探索

012 周辺探索の準備★

 

「生き残りをかけたサバイバルってわけだ……故郷を思い出すな」


 ロランの口からこぼれたその言葉には、思ったほどの緊張感は漂わなかった。

 むしろ、未知の地を探検するという高揚感が、彼の心を支配しているようだった。


 彼はふと、父親との狩りの合間に行ったサバイバル訓練の数々を思い出す。

 元軍人であり、傭兵でもあった父から叩き込まれた、生き延びるための知識――水源の確保、シェルターの設営、火を起こして暖を取る重要性――それらが彼の中で今も生きていた。


「よし、そうと決まればさっそく準備だ」


 ロランは手早く荷造りを始める。

 ロッカーに向かい、ジャンプスーツの下に予備の強化服を着込み、バックパックにはショットガンのシェルや医療キット、簡易サバイバルキット、情報収集用のセンサーを詰め込んでいく。

 さらに、周囲の観測所を建てるための資材キットや、強化服とセンサー用のバッテリーもパラコードでバックパックに固定した。


 食料庫では、栄養機能食品のチョコバーを6つと浄水ボトルを3本手に取り、それらもすべてバックパックに収めた。

 そして、忘れ物がないか確認しつつ、自室へと戻った。


 ベッドの横に置かれた金属製の小箱を開けると、中にはサバイバルナイフが収められていた。

 それは、ロランが初めて狩りで獲物を仕留めた時、父親から贈られたものだった。

 手入れの行き届いたそのナイフは柄が深い赤茶色のバーバルウッドで作られ、青白く光るコバルト合金の刀身は、錆に強く耐摩耗性に優れている。

 ロランは刀身を照明にかざし、その輝きを確かめた後、ナイフを鞘に収め、ベルトにしっかりと装着した。


「あれも持っていこう!」


 ロランは再びロッカールームに向かい、大きな鞘に納められたハンティングナイフを取り出した。

 カーボンスチールとチタンの合金で作られたそのナイフは、まるで鉈のように大ぶりで、25センチの刃渡りが圧倒的な存在感を放っている。

 彼はそれをバックパックに固定し、反対側にはショットガンベルバリン 888を取り付けた。


 装備を整え終えたロランは、ハッチへと向かう。

 そこにはオフロードバイクや工具がネットで固定されている。


「お前はまた今度な」


 彼はオフロードバイクを撫でた。

 鬱蒼とした森ではバイクでの移動は難しいと判断したためだ。


{準備はお済みですか?}


 ロランが振り返ると、そこにはまるで古典的な探検映画の一シーンから抜け出してきたかのような姿のエリクシルが立っていた。

 彼女は探検家そのものの装いで、ピスヘルメットに強力なフラッシュライトを備え、最高級のレザーで作られたジャケットとベルトが、過酷な旅路にも耐える質感を漂わせていた。


 モデルのように歩き、ロランへと近寄るエリクシル。


{似合っていますか?}


 ロランは、エリクシルの洗練されたスタイルに一瞬見とれてしまった。

 彼女の装備はまるでアクセサリーのようにその美しさを際立たせ、どこか人工的でありながら、彼女の動きには不思議なほど人間らしい優雅さがあった。


 ロランはそんな魅力あふれるエリクシルの姿にトキメキを隠せない。

 しかし悠長にランウェイを観賞している場合ではないのだ。


「森に行くのに、そのパンツはな……」


 咄嗟に言葉が口をつく。


{長ズボンが好みですか?}


 その見当違いな返答に、ロランは少し呆れながらも、言葉を詰まらせる。

 「そうじゃねー……」と口を濁しつつも、彼は2秒ほど考えた後、笑顔で答えた。


「探検家って感じで良いと思うぜ!」

{えへっ}


 エリクシルは小さく笑い、照れくさそうに頭を傾けた。

 その仕草は驚くほど自然で、まるで本物の人間のようだ。

 ロランは、感情を持ったAIがこんなにも人間らしい振る舞いを身に付けていることに、少なからず驚きを感じたが、同時にこう思った。


(あざとすぎる……でも可愛いから気にしないことにしよう!)


 ロランの計画考えは、まず見晴らしの良い小山に簡易観測所を建て、そこにセンサーを設置することから始まる。

 このセンサーを利用して、船のスキャン範囲を増幅させる予定だ。

 そしてこれを腕輪型端末とリンクさせることで、センサーの範囲内ではARのマーキング機能を活用して索敵などが行えるようになる。


「現在時刻、14時。日暮れ前には戻るぞ」


 彼は時計を確認し、エリクシルと共にタイム・ハックを合わせる。


{タイマーを18時、日没にセットしました}


 ガガガ、グォォオンオンオン

 ロランはスイッチを押してハッチを開けると、ハッチの隙間から差し込む日差しを感じる。

 ショットガンベルバリン 888の銃口をやや下に向けて腰を低く構え、周囲を警戒しながら焦げた匂いに気が付いた。


「燃え尽きたか?」


 少し離れた場所の窪地で、以前は死体だったものが黒焦げになり、燻っている。

 ロランは呟きながら近づくとその周りの土を足で覆って蓋をした。


「後始末は入念に……」 


 そしてハンティングナイフを左手に持ち、山がある方向へ進み、茂みを切り開きながら森の中へと入っていった。


―――――――――

散弾銃の企業ロゴです。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16817330665447862301

エリクシルさんの探検家衣装。

https://kakuyomu.jp/users/PonnyApp/news/16818023212255743799

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