031 ニョムの習慣★
ポーーーン
船内のスピーカーから小気味よい音が鳴り、朝を告げる。
{おはようございます。ロラン・ローグ、定刻になりました。恒星間年月日は統一星暦996年9月10日の6時、ニョムさんを救出してから5日目の朝になりますよ。睡眠時間は9時間……ほんとによく寝ますね。本日の天気は快晴です。朝のジョギングにもってこいの気候です。起きてください。……ニョムさん、起こしてください}
ドタタタタタッ!
「ロラン! おっきろーーー!」
「うぅん……もう少し寝かせてくれ……」
ロランはうめき声を上げたが、ニョムは構わずロランの上に飛び乗り体を揺らす。
「ダメだ! おっきろーーー!」
「ぐっ、痛てっ! ……おはよう、ニョム……でも、早すぎるよ……」
ロランはようやく目を覚まし、まだぼんやりとした頭を振る。
「ロラン、おっはよーー! 朝だよ、いい朝だよ!」
ニョムは笑顔で元気いっぱいだ。
ニョムの1日はいつも早い。
彼女は毎朝6時には目を覚まし、自分でシリアルを用意するようになった。
起きるなり元気いっぱいの彼女は、ロランを起こすのも日課だ。
笑顔でロランを揺り起こし、2人で朝食を取る。
そして食後はエリクシルと一緒に言語学習に取り組む。
ニョムの明るさと学ぶ意欲には、ロランも感心するばかりだ。
ロランがジョギングに出かける間、ニョムは船内をせっせと掃除しながら、エリクシルとおしゃべりを楽しんでいる。
小さな体で一生懸命に働くその姿は微笑ましい。
ジョギングを終えて戻ってくると、ニョムはロランの着替えを準備してくれる。
「ニョム、ありがとうな」
ロランに頭を撫でられると、彼女は尻尾をふりふりさせて嬉しそうに笑う。
そんな温かな交流が、船内の日常となっていた。
昼食を取ると、ロランとニョムは追いかけっこやかくれんぼで遊ぶ。
エリクシルはそのホログラム機能を駆使してかくれんぼに参加し、ニョムを大いに驚かせた。
「エリクシル、ずるいぞ!」と笑い声が響く中、船内は賑やかさを増している。
午後の時間はゆったりと過ごすことが多い。
おやつ時には、フォロンティア・ミルズのチョコバーをロランとニョムが半分ずつ分け合い、ココアを楽しむひとときが日課になった。
ロランが筋トレをしている間、ニョムはエリクシルと一緒に走り回り、元気いっぱいに遊び続ける。
夕食はニョムが選んだメニューを楽しむが、彼女が野菜を嫌がると、ロランがその口に野菜を押し込むこともある。
「野菜も食べないと大きくなれないぞ!」と言われて、渋々ながらも頬張るニョム。
食事が終わると寝る前の勉強時間だが、9時前にはニョムがウトウトし始めるため、自然と寝るタイミングとなる。
この新しい日常は、ニョムにとっても居心地の良いものとなった。
彼女は安心して過ごせる環境で、元気を取り戻し、学習意欲も旺盛だ。
言葉も少しずつ覚え、ロランやエリクシルと笑顔で会話を交わす姿が増えてきた。
エリクシルに蓄積された翻訳データのおかげで、ニョムの言葉もよりスムーズに変換され、コミュニケーションが取りやすくなっている。
ロランもまた、エリクシルの助けを借りつつ、彼女との会話を楽しむようになっていた。
また、ニョムの生活リズムが元の世界とほとんど同じだったことも、ロランにとっては驚きだった。
エリクシルによれば、ロランの故郷に似た惑星は数百種もあり、特に珍しいことではないという。
時間のズレがなく、すり合わせの手間が不要なことは、日常の安定に大いに役立った。
その一方で、ロランは日々の警戒も怠らない。
ニョムを保護してからの間に、2度コブルの偵察隊を撃退している。
センサーが検知した生命反応を森の中で迎撃し、彼らを仕留めているのだ。
初めの頃は銃を使っていたが、幸いにも斥候は現れず、ギリギリまで接近してハンティングナイフで対処することが増えた。
エリクシルから{燃料のため}と説得され、嫌々ながらもジェムストーンの回収を続けるロラン。
1グラム程度の動力しか得られないと不満をこぼす彼に、エリクシルは{分析にも使うんですよ! 塵も積もれば山となる、です!}と励ます。
時には、"魔の1時間"以外の時間帯に、船のセンサーが南方で高濃度のエーテル反応を検知することもあった。
しかし、それは特に攻撃的な動きを見せるわけでもなく、単に徘徊しているだけのようだった。
エリクシルと相談した結果、無理に接触する必要はないという結論に至り、あくまで警戒を続ける方針とした。
今日はジョギングを兼ねた調査のため、ロランは「不気味の森」へ向かった。
目的は数日前に仕留めたコブルの死体の状況確認だ。
森の中、以前見た死体には鋭い爪や牙で引き裂かれた痕が生々しく残っていた。
明らかに何かがその腐肉を漁った形跡だ。
「やっぱり……」
彼の脳裏をよぎるのは、船のセンサーが示した高濃度のエーテル反応と、"魔の1時間"中に現れる謎の存在の関係だ。死体が荒らされた状況を見る限り、その正体は肉食性の何かだろう。
周囲のリスや鳥たちの姿に、この地の豊かな自然を実感しながらも、頭の中には常に警戒の念がよぎる。
そして一方で、ニョムのことを考える。
ニョムの故郷について、彼女がどのようにして連れ去られたのか、家族がいるのか。
もし家族がいるなら、彼女を無事に返すべきだと考える一方で、ロランの心には別れが近づく寂しさもあった。
「いや……家に帰すのが一番だ」
ロランはそう自分に言い聞かせ、シャワーから上がると、ニョムが用意してくれた衣服に着替える。
「ニョム、ありがとう」
ロランが頭を撫でると、ニョムは嬉しそうに尻尾を揺らした。
その無邪気な笑顔に癒されつつ、彼はふとニョムがカウチの下を覗き込み、小さな容器を拾い上げるのを目撃する。
「ニョム、何を持ってるんだ?」
「これ、あっちの部屋で見つけたの。遊んでたんだけど、きれいだよね!」
彼女がコクピットの方を指さしながら、手の中の容器をロランに見せる。
それは半透明のゲル状物体が入った容器だった。
小さな光がゆらゆらと中で動き、まるで生きているかのようだ。
「それ……!」
一瞬ロランの顔が険しくなる。彼は勢いよくニョムの手から容器を取り上げた。
「ニョム、それは宇宙アメーバだ。蓋を開けたら大変なことになるから、絶対に開けるなよ! これは……冗談抜きでヤバいやつなんだ!」
「ウチュウ? アメーバ? ……でもきれいだし、元気なさそうだよ?」
ニョムはロランの剣幕に驚きながらも、物珍しそうに容器を見つめている。
ロランは容器をじっと観察した。
以前は青白く輝いていたゲルが、今ではピンク色に煌めいている。
「……こいつ、なんでこんな色に?」
ロランはエリクシルを呼び出し、解析を依頼しようとしたその瞬間。
容器の中のゲル状物体が突然ピクンと動いた。
ロランは思わず息を呑む。
ゲルがゆっくりと形を変え、指のような突起を伸ばした。
まるでロランに向かって手を振っているかのようだ。
「なっ……おい、冗談だろ……!」
――――――――――――
Vege理研。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330665475756250
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