
サロメがピシャリと言うとコスタンが口を押えてニカリと笑う。
「お次はこれですぞ、コッコの丸焼き!私はこれに目がなくてですな!」
コスタンは、大皿の上にあるコッコの丸焼きに手を伸ばし、肉の塊から豪快にチキンレッグを引き抜くと、ロランにも勧める。
「さあ、これはうちの村の自慢の一品ですぞ!」
ロランも真似をしてチキンレッグを掴むと、がぶりと頬張った。
皮の香ばしさと肉汁が噛むほどに溢れ出し、ラビイヤーリーフとやらの風味が引き立っている。
「くっ、これは絶品ですね! 新鮮な肉がこんなに美味しいとは……」
笑顔でコッコの肉を楽しむロランに、コスタンも大満足の表情だ。
「食べる楽しみは労働の原動力ですからな。日に2回、しっかり食べてこそ元気が出るのです」
{……普段の食事は2回なのですね}
「ええ、昼に軽くつまむこともありますが、朝と夕の2回が基本ですな。今日はムルコさんの家でも食べましたから3食食べてしまいましたが、よく歩いたおかげで夕食もしっかり食べられます!」
目の前に並ぶ料理の一つひとつが村の豊かさと、村人たちの料理の腕前を物語っているようで、ロランは一口ごとに感嘆の声を漏らす。
「これはキッシュですぞ。ホリンソウやピギーのベーコンが中に入っており、卵の風味が際立ちます」
ロランが一口食べると、ホリンソウのほのかな苦みとベーコンの香ばしい風味が口いっぱいに広がり、さらにパスタにも手を伸ばす。
手打ちの幅広パスタはもちもちとした食感で、ママトのソースがよく絡んでいる。
「こんな太いパスタは見たことがありません!」
「ラクモさんが打ったものでしてな。村一番の料理上手ですよ」
コスタンも得意げだ。
{{このパスタはタリアテッレに似ているかもしれませんね}}
《なんだって? タリア…何?》
{{タリアテッレ。伝統的な幅広パスタです}}
ロランは、エリクシルの意外な知識に驚きながらも、好奇心からエリクシルに少しイジワルに問いかける。
《エリクシル、いつから料理にそんなに詳しくなったんだ?》
{{私は何でも日々学んでいるんですから}}
《それが暇つぶしになっているならいいけどな》
{{暇つぶしどころか、新しい知識は私にとっては食事そのものです。どんどん覚えたくなるんです}}
ロランは少し笑って尋ねる。
《へぇ、それで、好みはあるのか?》
{{……歴史ですね}}
エリクシルは真剣な調子で答える。
「歴史!?」
「ん?」
「あ、なんでもないです」
ロランは思わず声に出してしまうが、どんな味なのか疑問に思いつつも目の前の食事を口に運んだ。
「やっぱり旨いなぁ……!」
ロランがとママトのパスタに舌鼓を打っていると、コスタンが微笑みながら声をかける。
「少しピリッと来るでしょう? チリチリペッパーとガーリップを効かせているんです」
「チリチリペッパーにガーリップ……」
{{チリペッパーとガーリックですね。こちらの言葉は面白い表現が多いですね}}
《過去に漂流者がこの世界に来て、いろいろ教えたのかもな》
{{それも一理ありますね}}
「……それにママトの甘みとピギーのベーコンもいい味を出していますね。ところで、この緑色の香草は?」
「パシェリですな。香りはさほど強くありませんが、彩りに良いでしょう? 中にはそれだけを好んで食べる人もいるようですがね」
「パシェリですか、たしかに赤いママトの中に緑があると食欲をそそりますね」
「そうでしょう、目でも楽しむのが食の醍醐味ですな」
ロランは再び食事に夢中になり、楽しげに食べ進めた。
しばらくして、ロランはふと、自分が船から持ってきた食料を思い出す。
せっかくの手土産を、この場で披露するのも良いかもしれない。
―――――――――
料理人ラクモ。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330666052136385
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