041 コスタンの長い話★

 

{{今までのセンサーの反応では、コブルは夜はそれほど活動的ではありませんが、"夜の魔物"に関しては確認すべきです。コスタンさんに直接尋ねてみるのが確実でしょう}}

《そうだな、ありがとう》


 食卓を指でトントンと叩きながら思案しているロランに、エリクシルが無声通信で助言をした。

 ロランの様子をよそに、コスタンは話を進める。


「いやはや、私の屋敷は人手不足で修繕が追いつかず、客人をお迎えするには少々お恥ずかしい状態でしてな。このムルコさんの家に泊まっていただくのがよいかと思いまして」


 コスタンの言葉に、思わずロランは会話に割って入った。


「あ、あの! 確かに知識はありがたいですし、一泊させていただけるのも感謝しているんですが……ムルコさん、負担じゃないですかね? なんというか、無理をさせるのも……」


 ロランはちらりとムルコと子供たちを見た。

 家には小さな子供が多く、夫を亡くしても必死に支えているムルコにこれ以上の負担をかけたくなかった。


「ニョムの恩人ですから、喜んでおもてなししますよ」


 ムルコはロランの意図を汲んで、温かく微笑んだ。


(不味いな退路を断たれた。いやしかし、そうだよな恩人であればお帰りいただくわけにもいかないだろう。コスタンさんに懸念事項について説明してもらおう。となるとまずは……)


「では……俺でできることがあれば何でも言ってください」

「それなら薪割りをお願いできるかしら?力仕事が大変でね」

「お任せください!折を見て手伝わせてもらいます!」


 ロランはハキハキと返事をし、ムルコと和やかに話を終えると、コスタンの方を真剣な表情で見た。


「……コスタンさん、もう一つお聞きしたいことがあるんですが」

「なんでしょう?」

「ここは安全なんでしょうか?」

小鬼ゴブリンの襲撃が絶対にないとは言えませんが……」


《ゴブリンやコブル……呼び方がややこしいな、統一するべきだな》

{{その方が良さそうですね}}


「いや、小鬼ゴブリンはどうにか対処できるかと思いますが、夜についてどうかと……」

「夜ですかな? ……もしや"ダンジョン"で見かけた魔物が気になっておられるのですな?」


 コスタンが理解したようにうなずく。

 ロランはエリクシルに素早く確認を取る。


《エリクシル、"宵闇の刻"に"ダンジョン"……わからねえ単語ばかりだ。解説できるか?》

{{"宵闇の刻"は、おそらく"魔の1時間"に相当する呼称でしょう。後者"については説明を聞く必要があります}}


「"宵闇の刻"というのは、真っ暗になる時間帯のことですか?」

「さよう! そして"ダンジョン"とは地下迷宮のことですな。いや、失礼。ロランさんが共通語を流暢に話されるので、こちらの知識がないことをうっかり忘れておりました。ダンジョンとは……」


地下迷宮ダンジョンって……まじかよ》


 コスタンは語り始めようと目を輝かせるが、その様子に気づいたムルコが少しあきれた顔で割って入る。


「コスタンさん、その話、長くなるでしょう? 私は昼食の支度を始めますね。ロランさんとエリクシルさんはゆっくり聞いていてくださいね。……ところで、エリクシルさんは食事を召し上がれるのかしら?」


{ムルコさん、わたしは食事を摂る必要がありませんが、お気遣いありがとうございます}

「ムルコさん、ありがとうございます」


 エリクシルは微笑み、ロランも一緒に会釈した。


《……話が長いってよ》

{{現地の貴重な情報ですから、聞く価値は十分あります。それに、質問したのはこちらですし }}


{……コスタンさん、ダンジョンの話、ぜひお聞かせください! }

《おい、勝手に……》


 ロランはエリクシルを制止しようとしたが、その表情を見てやめた。

 エリクシルは瞳を輝かせ、今にも飛び出さんばかりに話を聞きたがっている。


「おお! エリクシルさんもダンジョンにご興味がおありですか! それはいいですなあ。……ゴホン、ダンジョンには私も若気の至りで何度か行ったことがありますがな、それはもうとんでもないところでして……」


 コスタンの話は、そこから本格的に始まった。


 *    *    *    *


「……若い頃はモテましてなあ、ダンジョンのパーティでは常に女性に囲まれておりまして……」


 *    *    *    *


「……そしてこの剣で小鬼ゴブリンをズバッと!いやあ、壮快でしたなあ……」


 *    *    *    *


「……なんとか命からがら帰れました。ダンジョンの探索というのはですね……」


 *    *    *    *


「……そこで"アイテム"が手に入るんですぞ! あっと、『アイテム』というのは説明が必要でしたな」


《……コスタンさんの話、冗談抜きで長い……。大事な情報もあるし面白いけど、自分の自慢話が多すぎる!》

{{冗長なのは確かですが、重要な情報もありますし、聞きたいことをすべて聞いておくべきです。}}


 エリクシルはかぶりつくように話を聞いている。

 ロランが視線を移すと、ニョムと兄弟たちはプニョちゃんと遊んだり、ムルコの手伝いをして過ごしている。

 コスタンの長話は彼らには気にならない様子だ。


《コスタンさんの長話は日常茶飯事なんだろうな……》

{{ふふふ、ある意味村の名物でしょうか }}

《名物って、良い意味か?》

{{もちろん良い意味です。彼の体験談は、わたしにとって最上の娯楽です!}}

《そうか、エリクシルにはそうか……ノンフィクションだもんな……》


 ロランは微妙に納得しつつも、やれやれといった顔でうなずいた。


「"アイテム"は、競売でしか見られないほどの貴重品です。わたしも是非手に入れたかったのですが、ダンジョンの深層には……」


 エリクシルは引き続き熱心に質問しながら聞き入っている。


《エリクシル、あとは任せた……》


 ロランは心を無にして、コスタンの話が終わるのを待った……。


――――――――――――

村長の冒険者時代。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093085023647683

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