ファンタジーな世界
043 "夜"と"ダンジョン"
* * * *
食事を終えたニョムの兄弟たちは、興味津々でプニョちゃんを取り囲んでいた。
皆で容器をつついたり、話しかけたり、身振り手振りをしてみせる。
プニョちゃんもそれに答えるように伸びたり縮んだり、愛嬌たっぷりに手を振ったりしている。
ロランはその微笑ましい様子を横目に見ながら、ムルコに礼を言った。
「シチューとパン、ご馳走様でした」
「いいえ、こんな粗末なもので恐縮ですが……」
「いえ、とてもおいしかったです。それに、久しぶりの手料理だったので」
「それなら良かったけど……こんなので良ければいつでも食べにおいでなさいね」
ムルコはそう言って笑顔を見せた。
その温かい気持ちが、ロランの胸にもぽかぽかと広がる。
彼女は大勢の子どもを抱えつつ、恩人への感謝の気持ちを惜しまず表してくれたのだ。
ロランとムルコが話しているそばで、コスタンもいそいそと皆の分の食器をまとめていた。
コスタンはムルコに礼を言い、食器を足早に流しへと運んだ。
そして、再び勢いよく席に戻ってきた。
「さあ、お待たせしました!続きを話しましょうか!!」
コスタンは待ちかねていた様子で、張り切ってダンジョンの話を再開した。
エリクシルもまた、目を輝かせ、まるで冒険譚に引き込まれるかのように聞き入っている。
{ぜひお願いします!}
エリクシルは待ってましたとばかりに目を輝かせ、わくわくした様子が見て取れる。
ロランは、話好きのコスタンにとってエリクシルが最高の聞き手だと気づき、呆れながらも苦笑を浮かべた。
* * * *
――1時間後。
「いやぁ、エリクシルさんは本当に聞き上手ですな! ダンジョンについては、もう私からお伝えできることはありませんよ!」
{コスタンさん、貴重な体験談をありがとうございました! 冒険活劇のようで、とても楽しかったです!}
エリクシルは椅子から立ち上がり、深々とお辞儀をした。
コスタンも嬉しそうに照れ笑いをしながら会釈を返す。
その横で、ロランは半ば死んだような目をして、かろうじて椅子に座っていた。
《エリクシル、映像作品には"非科学的"だとかケチつけてたのに、コスタンさんの話は楽しかったんだな?》
どうやらロランは、少しやきもちを焼いているようだ。
{映像作品をつまらないとは言っていませんよ? むしろ娯楽としてみれば楽しいものです。ですが、コスタンさんの話は体験談――つまり、ドキュメンタリーですからね。私の好きな"知識"の宝庫ですから!}
《そうか、それなら今度ドキュメンタリーものを一緒に見てみるか》
{それは良いですね、楽しみです。そして、コスタンさんの話を要点だけ端末に送信しておきました}
端末がピピピパプーと陽気な通知音を鳴らすと、コスタンが「むむ?」と首をかしげる。
《おっと……通知はオフにしておこう。ありがとう、エリクシル》
{{ では、要点を説明します。『宵闇の刻』にはダンジョンから魔物が出現するようです。この『宵闇の刻』は24時から1時までで、さらに長期放置されたダンジョンでは"
《じゃあ"不気味な森の洞"……"タロンの悪魔の木"は、まだ
{ はい、そのようです。そして、現時点ではダンジョンに近づかなければ比較的安全な状態だと判断できます }
《よかった、安心したぜ》
{ さらに、"マソ"という存在についても面白い情報が得られました。"マソ"はコスタンさんの話の特徴からして、"エーテル素"と同じもののようです。ですが、現地での魔法的なニュアンスを含むため、"魔素"と呼称することにしましょう}
《……エーテルは魔素……か。魔法の物質ってことだな。わかりやすくてファンタジーだ!》
{{ちなみに話の中で、"マホウ"や"スキル"、"レベル"も登場しましたが、これらもダンジョン関連のようです }}
エリクシルは目をキラキラとさせたまま報告を終えた。説明するのが楽しいようだ。
ロランはエリクシルの報告を聞き終えると、イスに深く座り直しエリクシルを見る。
《まずはエリクシル、ありがとう。ダンジョンの詳細はまた後で確認する。コスタンさんの話は長すぎたからまとめてもらえて助かったぜ》
{{いえ、大変興味深いお話でした。お役に立てて嬉しいです!}}
エリクシルが可愛くルンとしてみせると、ロランがニヤリとして見つつ通信を続ける。
《しかしダンジョンに宵闇の刻、
{{はい、改めて説明を求める必要があります}}
《……よし、ここからは俺も頑張って聞いてみるか》
{{ええ、それがよろしいかと!}}
ロランは今度はコスタンの方に向き直る。
コスタンはたっぷり話し終えて満足げに、ムルコが淹れたキノコ茶を啜っていた。
「コスタンさん、貴重なお話ありがとうございました! "夜"はダンジョンが近くになければそんなに気にする必要はなかったんですね。良かったです」
さっきまで死んだように話を聞いているのか怪しかったロランがついに会話に参加し、コスタンは思わず笑みをこぼすとコホンと咳ばらいを一つする。
まるで話し相手が増えたことを喜んでいるようだ。
「ええ、そうですな。……それにしても最初はロランさんがダンジョンの離れで野営していると聞いて、肝を冷やしましたぞ」
「ええ、何事もなくて良かったです。……あの、話の途中で出てきた魔素とは一体なんなのでしょうか? 俺たちの身体にも流れていると聞いています。いったいどういったものなんですか?」
ロランの質問にコスタンが改めて姿勢を正した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます