心の交流

024 すっぽんぽん★


 少女はそんなロランたちには目もくれず、巨大な船をみて口をポカンと開けている。


「■■■■■■■! ■■■■!」


 疲れているはずの少女も、興奮して声を上げる。

 ロランがハッチを開き、バイクを押し入れると、彼女がついてこないことに気づき、手招きする。


「ファァ~~~~!」


 少女はハッチをくぐり、見たことのない船内の内装に感嘆の声を上げた。

 ロランはバイクをラックに固定し、タラップを上がる。

 少女は好奇心に駆られ、船内をあちこち見回しながら後をついてくる。


 ロッカーに装備一式を置き、バッテリーを充電させたロランは、少女にバスルームを示して手振りで説明した。


「ここ、シャワー、入る、綺麗にする。オーケー?」


 ロランが頭と体を洗うジェスチャーを見せる。


「??? キャッキャ!」


 少女はロランのジェスチャーを見て笑うが、意味は理解していない様子だ。


「わかりやすいように実際に見せるか……」


 ロランはシャワーを起動させ、霧状の水で自らを濡らす。


「■■■■!」


 彼女はボロ布を着たままシャワーを浴び、ロランの様子を注意深く観察する。

 ロランが手で泡を受け止めて体を洗う様子に、彼女は興味津々だ。


 ロランが彼女の頭に泡を載せて洗うと、少女は嫌がって体をブルブルと震わせ、水飛沫を上げる。


「うわ、こいつ!」


 ロランは慌てて顔を拭おうとするが、その隙に少女は泡を掬って彼に投げつけた。


「うわっ!」


 彼の顔に泡が直撃し、少女はキャッキャと楽しそうに笑った。


 ロランも笑いながら、泡を使って自分の体を洗うと、少女もそれに倣う。

 バスルーム内でジャケットと強化服を脱いだロランを見て、少女もボロ布を脱ぎ捨てた。


「お前、すっぽんぽんじゃないか!」


 ロランが驚いたように声を上げるが、少女は気にせずシャワーを楽しんでいる。

 ロランは彼女の服を拾い、ガラス扉の外に投げつけると、アームがそれをキャッチして洗濯を始める。


 シャワーを終えたロランはエアジェットのスイッチを押して風を浴び、水滴を飛ばした。

 少女にも乾かすよう促すが、彼女は首を振って渋る。


「……いいから、乾かせって! 風邪ひくぞ」


 ロランはもう一度手招きするが、少女は首を振って拒否する。

 困ったロランはエアジェットを起動すると、半ば強引に少女を引っ張り寄せる。

 少女はガラス扉にしがみついて抵抗する。


「……そんなに嫌か!」

「ウギギギギギギギ!」


 少女が踏ん張って呻いている。

 ロランは少女が少し乾いたのを確認すると、少女を解放しエリクシルを呼んだ。


「……見違えたじゃねえか」


 ロランは汚れの落ち、綺麗さっぱりした少女を見ながら微笑んだ。

 少女は汚れと土埃で正確な色がわからなかったが、今では毛艶けづやを取り戻し薄茶色の短い体毛で、お腹などの柔らかい部分は白みがかっていた。


{傷の処置をしましょうか。傷には抗生物質の服用と抗炎症クリームの塗布がよろしいかと。服についてはロラン・ローグの服は合わないでしょうから、とりあえずバスローブは如何でしょうか。サイズが大きくても着られるはずです。またいらない服があれば加工台でサイズを調整することもできます}


 ロランは「その手があったか」と呟くと、エリクシルにサムズアップした。

 エリクシルがふふふと笑うと、アームを通じて薬品を手配する。


 傷の処置を終えたロランは少女にバスローブを手渡した。

 彼女は少しぎこちなくローブを羽織り、においを嗅いでいる。


「何をしているんだか」


 ロランは苦笑いしながら、彼女の様子を眺めた。

 その後、自分の古いシャツとオーバーオールを加工台に置き、エリクシルにサイズ調整を頼む。


「エリクシル、頼む」


 エリクシルは笑みを浮かべながら、アームを動かして服を調整し始める。

 ロランはその間に少女をキッチンへ連れて行き、マグカップにココアと抗生物質を入れて温かい飲み物を用意した。


「犬っころには温まるものがいいだろう」


 ココアの香りが漂う中、少女はマグを両手で受け取り鼻を近づける。

 ロランの真似をしてすぐに口をつけたが、熱さに驚いて小さく叫んだ。


「キャンッ! ■■■!」

「はははっ! これがほんとの犬舌ってやつか、初めて見た。くっくっく……」

{熱かったんですねえ}


 エリクシルが気付かぬうちにキッチンへと戻って少女の様子を見ていたようだ。

 2人が笑うと少女は恥ずかしそうに、ふーふーしている。


 甘くてほろ苦いココアが、彼女の心を少しずつ温める。

 目を閉じて、ほんのひと時、安心を感じるように息をつく。


 しかし、突然の安心感からか、彼女は肩を震わせ、大粒の涙をこぼし始めた。


「おいおい、大丈夫か?もう安心していいんだぜ」


 ロランは彼女の隣に座り、そっと背中を撫でる。

 少女は彼の温かい手に触れ、自分の小さな手でロランのシャツをぎゅっと掴む。


 ロランの心に、少しだけ痛みと温もりが交差する。彼女がどれだけの孤独と不安を抱えてきたのか、その涙から少しだけ感じ取った。


{緊張の糸が切れたのでしょうね。とても大変な目にあったわけですから……}

「頑張ったんだな……」


 しばらくすると、少女の涙も落ち着き、ようやく穏やかな表情を見せる。

 ロランはエリクシルに向かい、言語学習について相談した。


「エリクシル、ジェスチャーじゃ限界がある。何か良い案はないか?」

{『何?』という言葉を覚えさせていくと、会話がしやすくなりますよ}

「ああ、なるほど……。それでいろいろ質問して単語を集めるわけだな?」


 ロランが納得すると、エリクシルは急に教師のような姿勢をとり、真面目な顔でうなずいた。


{さあ、授業を始めましょう}


 エリクシルは女教師風の眼鏡をかけ、手に指し棒を持つ。

 その女教師風の衣装は魅力が溢れんばかりだ。


「………………」


 ロランはポカンと口を開けて見惚れている。


(すげえ、学校のセンコーみたいに色気あるな……)

{ありがとうございます}


 エリクシルは感謝を述べてクネッとするとモジモジして見せた。

 ロランはハッとして目をつぶる。


(邪念邪念邪念……!!)

{ジャネン……ですか?}

「忘れろ!」


 ロランは今度は少女に視線を戻した。

 少女はココアを飲み干し、幸せをじっくりと堪能し終えた様子だ。


 ロランは気を取り直し、少女にチョコバーを見せながら「これは『何だ?』」と問いかけた。

 少女はチョコバーを見て叫び、嬉しそうにかぶりついた。


 次にロランは、ボールペンを見せたが、少女は興味なさげに顔を背ける。


「これは興味ないか……」


 しかし、皿を見せると、少女は首をかしげながらも「■■?」と尋ねたような素振りを見せた。

 ロランは笑みを浮かべ、彼女の反応を見てうなずく。


「そうそう、それが『何?』ってことだ」

{上手くいったようですね!}


 少女もロランの真似をしながら「ナニ?」と口に出し始め、二人の間に小さな会話が生まれ始めた。


 ロランは次々と物を見せていくが、時間がたつにつれ、少女の興味が薄れてきた。


「グゥゥ~~~」


 少女のお腹が鳴り、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「ふふ、チョコバーしか食べてないもんな」

{そろそろ休憩にして夕ご飯にしては?}

「あぁ、そうだな!」


 ロランは笑いながら、夕食の準備を始めるのだった。


―――――――――――――――――

教師姿のエリクシルさん。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330667143880106

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