027 少女の名はニョム★
ポーーーン
船内のスピーカーから小気味よい音が鳴り、朝を告げる。
{おはようございます。ロラン・ローグ、定刻になりました。恒星間年月日は統一星暦996年9月6日の6時になります。睡眠時間は8時間、よく寝ましたね。報告があります。起きてください。……起きなさい!}
「うわっぷ!」
エリクシルが耳元で叫ぶと、ロランは飛び起きた。
カウチに潜り込んでいた少女の耳が手に触れる。
「こいつ、なんでここに……」
{寂しかったのでしょう。私も添い寝できれば良かったのですが、残念です}
「添い寝って……」
ロランは言葉に詰まるが、下腹部が湿っていることに気づき、少女の顔を見つめる。
(泣いていたのか……?)
彼女も目を覚まし、目をこすりながらロランとエリクシルを見つめる。
「"オハヨウ"……」
「おい、これって……?」
{オハヨウ、朝の挨拶でしょうね}
「オハヨウ、だな。言葉が分かってくると楽しいもんだな」
ロランは少女の泣き張らした顔を見据え、ニカリと笑う。
エリクシルも少女に顔を見せて、そっと微笑えむと、満面の笑みが返ってきた。
「昨日も言ったけど、いい服だな似合ってる。エリクシルさすがだな!」
少女はロランのお下がりを調整した白いTシャツと茶色いステッチが目立つ長ズボンのオーバーオールを着ている。
ロランは少女の服を指さして親指を立てると、彼女は得意げに回って見せた。
{ありがとうございます。上手くいってわたしも嬉しいです}
「で……だ。この子の名前を知らなかったな。まずはこの子の名前を知ろうと思うんだ」
{はい、名前を知ることでより親密な関係を築けますね}
ロランは自分を指さし、「ロラン」と伝え、エリクシルを指して「エリクシル」と名前を教える。
最後に少女を指さして尋ねた。
「ナ・ニ?」
少女は胸に手を当て、はっきりと答えた。
「ニョム、ニョ・ム、■■■■!」
「ニョム……だな? ニョムニョム、語感が良いな、繰り返したくなる」
「ガウッ!!」
するとニョムは突然吠え、全身の毛を逆立てて怒る。
「なんだなんだ、ニョム……ニョムは1回ってことか?」
ロランは眉をひそめ、エリクシルに確認する。
{そうかもしれません。同じ語を続けると全く別の意味となることがあります。それで怒ったのかもしれません}
「わかった、ニョム。すまなかったな。俺はロランだ。……それとエリクシル、言えるか?」
ニョムは毛を落ち着かせ、もう怒っていない顔を見せる。
「ロ、ラン、エリ、エリクシル」
「そうそう、上手だ。よろしくな」
{ニョムさん、これからもよろしくお願いします}
{さて、朝のお勉強はここまでです。未明に生命反応がありました}
「なに……」
ロランは緊張し、眉をひそめる。
{生命反応の中に特異なエーテル濃度の高いものがありました。"斥候"の可能性が高いです。どう対処しましょうか?}
「奇襲か待ち伏せか……」
{もし"斥候"であれば感知能力が長けていると思われます。どちらを選択するにせよ、探知されない長距離からの狙撃が安全です}
「"斥候"がどうかわかんねぇけど、普通のコブルは決して強い敵じゃなかった。できれば長距離狙撃用の弾薬は温存したい。かといって森に罠を張る時間もなさそうだ」
ロランは思案する。
ニョムは異様な雰囲気を察してか、静かにふたりを交互に見ている。
「……中距離対応のアサルトライフル、
{対象が遺跡の跡に侵入するタイミングであれば射線も十分に確保できるので、手前の森に潜むのが最適かと思います。今から移動しても十分に間に合います}
「準備する」
ロランは即答するとロッカーに向かい装備を整え始めた。
10発で仕留めると言ったロランだが、最悪を想定しての準備だ。
急いでタラップへ向かうロランに、ニョムは不安そうに声をかけた。
「■■■? ■■■■■?」
「すまん、あとで話そう。エリクシル、サポート頼む」
{任せてください。ニョムさんのお相手もします}
ロランはニョムのために朝食のシリアルと用意して「すぐ戻る」と伝え、タラップを降りて森へ向かう。
彼は強化服を起動させ、エリクシルのサポートを受けながら狙撃ポイントへ移動した。
* * * *
{{ロラン・ローグ、狙撃ポイントをマークします}}
エリクシルの無声通信が流れ、
ロランは一番近くの木によじ登ると、接敵に備えた。
{{スキャン範囲内です。対象をマークします}}
《……こりゃ、楽勝だな!》
先行しているコブルは擦れたボロのフードをかぶり、腰蓑に短剣のようなものを装備し、いかにも"斥候"の見た目をしている。
そして幸いにも飛び道具は装備していないように見えた。
ロランはスコープを覗き、照準を合わせると、射撃のタイミングを見計らった。
(遺跡の中ほどまで入ってくるのを待て……。もう少しだ。もっと開けたところまで入ってこい……!)
しかしロランが期待した位置よりも手前で、"斥候"がふと足を止めた。
足を止めた理由を確認するために一度スコープから視線を外す。
その瞬間"斥候"が樹上のロランのいる方角を向いた。
ロランはギクリとして慌ててスコープ覗くと、スコープ越しに目が合う。
(まじかっ!?)
ロランは驚き、思わず発砲する。
ッダーーーン!
銃声が森に響き、その音に気が付いた他のコブルが慌ただしく叫びだす。
《外したっ! あいつこっちを見たぞ!?》
「ギャギャーグギャ!」
"斥候"が短剣を構えるとロランを指し示し叫ぶと、他の4体が一斉にロランを視認し駆けだした。
{{ロラン・ローグ、落ち着いて、ゆっくりと照準を合わせてください。距離はまだ十分にあります。大丈夫ですよ}}
エリクシルがロランを落ち着くよう促し、ARに最優先目標のタグと距離を表示してサポートする。
目標は"斥候"、続いて4体それぞれに
ロランは今一度、自身を落ち着かせるためにフゥーと息を吐いた。
(まずは"斥候"だ、樹上の地の利がある。"斥候"の頭を狙う。……ぼーっとしやがって、余裕のつもりかぁ?)
ロランは"斥候"の頭部に狙いをつけると、奥歯を噛み締め集中した。
4体のコブルが勇んで駆ける中、"斥候"はゆっくりとこちらの様子を観察しているようだ。
ッダーーーン!
再び銃声が森に響き、弾丸は"斥候"の頭部を貫いた。
他のコブルたちがロランに向かって突進してくる。
{ロラン・ローグ、冷静に、次を狙ってください}
エリクシルの助言に従い、ロランは素早く次の標的を狙う。
銃声が立て続けに響き、3体が倒れ、残りの1体が恐慌状態になる。
その隙にロランは樹上から飛び降り、最後の1体目掛けて駆け寄った。
コブルが気が付いて振り向く頃には、強烈な膂力をもったハンティングナイフの一撃が放たれた後だった。
ギシギシ……ヒュッカッ!
「ギュッ、ゴボゴボゴボゴボ……」
コブルたちはすべて制圧され、ロランは息を整えた。
《……やったな、成功だ》
{{お見事です。危うい場面もありましたが、落ち着きを取り戻し冷静に対処できましたね}}
《エリクシル、こんな的確なサポートができるんだな。今までこんな使い方はしたことはなかったけど……すげえな!》
{{はい。本来のわたしでは今回のように臨機応変な
《……制限の撤廃……ね。もうなんとでもなれ、だな》
{{あぁ、それと……。できれば"斥候"のジェムストーンだけでも回収して欲しいのですが}}
《……あぁ、一番嫌なもう一仕事が残っていたわけか。……大丈夫、しっかりと全部やれるさ》
ロランは無声通信が筒抜けだったことも制限の解除が理由だったのだなと納得しつつ、残った仕事に対処すべくコブルの"斥候"に近寄った。
コブルの"斥候"は他のよりも体表の色が浅黒く、隠密行動を主とする"斥候"らしさが伺える。
ロランはハンティングナイフナイフで胸部をくり抜いてジェムストーンを回収すると、コブルのフードでハンティングナイフとジェムストーンの血を
《普通のと比べて、"斥候"のジェムストーンもあんまり変わらないようにみえるな》
{{詳しく調べてみましょう}}
そして残りの4体も処理すると、"斥候"の短剣を回収して船へと戻る準備をした。
――――――――――――――
ニョム。
https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818093090328133731
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます